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魔法戦士と聖戦士と魔女  作者: 慶天
1章 盗賊と騎士またはアインフォードとキャロット
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プロローグ:ヴァルト村の異邦人

初めて小説というものに挑戦してみました。ご意見いただけると幸いです。

「よう!アインじゃねーか。」

 農作業をしていた男性が手を挙げて気さくに挨拶をする。

 手を挙げた男の先には背中に大きな猪を背負った青年と妙齢の女性が村に向かって歩いてきていた。

 「ヨーゼフさん、こんにちは。」

 訛りのある言葉で青年は挨拶を返した。

 

 奇妙は兄妹が村に訪れるようになって3か月になる。兄の方は見た目20代半ばだろうか。名をアインフォードといい、長い金髪に青い目で細身ではあるがしっかりと鍛えられた体躯をしていた。妹はキャロットという。同じく長いストレートな金髪を背中まで伸ばしていた。こちらは碧眼だ。どちらも美男美女と言って良い顔立ちで、これが夫婦といわれたならお似合いといったところだろう。そして小さなドラゴンをペットとして飼っている。いつもキャロット嬢の肩に止まり「クルル」と鳴いていた。

 彼らは大森林の外れに暮らしながら、狩人として生計を立てている。2,3日ごとに獲物をこの村に持ち込んでは生活必需品と交換していった。

 

 「こんにちは。きょうもよろしくおねがいします。」

 まだ少し怪しいイントネーションでアインフォードはそう言いながら村長の家に向かっていった。

 

 奇妙というのは、どうやら異国からやってきたらしくこのあたりの言葉がわからなかった。こんな田舎の村になぜ異国の人がやってくるのだろうか?なぜ大森林の外縁などという危険なところに住んでいるのだろうか?そこはいつ誰が聞いてもはぐらかされてしまうのだ。

 しかも兄妹だと本人たちは言っているが村の人たちにはそういうふうには見えなかった。キャロット嬢はお付の従者といった雰囲気があり、常に一歩引いてアインフォードに付き従っていた。そのおかげでアインフォードという男性は亡国の王子様なのではないか?などと村の奥様方に井戸端の話題を提供していたのであった。

 

 最初は身振り手振りでなんとか意思の疎通を図っていたのだが、村に訪れるようになってから3ヶ月、片言ながらなんとか会話は成立するようになってきた。最近では村の子供達とも馴染んできて子供たちもなついている。村の若い男衆は見目麗しいキャロット嬢に懸想しているものも多い。果敢にもキャロット嬢に話しかけていったものもいるが、色よい返事をもらえたものは未だいないようである。

 また彼らが持ってくる獲物は村では貴重な食肉として歓迎されてもいる。数日に一度やってくる彼らはすでに村に必要な人材と言えるほどになっていた。

 

 ヴァルト村の村長トーマスは45歳。畑仕事で鍛えられがっしりとした体格に口髭を生やした壮年の男性だ。婦人との仲も良く、村人からの信頼も篤かった。

 トーマスはこの兄妹、アインフォードとキャロットを気に入っていた。自身の息子もそれくらいの年になる。もっとも3年前に戦争に取られてまだ帰ってきていない。一緒に兵役に出征した村の若者は帰ってきているから、戦死したなら知らせが来るはずだ。そのまま街に居ついたのだろうか。街の暮らしに憧れて兵役の後戻らないといった話は珍しいわけでもなかった。

 

 ジークルーン帝国とシャルフェン王国の戦争は約100年前より続いている。もはや直接の原因がどういったことだったか曖昧になってきているが、領土の奪い合いが主な目的であるため、当初の理由などはどちらにしても大きな意味を持っていなかった。どちら側も大儀が自分にあると主張する根拠はいくらでも作り出すことができたのだ。

 主な戦場になっているのはアウレール平原である。その領有権をめぐって時に本格的に大規模戦争を行い、また時に小競り合いだけを数年繰り返していた。

 そしてアウレール平原の領有権が一部、または全部が王国領であったり帝国領であったりしたのだ。

 アウレール平原がなぜそれほど重要視されるかといえば、その中央に岩塩鉱山があるためである。塩は人間にとって最も重要な物質の一つである。海から遠いこの地において岩塩は貴重な産物であり、十分戦争の原因になりうるのだ。

 その戦争は現在も続いているが、3年前の第23次エッカルト台地の戦いで一応の停戦を迎えている。


 「なぁアンナ。どうにかしてアイン君たちを村に向かえる方法はないものかな。」

 トーマスは件の兄妹の気さくな態度や子供に対する優しげな目、村の手伝いを率先して行ってくれることなどから、できれば村に迎え入れたいとも考えていた。

 「そりゃ、あたしもあの子らは気に入ってるがねぇ。もうすぐ徴税官が来る頃だろ?」

 村の人口や作物の取れ高は税に直結する。そのため迂闊によそ者を住人に加えた場合重い税や賦役を強いられる可能性があるのだ。それでなくとも彼らはおそらく異国人、間違いなくトラブルになるだろう。この村は決して裕福ではない。いや、裕福という言葉すら意味がわからないかもしれない。裕福であったことがないから。ただ日々を暮らすのみであるが、彼らはそれを不幸とは思わない。それが当たり前のことだからだ。

 冬を迎えるころには村に向かえられるといいのだけれど。トーマスはそう呟いた。

 

 ヴァルト村の人口は約100人。20世帯程が麦の生産を行っている、このあたりの村としては平均的な規模の村だ。ただ、ほかの村と違うことは、リーベルト伯爵領の辺境に位置し、人類の生存限界域である大森林にもっとも近い村であるという事である。

 近いといっても大森林までは徒歩で1日かかる。しかし野生の獣や時には危険な猛獣が村に姿を現すこともあり、近くでそういった獣が目撃された場合は近隣の都市ヘルツォーゲンの冒険者ギルドに討伐依頼を出していた。

 かつて森からオウルベアが彷徨いでて、何人も被害者を出したことがある。村人たちはいったん村から全員で避難し冒険者が退治してくれるまで隣村でキャンプ生活を送ったのだ。

 その時は優秀な冒険者が依頼を受けてくれたからよかったものの、下手に駆け出しの冒険者や実力をわきまえない者たちが依頼を受けたなら、彼らの避難生活はもっと長いものになっていただろう。

 

 この世界、一般的な税は主に人頭税である。大人だろうが子供だろうが、年齢によって金額は違うが家族の人数、村の人数によって税額が決まっている。また村には村落税がかけられており、賦役に人を出すか作物、もしくは現金での納税が義務付けられている。

 封建社会の常として住民は納税の義務があるに対し、支配者は庇護を与える義務がある。盗賊や飢饉、または猛獣などの外敵が現れた時には兵士を派遣し、食料を輸送して村を守る義務があるのだ。しかし、領主が地方の村にまで細かく庇護を与えることは稀である。通常村には代官とも言える村長を配置し、徴税官を年に一度派遣するのみである。徴税官の人間性にもよるがそこには不正がはびこり、本来の税額以上に徴税し、私腹を肥やす者も珍しくはない。もちろん警察機構が田舎の村々に存在するわけもないのでそういった腐敗を取り締まることはないのだ。

基本的に愚民化政策がとられているので民衆が知識を得る機会は少なく識字率も低い。不正が行われている事にすら気がついていないことが大半である。

 また害獣や盗賊から身を守る組織もないので村々で自警団を組織し最低限の防衛をしているのが現状であり、当たり前のことであった。

 しかし、盗賊が現れてから領主に救援を要請しても間に合うはずもなく、戦士団がやってきてもそれは事後処理のためである。それゆえ盗賊団も村を根こそぎ略奪するという事は少ない。定期的にやってきて村が滅びない程度の略奪をしていくのである。

 ・・・今まではそうだった。

 

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