『バッドラック』
戦場では予期せぬ事が起こるものである。
AT25‐2233 ヤマダ
カッッ ドッォォォオオオオーー
蒼い空の下。自爆に伴い盛大に広がる大輪の真っ赤な爆炎と真っ黒い煤煙を撒き散らし、ヤマダの機体は散華を遂げた。
・・・その背後から、鈍く銀に光る、戦機の握りこぶし大の八角柱(BBシェルター)が空を滑るように飛翔していく。
【 自爆:
一口に自爆と言っても、多少の種別がある。
大別すれば「機構・情報などを奪取されないための爆破焼却」と「爆発して敵に被害を与える為のもの」である。
前者は機密部位や重要部品に高カロリーナパームや高性能爆薬を組み込んだり、確実性を増すため手の込んだものが多い。
一方後者はまさしく万人の思い浮かべる自爆である。だが基本的には、戦機が専用の爆薬を積んでいるわけではない。(ただし、特殊用途の機体ならば専用の爆薬を積むこともある)
この場合の自爆とは、手持ちの武器・弾薬、燃料及び推進剤、果ては緊急冷却用の液体ヘリウムタンクまで、ありとあらゆる危険物を任意で爆破するための手順、又は装置の総称である。
現在では残弾薬の効果的な配置と点火タイミング、燃料及び推進剤の効率的な配合や高圧ガス類の解放順、破壊から撹乱まで、全ての手順は既存のシステム上に組み込まれており、自爆に際して綿密な準備も装置も必要ないが、弾薬も推進剤も燃料も全ては戦闘中に消費されるため、威力の正確さには欠ける問題はある。
今でも2種の自爆は様々なシーンで用いられ、両種の自爆は全ての戦機に取り入れられ使用されている。
そんな自爆手順の開発に多大な貢献を残し、実機演習中に謎の自爆を遂げた、かの名高い I22-2222ツインムスタング氏曰く。
「戦機の電脳内には『触るな危険』の飾り文字と、デッカイ1つの赤いボタンがピカピカと光って浮かんでいる。このボタンを押す誘惑には、何物も抗いがたい -以降検閲済み- 爆発音 」
とのことである。】
「だーーーっ、しゅつ成功できたんか・・・!? よっしゃ、システムチェック開始、FCSにECM・・・って無いんか、」
ほんの一瞬の軽い混乱(プラグアウト症候群:大電脳網集積などと急に切り離された際の、思考速度と思考容量の低下によって引き起こされる、感覚剥離状態である)の後、ヤマダはシェルターの機能を把握する。
曲がりなりにも戦機の中枢、知恵持つ電脳網集積【BB】を退避させるシステムであるからには、当然毎周期ごとに更新され、より良いものに刷新され続けてはいる・・・のだが。
如何せん戦機が戦力外に回せる重量は微々たるもの。BBシェルターの持つ外部への出力は、軽さだけが売りの『MSa-馬淵-ホ三五六』モーターと、コンパクトで省電力『eLeison-sims4800n1』レーダーの弱々しい電波だけという、非常に侘しいものであった。
手も足も出せないとはこの事。弾丸驟雨を潜り抜けてきた歴戦の戦機であるヤマダとしては、心細いことこの上ない。
「うわぁ・・・・って、いや・・・これ以上の追撃はされんから、この棺桶でもなんも問題はないんか」
実のところ【実機演習】では、自爆した時点で『戦機の実機演習における統合物理演算上の評価』は終了し、機体は『戦術的価値無し』と判定され、敵機のあらゆるターゲットから除外される。(しかし射線上であれば巻き込まれ、邪魔であれば遠慮なく蹴散らされるため、脱出が安易な選択という訳ではない)
まあこれがシミュレーション演習であれば、容赦なく破壊されもするのだが。実機演習でそこまでした場合、未帰還機が出る可能性が高い。というか太古の実機演習では被害が続出し、そのせいで今の方式に変更されたらしい。資源の無駄遣いが改められたのは、誠に喜ばしいことで・・・
ドォオン
そこまでヤマダの思考が及んだ所で、軽い爆圧がシェルターを揺らす。
意識を向けた解像度の荒いレーダーからは、ミサイル(送り狼)の光点が消えている。
「あー、標的をロストしたから自爆したんか」
ヤマダとしては直近にあった爆発物が処理されたのは非常に嬉しい。これで万難排除、安全圏までの道のりは赤茶けて乾燥した地面と無闇矢鱈に蒼い空以外、敵も味方も存在しない。
ヤマダの実機演習は、これにて終了したのである。
ドガァッッ ゴーーーーン!
「ぐっわぁおぉおおおおおおおおおおおおお!? 」
絶叫。
【幕間】
『ヤマダ』という目標喪失による、自爆機構が働いたF/T-lt-はwk4(中型対機体ミサイル)は、自爆機構としては後者、内部炸薬の利用による自爆を行ったのだが。
実機演習用ミサイルは全て弱装弾である。
炸薬量は花火とたいして変わらない。
・・・・・・そのために。
実戦では内蔵された炸薬により、微塵となる筈だったその躯体は、しかし一枚の安定翼とその付け根の3割ほどが、おおよその形状を保ったまま急激な縦回転と加速を加えられ、アイスラッガー(注:1)よろしく()。
そしてその銀色の翼は大気を割って、AT25‐2233 ヤマダの【BB】を収めたシェルターユニットへと向かい、両者は運命に導かれるように激突したのであった!
(注:1)
『珍兵器百景』の上位に軒を連ねる兵器である。
電磁誘導投擲刃が正式名称であり、アイスラッガー(大打者)は愛称。ビームカッターなどの、近距離で威力が最大に発揮される兵装を有効活用するため、ビームカッターに誘導性をもたせよう、としたのが始まりであるとされる。
回転力で安定性を持たせる設計であったが、そのせいでビーム粒子の収束が難しく、「いっそのこと」とビーム機構を取っ払い誘導性を高めた物理刃が出来上がることとなった。
誘導性を高めるために本体側に機構が必要となることと、物理刃ではやはり威力も乏しいことが相まって、「従来の誘導システムが使え、威力も高いミサイルで何が悪いのか」という当然の裁定によりお蔵入りとなった珍兵機である。
並行開発されたものに「ミサイルの先にビームカッターを付けてブッ刺す」といった代物もある。
これも同様に「ミサイルで何が悪いの?」と言われる珍兵器となっているが、何故か途中からビームから物理刃になってしまったアイスラッガーこそが、この種の兵器の中で最も有名である。
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