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SF『自己鍛造弾頭』  作者: 壱りっとる
第五章『実機演習』
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『ボウ&アロー』

一撃必殺ロボザムライ


閉鎖戦用可変6脚:CQC10シリーズ概要


【大型火器の使用が危ぶまれる、重要施設内部での近衛防衛戦力ガーズとして設計された。

 閉鎖空間での近接戦闘に特化しており、”特定状況下”では、他の汎用戦機の追随を許さないスペックを誇る。



勝手な注釈:(が、しかし。そんな特殊な状況での戦闘が、マニュピレーターの指の数ほども存在するわけもない。

 従って戦機の中でもコレと交戦した経験を持つものは皆無に近く、極めてレアな機種として逆に有名で、都市伝説にもなっている。伝説によれば、見つけると幸運が訪れるらしい。)



 機体サイズはS。


 高速・隠蔽性を旨とするS型においてもなお軽量化の極みであり、最軽量の高速偵察機体に準ずる。



 特筆すべき点はその脚部構造。


 閉鎖戦用可変6脚機CQC10の可変6脚機構は、一般的な機体では脚部構造のアブソーバーとして一部にしか組み込まれない電磁流体回生サスペンション(MHDRS)の塊である。


 これは標準機動や安定性能を二の次に、『反動の吸収』と『貯めこんだエネルギーの解放』を追求した結果であり、様々な状況を想定せざるを得ず、安定・走破・積載性のバランスを求める一般的な多脚機の脚部とは、機構・構造共に一線を画した設計となっている。



 もう一つの特筆すべき点は腕部構造。


 増強されたエネルギー系に大口径パイプで直結された専用の固定武装、ZZ-LWA-ex7十束とつか(10軸焦点全周囲可動収束型高出力ビームソード)を腕部に備え・・・というよりも、腕部と骨格系そのものが、十束とその専用支持架である。これにより近接領域において、その機体重量に比せぬ破壊力を持つことに成功している。



 次に問題点として、重量低減とその特殊性のために耐久性と整備性は低い。

 機体運用上、メインスラスターは重量比での瞬間推力に優れるが巡航性能は劣り、継戦能力も乏しい。


 その他、換装しての汎用兵器運用も設計視野には入っておらず(無理をすれば出来なくはないが)、本体性能と仕様可能戦闘パッケージの少なさから中距離以降の攻撃性能は劣悪であり、お世辞にも中距離以降の戦闘使用に耐えるとは言い難い。


 このように、CQC10シリーズは良くも悪くも完全な局地戦専用戦機として設計されているのである。】



 ・・・というのが、世間に流れる基本的な情報である。


 が実際の所、CQC10シリーズが通常空間での戦闘もバリバリ行ってる事はあまり知られていない。


 閉鎖空間でない戦場アウェイでは、オプション装備で固めた慣れない偵察機モドキ(数少ない使用できる戦闘パッケージである)を演じて、敵の迎撃機に敢えなく蹴散らされてみたり。或いはシミュレーション上で”他機種”として参戦し、コツコツと戦闘経験値を溜め込んでみたりしている。


 このように、『かの有名なレア機体』としては認識されぬまま、ひっそりと撃破されていることも数多い。


 そしてレア機体とされるなによりの要因は、CQC10シリーズが『局地戦機』だということである。


 数百回、あるいは数千に一回。戦場の片隅に局地戦機の似合う特殊な戦場が設定されれば、そこにCQC10シリーズが配置され、文字通り「腕を振るう」のだが・・・そんな辺境にそうそう多数の戦機が訪ねてくるはずもない。これが普通の戦機がCQC10シリーズと遭遇するのは「万に一つも有るか無しか」の大きな原因なのだ。


 まあ、そんな滅多に日の当たらない彼らだが。

 もしもその本来の力の一端でも発揮できる場面で出逢ってしまえば、大抵の戦機は「ビビる」ことうけ合いである。


 当然、皆がこの機種のことは(詳細ではないが)データでは知っているし、その動きを予想すらできるのに、だ。




CQC10-0141:閉鎖戦用可変6脚 アラクネー


「電光刹華。まず1機」


 美しく決まった。


 襲撃に合わせた発動した電脳網超過駆動オーバークロックの加速された思考状態のなか、満足感に浸るCQC10-0141 アラクネーは角ばった蟹のハサミのような右腕の高出力ビームソード(ZZ-ex7十束)を振り抜いた勢いで、雲を引き散らしながら回転。同時に縮めていた6本の脚部を展張、各脚にミッチリ詰まった重電磁流体の回転をリアクションホイールに、各肢部の展開角をアンバックに使用して、スラスターを使うまでもなく姿勢制御を完遂。


 そのまま対面のビルへと6本の脚部を叩きつけるように投げ出し、閉鎖戦用戦機の電脳網の妙技たる精妙な計算で制御しつくした脚部が壁面に接触する。


 その瞬間、6本の脚部は途轍もない力で圧縮され、押し縮められながらも、2000m / s以上の速度と90tを越す自重が合わさった運動エネルギーを、電磁流体回生サスペンション(MHDRS)へと完璧なタイミングで伝導し、MHDRS内部で重積し渦を巻く重電磁流体の回転運動へと衝撃力を偏向する。


system

- MHDRS 容量超過リミットオーバー -


「鎮まり給え」


 やはり流体フライホイールだけでは吸収しきれんか。


 重電磁流体の運動量超過警告。


 アラクネーはMHDRSの回生機構ニギミタマを駆動。全体重の6割を占める3対6脚の重電磁流体の流体フライホイールの質量でも、なお吸収しきれない余剰運動エネルギーが、その動きを制御する電磁拘束を破綻させないよう電磁回生機構ニギミタマによって電力に変換。超電導コンデンサーへと誘導し、蓄積する。


 ガガガガゴッッ!!


 音よりも疾く跳ねた鉄塊が、多少ビルの壁面を削り取った程度で、それ以上の破壊もなく静止する。


 短躯な胴に比して長い前腕部(ZZ-ex7草薙)と、それを自在に扱うための野太い付け根。それら全てが、縮まった6本の脚に歪な形で埋まりこんだかのような姿で、CQC10-0141 アラクネーはビルの壁面に生えていた。

 

 会敵から数瞬。


 この間のアラクネーの姿を観察する物があれば、戦機の常である『速度×質量=破壊力』を最上とする意識のせいで、(「その運動エネルギー制御が理論上は可能である」と計算では理解できてはいても)その挙動は途轍もなく奇妙に見えた違いない。


 その奇妙な光景を生み出すには、他の可能性を全て切り捨てているに違いなく、そんな馬鹿なことしか出来ない戦機が実戦に出て来るなどと思うほど、想像力豊かな戦機は少ないからである。



「次の獲物は何処いづこに」


 アラクネーは次の標的を求め呟く。


 いくら囮とは言え、近辺にこの一機だけの筈はあるまい。


 その短躯な胴の上の丸く小さな頭部、全周囲合計8つの複合カメラが、光と闇と電光と多彩な煙幕の渦中を睥睨する。しかしこの索敵妨害下では、単機での索敵など気休めにもならない。


「!」


 アラクネーの機体表面に並ぶ受光網に、周囲のビルに配されたセンサー群からレーザー通信を受領。あと1機侵攻中、とのこと。


「委細承知」


 良し。今ならば電力もバネ(流体フライホイール)のたわみ具合も申し分はない。哀れな敵機をこの狩場にて両断するとしよう。


 アラクネーはこのベストの状態で最大効率を発揮するべく、電脳網超過駆動(オ-バークロック)の延長を決定する。先の待ち伏せとこの接敵で緊急冷却材は全て蒸発し切ってしまうだろうが、見敵必殺。閉鎖戦用可変6脚の道に後先は無い。


 現実時間では一瞬にも満たない速度の中で電脳網をフル回転、敵機予測軌道との交点を幾筋も導き出し、最も有効な襲撃地点を選択。守り難く攻め易い、閉鎖戦用可変6脚でしか成し得ない戦術にて、敵機を絡め取る。



 CQC10シリーズには至上命題がある。


 それは『守護する領域に踏み込んだ敵を、反攻不能・落命必定の方程式で轢き潰す』ことである。


 この至上の設計思想を以って作られた戦機が、その全力を発揮し得る場所にあれば。「相手がこちらの機種を見極め。瞬時に正しい判断を下し。その判断の結果(実行)に辿り着く」”その前に”、慮外の戦術で命を刈り取ることが可能なのだ。



 ・・・だが所詮、この理論は閉鎖空間での襲撃・不意打ち・待ち伏せ等。捕捉されていないことが前提条件。しかし、先刻の敵に続くもう一機の敵機は、既にこちらに気づいており、更にはこちらが何物であるのかすら判明しているに違いない。


「一期一会」


 何時だって次などはないのだ。持てる全力で当たるのみ。


 敢然たる設計思想と、完全たる戦術理論に裏打ちされた機体、CQC10-0141 アラクネーは唸る。


 もはや現在進行形で破綻していく設計思想のアイデンティティに速度を掛け算、得られた理論の運動質量で以て、全ての理論が崩壊するよりも疾く、敵機を打ち砕くほかない。


 壁面への接着時に吸収したエネルギーが、サスペンションの各部と変形回生機構内外にゆがみとなって蓄えられ、機体各部はへし折れんばかりにたわみきっている。それは正弦を描く弓が、キリキリと引き絞られるがごとくである。


 その溢れんばかりに蓄えたエネルギーに加え、融合炉より発生する出力の全てを十束と推進力に注ぎ込む。弾け飛んだようにしか見えないアラクネーの機体が、雷のように白煙を切り裂いて跳ぶ。


 戦型はいつも通り。

 見敵必殺。電光石火である。


 いざ推参おしてまいる



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