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SF『自己鍛造弾頭』  作者: 壱りっとる
第五章『実機演習』
35/36

『ブロークンアロー』

長い時間がかかったというか、時間がない~。

AT25‐2233 ヤマダ



 戦場を離れ、ヤマダは空を飛んでいた。


 さんさんと金色に輝く太陽が照りつける。デジタルMAPに表示された何処までも抜けるような蒼い空の下であった。



 そこから遡って、約12秒ほど前。


 実弾代わりにバカみたいに投入された妨害煙が朦々と立ち込めるビル街を、デジタルMAPと近接レーダー頼りにブッ飛んでいたヤマダは、『閉鎖戦用可変6脚』などという都市伝説となるほどに珍妙な機種による卑劣な不意打ちを喰らい、なんとか撃墜は免れたものの戦闘継続不能となった。


 万事休す・・・と思われたが、天はまだヤマダを見捨ててはいなかった。


 いまだに線・磁・波いずれのセンサー類でも10m先を見通すことすら難しい視界に加え、敵が戦力の大規模展開を手控えていたことも幸いしたのである。


 お陰でヤマダが火急の問題箇所(スラスター・バインダー・ジャイロ・空力特性・電力伝達系等)をオミットして迂回してカットして・・・場当たり的なダメコン(ダメージコントロール)を乱打してプランB(逃走)に移行するだけの時間が確保されたのである。


 ・・・ここで冒頭となる。



「お、診断プログラムからのレポートが上がったんかいな、っと。どうせ赤点ばっかりやろうし見てもしゃーないと思うんやがなぁ・・・」


 ズッヴォーーー ゴァァァァァァァァーーーーー


 抜けるような青い空の下。


 創業以来洗ってない老舗工房の錆だらけの換気扇のごとき風切り音を立てながら超低空飛行するヤマダの電脳内掲示板に、『最重要』と金色の縁取りでピカピカ点滅するどでかい飾り文字の付いたレポートが貼り付けられた。表紙を透けて真っ赤な光が漏れ出るレポートは、見るだに不吉である。


 (南無さん)


 ヤマダは心の中でノートン神に祈りを捧げる。


 悲惨な内容を予想してビビったが(このざまでは3秒後に爆散すると書いてあっても不思議ではない)、即座に戦機の本能メインプログラムが怖気づく【知性】を抑制、ヤマダは怖いもの見たさと恐怖が入り交じった不思議な感情でレポートを読み始める。


「・・・左腕下部切断。左胴全損。左・右脚部全失調。左側のスラスターの7割に問題。胸部装甲及び両脚部爆破分離失敗。左半身センサーからのpinが帰ってこないってなんじゃーい? ええい、このファッキン診断プログラムめ。ケツから手ぇ突っ込んでドップラーセンサーモジュールガタガタ言わせたんぞー!?」


 診断プログラムにケツの穴は無い。


 ヤマダは抑えきれず叫んだが、ちょっと恐怖が抑制されすぎて逆に神経が興奮状態となっているだけである。しかしそれほどにシステム診断の結果は惨憺たるものであった。


 左前脇腹から入ったビームソードが左胴中央付近を通って、背面左腰部までを溶断していた。脊椎柱から伸びた中枢神経群の4割と、胴部ジャイロと動力伝達系も両断され、機体はショックで機能不全を起こし、一時は墜落も有り得る状態である。


 しかしあと数センチ深ければ神経系切断による失調からの墜落だったし、もう少し上ならば(本来はここが狙いだった筈だ)融合炉が両断されていた。現状でも僥倖であったのだ。


 あんな馬鹿でっかいビームソードで切りつけられておいて、即爆散しなかったのは・・・運もあるが、やはりアビゲイル嬢が配備したB型反応装甲リアクティブアーマー(注)のお陰であろう。


(注:『ボーグ9』製。売れ残りのためアタッチメントの規格が古い)



「いやしかし。B型反応装甲の上から致命傷って・・・どないしたらそんなんできるんや? 恐るべくは伝説の珍獣やで・・・」


 B型反応装甲はビーム粒子を指向性炸薬で吹き飛ばし散らす(ビーム粒子は高エネルギーだが軽い)と共に、炸裂させた対ビーム反射・散乱剤で粒子の熱量を吸い取り・乱反射して威力を殺し、同時にセンサー類を撹乱し、敵機FCSによる焦点照準認識も阻害する。


 当然、B型反応装甲リアクティブアーマーの爆発した衝撃で六本足の振るったビームソードの刃先は散乱して収束せず、阻害粒子でFCSによる自動焦点誘導はエラーの嵐を吐き出していたはずだ。


 だがしかし。


 あの六本脚の機体は、それらの障害を刹那で見切り・・・散乱するビーム粒子と十軸焦点のFCS照準をカットし、電脳網集積の経験蓄積を通した”完全手動照準補正”いわゆる『勘』で処理し切って・・・B型反応装甲を貫き通し、ヤマダを切り伏せたのだ。


 よもや容易いことでは有り得ない。


 どれほどビームソードを実戦で振り続けたらそうなるのか。


「もっと他の武器も使え」と小一時間説教したい。


 しかし流石に100%狙い通りには刃を通しきれなかったのだろう。融合炉が両断されなかったのは、やはりB型反応装甲様のお陰である。



------------------------------


 【B型反応装甲(耐ビームリアクティブアーマー)


 反応装甲とは。装甲そのものが爆発し、その衝撃で弾頭を破砕、もしくは弾くなどして弾頭の威力を軽減するものとされる。実際には、APFSDS(侵徹弾頭)やHEAT(成形炸薬弾)系統など、衝撃に弱い弾頭を特に専門とする装甲である。


 その運用上で、ビーム兵器相手にも一定の効果があることが分かり、結果として耐ビーム用途での反応装甲が研究されることとなった。


 性能としては従来の対ビームコーティング・追加対ビーム装甲などを凌駕し、基本である対実弾能力も有しており、「追加装甲の類では100周期に1度の出来!」として持て囃されることとなった・・・のだが。


 その間に、従来から重視されていた対ビームコーティングの技術が日進月歩、長足の進化を遂げてしまったのである。


 吸収層・反応層・反射層(大熱量を吸収する1層目、ビームに反応し爆発・持続的に膨張しビーム粒子を弾く2層目、爆発に便乗しバラ撒かれ波長としての熱を乱反射させる3層目。そもそも反応装甲のテクノロジーも取り入れられている)を組み合わせた新しいコーティング技術の確立と、複合装甲自身の耐ビーム性能の向上もあり、ゴッテリと、そしてミッチリと塗られたぶ厚い対ビームコーティングは、距離を取って放たれたビーム砲のほぼ直撃(一発ぐらいならば)のエネルギーを吸収・蒸散し、熱量を受け流すことも可能となった。


 更に反応装甲は対ビームコーティングと組み合わせて使うには干渉が多く、追加装甲による重量増加と運動性の低下もあり「どっちにしろ一発耐えられるかどうかなら、素早く動ける方が良いに決まっている」と耐ビーム反応装甲は現代では斜陽の装甲となっている。


 今も反応装甲は、多重反応式や電磁反応式などの開発が細々と行われているが、こと耐ビームに於いては、めぼしい成果は挙げられていない。】


------------------------------ 



「・・・反応装甲リアクティブアーマーで助かったのは良いんやが。脚が全然外れんぞーっ! デジタルは経路障害、アナログは点火線断線。こいつは・・・なんとかならんのかーい!?」


 ヤマダは脱兎の勢いで逃亡中である。だのに下半身が完璧パーフェクトに動かない。


 下半身に三系統(正・副・予備)存在する神経網からは、pin値を求められるほどのpinすら戻らない。それらデジタルなものとは別の化学反応式の強制爆破分離パージ指示も不発に終わった。


 下半身のスラスターも当然動かないし、機械的な姿勢変更も禄にできない。このように下半身は絶賛デッドウェイトとなり果てており、ヤマダは『ケツに帆を立てて風上に漕ぎ出す』ような、空力学に喧嘩を売った状態での飛行中である。


強制爆破分離パージが無理なら、自力で切断なりすりゃえーんだが・・・」


 しかし既に墜落寸前のヤマダには、そんな事をやっている余裕はない。


 失速しかけの戦機が更にモタモタし始めれば、どんなに手出しを控えてるザル警備でも、ミサイルの1発ぐらいは撃ち込みたくもなるかもしれない。


 ヤマダが撃墜されかけた時点から約10秒。未だ時間的にも距離的にも戦闘圏内である。悠長にビームカッターを取り出して、下半身の切り離し作業なんぞやっていい場所でもない。


 そもそもヤマダは「あーでもないこーでもない」と、緊急システムKILLされた神経やらエネルギー伝達系やら燃料系やらを復活させるための迂回路の最適解を電脳網の中に巡らせながら、飛んでるだけでもめっけもんの機体をちょっとでもマシな角度に変更し続け、多少なりとも空気抵抗を減らそうとする涙ぐましい努力を行っている最中である。とにかく暇がない。


 ズッヴァン ズッヴァン ズヴァァァ オォオオーーーーーーーーーーー


「しっかし、こんな傾いてて大丈夫なんかこれ・・・?」


 ヤマダが各種設定を見直す度に機体が少し傾き、機体が少し傾く度に,

全身の破損パーツが引き起こす乱れた気流が機体を鳴らす。


 物理ジャイロは調子が悪かったので再起動中。

 燃料計は信用出来ない数値エラー。穴が空いたの凹んだのか、はたまたその両方か。

 スラスター・・・は、推力比から推算するに、入力に対する返答がない。推進剤漏れはちゃんと封鎖されたっぽい。


「一応最後まで飛べそうやな。有り難いことやでほんまに」 


 無事に帰れれば電板に、この遭遇についての記事を書き込もう。タイトルは『伝説の珍獣は本当に存在した! 閉鎖戦用可変6脚、その生態に迫る!!』だ。【電磁波weakend】(ニュース系サイト。都市伝説なども多く扱う。面白ニュースがメインコンテンツ)に上げれば一攫千金を狙えるやもしれんな。



  ケーン♪ ケーン♪ ケーン♪ ケーン♪ ケーン♪



 雉も鳴かずば撃たれまい。(太古の昔の由緒あるロックオンアラートらである。ヤマダ会で発掘された)


 和やかに現実逃避していたヤマダの電脳内に、ロックオンアラートが甲高く響き渡った。この音はミサイルの類。


「らしぇぇえい!? 戦闘員数外の機体にまで手は出さんと思ったんやが・・・やっぱり甘かったか。あー・・・アラームカット。もー撃破扱いでいいだろーがい!」


 ヤマダも状態が良く分かっているだけに、悪態から諦観までは一息飛びである。 


 ミサイルの直撃は僅かとはいえ【BB】が破損する危険があるので当然避けたい。


 と言うかできれば速攻でリタイヤしたい。・・・だがそれを『戦場評定機会』に”戦闘放棄”と受け取られるのもヤバイのである。


 電脳網集積の繊維の一本一本。その分子構造配列までを調べられた後、エラーの原因が分かるまでシミュレーターに繋がれて分析され、記憶領域を延々と弄り回され、繰り返す悪夢を見ることとなるであろう。


「ダメージシミュを誤魔化してこそっと回避機動とったらどないや・・・不味いかなぁ。不味いよなぁ」


  確かに現状では瀕死のヤマダも、シミュレーションエンジンから戦機の電脳網を切り離せれば、安全な回避機動ぐらい取れる筈である。


 しかしヤマダも口に出してみたものの、これも”戦闘放棄”と同じぐらい不味い。


 やるとすればプログラム的にフィルタリングを迂回したり(ヤマダは電子戦機でもないのですぐバレるだろうが)、事前に潜ませた内線で光学センサーや電磁センサー類からの一次データを取り出せばいい(これは今からでは時間がないし、そのデータを確認する電脳網の問題は言うまでもない)。


 これらも発覚すれば戦闘放棄に匹敵する(又はより重い)ペナルティが課され、ヤマダの命はない。やはり本末転倒である。


 とどのつまり。


「・・・ま、まあそこまでせんでもええか・・・どうせ弱装弾頭のミサイルが当たった所で【BB】が破損する可能性は低いし・・・・・・となれば出せるだけの出力で回避してミサイルをちょっと引っ張って、直前で自爆を隠れ蓑に脱出・・・あー、結局は定石オーソドックス通りか」


 ヤマダも電脳内で色々試行錯誤してみたが『藪をつついてヘビーになる』との諺通り、余計なことをすれば事態は悪化する。


 『定石オーソドックスは思考の墓場』と悪く言うものもいるが、正しくは【思考を尽くした終着点として存在する】から墓場なのだ。そこで思考を停止させるから【墓場】なのではない。


 意見は纏まった。


 眼前はだだっぴろい平地が埋め尽くしている。これなら脱出したBBユニットが破損するようなことはないだろう。


 レーダーグリッド上を惚れ惚れする速度で飛来する迎撃ミサイルが標的ヤマダに喰い付くまであと10秒。



「では壊れない程度にフルスロットルでいくでぇ・・・」


 メキメキメキ とか ブチブチブチ とか。危険な振動が聞こえてくるが、脱出までのほんの数秒持てば良いのである。


 右、左、アップサイドダウン。通り一遍の回避軌道をやって記録に残し、ミサイルの気を引き付けて自爆シークエンスを開始する。ほぼ同時にBBユニットの脱出スタート。


 シミュレーションでは何度も行った手順だ。だがそういえば、実機で行ったことは・・・・・・、 



 衝撃。






 XXXXX(注:1)



 キィーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 


 遠くに平たく薄く消えていく都市を尻目に甲高い音を後に引き、広大な茶けた砂地を行く白銀の飛翔体。


 それは爆発的な勢いで獲物に食らいつく鋼の猛禽である。

 その目は電磁スペクトルの波を捕らえ、その羽根は大気を自在に切り抜いて、狙った獲物を逃さない。


 狩人の手から放たれれば、自らが力尽きるか、獲物が力尽きるかでしか止まることのない孤高スタンド・アローンの鷹。


 それは今一機の機体を見据えている。

 大した機動もしない。推力も乏しい。それどころか今にも落ちそうな印象すら受ける。


「!」

 

 獲物が鷹に気づき速度を上げる。


 鷹は爪嘴を剥き出し、全精力をブースター(つばさ)に注ぎ込み地面との境にある濃い空気に飛び乗り大地を横滑り。地面に長く白い爪痕を立てて、鷹は獲物の喉元に迫る。


 ラインAE-25:超低空。


(対迎撃機動パターン25。遮蔽も高低差も少ない場所で、敵機の迎撃を避けながら接近する戦闘機動。大地とのレーダー波干渉と迎撃点の取り辛さから、古来より存在する回避機動である)

 

 獲物まであと数マイル。


 しかし迎撃はこない。弱った獲物にはそれだけの体力も残されていないらしい。


 もはや獲物に逃れるすべはなく、今まさに鷹の爪嘴にかかる・・・直前。


 ドッ   ゴォォォォォォオオオオオオン


 耳を伏せ、目を急速にすぼめ、八の字に旋回し爆発を避ける。一瞬後に甲高い鳴き声を上げ、見失った獲物を必死に探す。

 

 だが今其処を飛んでいた獲物は、いない。


「?」


 困った。


 獲物を見失った猟犬は飼い主のもとへ戻る。だが、途中で獲物が消えた鷹はどうしたら良いのだろうか。


 敵に当たれば自分は消えて、自分が外れれば敵は残る。これが定めだ。当たる前に敵が消えてしまう。そんな不条理なことがあるなら、そもそも自分が放たれる必要がない。


 存在理由が失われてしまう。


 ほんの数瞬、機械仕掛けの猛禽は惰性で滑空しながら悩む。


 困惑する鷹のメインAIの傍らで、独立した小さなサブルーチンも目標の消失を確認した。サブルーチンは淡々と目標ロスト時の所定の手順を完遂する。


 自爆装置が作動する。


「そうか」


 獲物が消えたのなら、やはり鷹も消えるのだ。存在理由レーゾンデートルは失われてしまったのだから。




【注:1 

F/T-lt-はwk4:フラット/トランジスター社製(コンパクトスイッチの意味)ltラージタイプ(据え置き・大型機用)、はwk=hawk ホークの文字化けである。この会社のネーム部分は全て文字化け。創業一発目のたぉs=talosの登録失敗以来(しかし『たぉs』は大ヒットした)の伝統となっている。ホークシリーズはロングレンジ地対空ミサイル。性能は上の下。】



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