『ミドルテンション』
ロボの生着替えである
攻撃機:AT25‐2233 ヤマダ
攻撃機:AT25-2224 T・NAKA
攻撃機:AT24-1590 熊(熊さん)
攻撃機:AT24-1888 エイトマン(八さん)
攻撃機:AT24-1799 ゴリラ
「八っつぁんよ。ストリートはやっつけ裸にしてあるらしーけどよ、『中や地下はどーにも分からない』ってぇんだから、たまらねーよなぁ」
「んだんだ熊さんよ。だどもグランドシェイカーやらアースライトやら、皆で一緒にバーッと撒きに行くらしーがや。踏ん張るしかないべぇ」
やたらと高い天井の下、一面クリーム1色の(注:1)小奇麗な壁に囲まれた戦機整備庫で、装備の換装に勤しむのはAT24-1590 熊(熊さん)とAT24-1888 エイトマン(八さん)である。
(注:1)『この色が一番安い為、廉価な施設は全てクリーム色に染まってしまう。とはいえ、耐熱・耐冷・耐摩耗・耐汚、あらゆる面で不足はない、いわば塗料界の主力戦機である』
どちらの機体も型式的には一世代前の機種であるが、バージョンアップにより、機体性能は現行機と比べてもさほど遜色はないが、戦闘に関係のない言語セット系アセンブリは、未だ更新もされず古いままであり、発言にはAT24系初期の独特の訛りが残っている。
因みに、熊さんと八さんは、特に『2機セットでの戦闘を得意とする、コンビ撃ちの名人』である。今回も2機揃って仲良く作戦に投入されているベテランであった。
この2機のコンビネーション用のアセンブリは特に発達しており、2機の間では「おう」「おうよ」、「おう?」「おう!」、「おうっ」「おうおう」の単音節だけで、戦闘機動とコンビネーションに必須の複雑な意思疎通が可能なレベルに達している。
他の機体にも応用できないかと、2機は現役を退くこともなく戦闘に駆り出され分析が続けられており、偏った進化を見せた機体の代表例として、殿堂入りが確実視されている。
そんな動く伝統芸能みたいな戦機。それが熊さんと八さんであった。
ただし。片方が先にやられた場合、もう片方の生存率が格段に下がってしまうらしい。どちらかが事故らなければ強いのだが。痛し痒しである。
「熊さん八さーん。私ビームトライデントやら、実戦で使うの初めてやわー」
出撃待機状態のAT25-2224 T・NAKAは、ウェポンラックに置いてある世にも珍しい近接兵器、ZZ-lp5蜻蛉(注:2)を腕に掲げて喚く。
(注:2)
『ZZ-lp5蜻蛉:ビームトライデント
名称こそ三叉鉾であるものの、高出力ビーム粒子を三軸焦点で一点集中させる槍としての使い方が基本であり、攻撃範囲を広げるために、三軸分割のトライデント型にもできるが、その際の威力は槍形状時よりは当然落ちる。
ビーム砲としても使用も想定されてはいるが、本来は純粋に近接兵器として設計されているため、焦点以上の距離となるとビーム粒子が極端に拡散し、飛び道具として扱うには取り回しも悪く、当てにはならない』
「あーそりゃ仕方ねーや! 長く居るおいらだって実戦で使うのは初めて、ってえ獲物だ」
「んだんだ。おらも似たのはシミュレーション戦で使ったことはあるだども、実戦では触ったこともなかったべや」
熊さん八さんも、ウェポンラックから手に取った、戦機の全高と同じぐらい長いZZ-lp5蜻蛉を、ためつすがめつ眺め、途方に暮れている。
戦場に長く身を置き、経験豊富な熊さんと八さんですら、初めて使う武器なのだ。どれだけ奇妙な兵器であるかは、推して知るべしであった。
基本的に、近接兵器の扱いは『サブ武装のサブかそれ以下』といった位置付けであり、さらにビームトライデント程の大型近接兵器ともなれば、100回出撃しようが装備候補に名前が挙がることはない。
なんといっても。ビームトライデントと同等以上の威力を持った遠距離武装が、幾らでも存在しているのだ。
それらと比較して、純粋な大型近接兵器であるZZ-lp5蜻蛉など『扱い難い』とか、それどころの話ではない。比較対象としては、全くお話にならないレベルである。
それでもこんな武器が存在する理由は、「大規模破壊の許されない状況で、入り組んだ市街地や閉鎖空間での事故必至の近接戦闘が行なわれる」など、余程特殊なケースまでも網羅しようとする、上位機種達の鋼のような信念の賜物であった。
そしてその『余程特殊なケース』に当たったのが、今回なのである。
「お、サブウェポンはましだぞNAKAよ! 近距離戦でBM-KALD-SM123ssは正直嬉しいんやが・・・。弾は・・・」
AT25‐2233 ヤマダが、ウェポンラックに懸架されているカルド社の(注:3)サブマシンガン、BM-KALD-SM123ss(注:4)を発見した。これこそは、見た限りの兵装の中でも、最もマシなものであった。
(注:3)
『カルド社:整備機のENGFa-w-0980 カルドブラッキオが、どこぞの企業のライフルを整備中に、「こんなファッキンガンを整備するファッキンな機体の気持ちにもなりやがれファッキン!!」と暴言を吐いた後、一週間工房に篭り続けて作り上げた一丁の傑作ライフルから始まった会社だ、と言われている。
設計は堅実で『信頼性と整備性の高い実弾銃』を社是に、シェアのトップスリ-にも数えられるまでになった老舗の勇である。』
(注:4)
『BM-KALD-SM123ss:
カルド社のサブマシンガンであるBM-KALD-SM123ssの前身には、BM-KALD-SM123があった。
BM-KALD-SM123は、サブマシンガンにしてはリコイル制御の機構部分が重く、ストックもバレルも他社のサブマシンガンより長い。しかし重量の代わりに射撃精度が高く、近距離のみならず、中距離においても十分な性能を誇る名銃であった。が、逆に精度を求める余り、最高射撃レートと取り回しには多少の難があった。
そこで、重量と取り回しの改善を考えて改良されたのが、BM-KALD-SM123ssである。
前身であるBM-KALD-SM123の非常に優秀だが重量のあるリコイル制御部を、「重すぎた」の一言の元にとっぱらい、2世代前のリコイル制御機構(型落ちの設計ではあるが、同社の現役の機構の中で最も軽量である)を詰め込み、更なる重量対策としてストック及び本体の切り詰めをアバンギャルドに断行した。
・・・その結果、改良されたBM-KALD-SM123ssは実のところ、重さも精度も発射レートも、他社の同クラスサブマシンガンに劣れども勝らないものとなり、全く持ち味が存在しない出来となってしまった。
だが、カルド社の高い整備性と堅実な動作に遜色はなく、カルド社のファンで他社の従来品と同じように扱えるサブマシンガンを求める機体には、これを愛用するものも多い。』
「で・・・。実弾が粘着榴弾と”粘着弾”?? 光学兵器は軒並み使用制限。装備は強襲用スラスターと、B型反応装甲とC型防盾?? ああ、あっちにも武装制限があるんか・・・」
足回り、特に高速系に定評のある『スレイプ2る』の燃費無視の高出力スラスターセット。実弾防御に特化し、効果は高いが継戦能力が非常に乏しい『ボーグ9』のinp系反応装甲、爆圧とビーム撹乱・吸収剤の噴流で、主にビーム兵器に特化したタイプの反応装甲である。
最後の多層シールドはこれも『ボーグ9』の、両腕前部に取り付けて上腕まで覆う大型の物である。
対ビームコーティングを山盛りに凝らした仕様で、このシールドの役目は『ビーム兵器(近接武器の高出力収束ビーム含む)からの防御』である。
C型のCとは、古代語で近接戦を表す『チャンバラ型』の略である、・・・という噂がある。
まあ、公式HPでそのことについて言及した質問者のアカウントが謎の停止措置を食らった為、詳細は定かではないのだが。
「いや~。まあ、こんだけ馬鹿な武装した奴とか、ここ100周期でも俺達ぐらいやろなあ・・・。大型槍に近接ビーム兵器対策を主眼に置いた大型盾とか・・・。一体何を退治しに行くんや? 相手は伝説の竜騎兵か??」
ヤマダは整備架台で高出力スラスターセットの取り付け作業に入りながら、デジタルMAP上の青い空を仰ぎ見て、苦く呻く。
「そこまで来たら、あとは七対子にでもまたがって突撃するだけやなー。・・・ちょっと楽しそうや」
NAKAは、抜けるような青空の下、高機動型に4脚を変形させた七対子にまたがり疾走する自分の姿を想像した。とても楽しそうである。七対子が「もう駄目アルー! NAKAは重すぎるのヨー!!」と途中で言い出しそうな気がする・・・失礼な。などと想像していると、同じ囮チームの一人から声を掛けられた。
「オーイ、ヤマダ。NAKAも聞いてるが? オレ達はC-37から入ってK-20に抜けるがら、被らないようにすんだぞー。再侵入時はこっちがらこーだ。(添付ファイル:俺達の男坂.zip)」
AT24-1799 ゴリラ(ゴリさん)である。
熊さん八さんと同じ部隊である。
その名前からか、固有武装には湾曲弾倉を使用したライフルを愛用している。
装備オプションは出来る限り装甲に割り振り、『攻撃より生存』の戦術に重点を置くスタイルである。その防御方面における電脳網集積の分析能力は、現場の機体から高く評価されている。
おかげで生存力の高さを見込み、捨て駒気味な使い方をされることも少なくはないが、それはひとえに『信頼の高さ故である』と本人は強弁している。
「OKゴリさん。こっちはH-39から、このルートのどれかで縫ってC方面に抜けるからよ。それで生きてたらこんで行くよ(添付ファイル:道との遭遇.zip)」
ヤマダの方からも、ルートを最終確認にと送り返す。
各機それぞれの場所で換装は進み、過日、けんもほろろに追い返されたあの名もなき都市への、リベンジマッチの時間が近づいてゆく。
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