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SF『自己鍛造弾頭』  作者: 壱りっとる
第五章『実機演習』
31/36

『ブリーフィング』

旧態然とした風習は、止めろと言われない限り続くものである

攻撃機:AT25-2224 T・NAKA 

攻撃機:RAT25‐2233 ヤマダ

砲撃支援機:ArtWE-3009 七対子

戦術機:TYT-10000 アビゲイル



 実機演習2日目。


 荒野を走る一筆書きのような野太い黒いライン。


 それは戦域外から戦場へと続く、18レーンの(毎週期ごと補修されるため整備が行き届いた)舗装路であった。その傍らには、実機演習において何十周期も使われている癖に、未だ戦場仕立ての掘っ立て小屋プレハブが立っている。


 この、演習のたびに整備機が壁の穴を塞ぐような、非常に年季の入ったボロい掘っ立て小屋こそが、ミーティングルームであった。


 もはや周期も語られないほど古くからの規定に則り、実機演習前には各所にあるミーティングルーム(正式には『バトルロッジ』なる勇壮な名前が付けられているが、ただデカくて四角いだけのプレハブである)に集合し、指揮官によるミーティングが行なわれる。

 

 人型機体が立ち並ぶ内部も、特に痛みやすい床は言うまでもなく、柱の関節部分などは何処も適当な鋼材で継ぎ接ぎされており、誰かL型か・・・下手をすればM型の機体が壁にもたれ掛かりでもすれば、そのまま小屋全体がミシミシと崩れ落ち兼ねない雰囲気を漂わせている。


 それを意識してかしないでか。屋内に居並ぶ人型機体達は、狭い室内で万一にも倒れぬように全員が厳重に関節をロックし、彼らの姿勢制御ジャイロは唸りを上げ、一切微動だにしない直立不動の姿勢で、ミーティングの開始をまだかまだかと待ち構えているのであった。 



[[  先日のミッションにより、都市への地下探査機投入が成功した。本日も第1次攻撃で更に探査機群を投入。先日の情報と合わせて精査し、第6次攻撃までには中枢を制圧する!!]]


 作戦の指揮を執る戦術機TYT-10000 アビゲイル嬢の、やたら力強い広域電信が密閉された掘っ立て小屋ミーティングルームを震わせる。


 ここ4周期の間、シミュレーションでも実機演習でも優秀な実績を残し、猛将と名高いアビゲイル嬢だが、実績を残す戦術機の中にあって、彼女は全てを器用にこなすタイプではない。


 どちらかと言えば、かなり偏った攻撃志向の持ち主である。

 今時のミーティングの内容も「囮を突っ込ませその隙に敵の尻から手を突っ込んで奥歯をガタガタ言わせたる」といった、野趣溢れるものである。非常に分かり易い。



 そして一方こちらは格納庫ドッグで整備中のArtWE-3009 七対子。

 『先日のミッション』で、脚・・・PL4L-コブラ-Hm3の4本脚の内1本がへし折れ(シミュレーション判定では4本共に全損扱いである)、更に本体の中破判定も貰い、ブラックボックスのみで何とか脱出に成功したのだが。


 彼女は現在も・・・というか、ミッションギリギリまで代替機の電脳網へのセーブデータ移し替えに、ブラックボックスとの摺り合わせ作業、及び実機動作テストからシミュレーションエンジンでの動作反応テストまで、面倒な上に精妙で、しかも戦時状況下とあって作業を急かされストレスが溜まることこの上ない状態で整備ドッグに拘束されていた。


「ホントは壊れテないのニ、代替機ニ乗り換えトカ・・・シカも実機あるヨ! 演習が終ワったら元の機体に戻るノヨ!? 徒労感がハンパないアルねーー!!」

  

 整備ベースの油臭い作業棚ラックに、剥き出しのブラックボックスの状態で懸架され不満を漏らす七対子。

 その作業棚ラックの背後から伸びる(『パーツチェーン2る』の選べる48色セットの物であろう)カラフル極まりない接続ケーブルは、すぐ隣に直立する新品のAT25に接続されていた。


「うわぁああン! これ前のヤつとバージョンが違うアルー! 装甲配分のマイナーチェンジしたヤつアル! 推力分布とバランス設定とコントロールとジャイロ関係ト重量設定の摺り合わせでマタシミレーション入りアルヨ~!?」 


 七対子が嘆いているのにはわけがある。

 戦闘中であれば、推力配分の自動制御に任せて無視される程度の細かい設定なのだが・・・整備中に発見された場合は、このような細かい設定であっても『時間の許す限り』『完璧に』仕上げなければならない、と明記されている。

 これはつまり、時間一杯作業が終わらないことを意味していた・・・・・・作戦参加も危ぶまれる。



 場面が戻ってミーティングルームの右側。

 50周期以上も前の『初志貫徹』と標語の書かれたくすんだプレートが貼られている方の壁際に、ズラッと居並ぶ攻撃機の列の中盤辺り。『ブラウン』の弾薬ケースのデカイ方(5000包入り)で補強された壁の横に、ヤマダとNAKAの姿があった。


 NAKAは足元の床材の頑丈そうなところを選んで脚関節をロックさせ、慎重に体を乗っけてミーティングを聞いている。ついでに隣りにいるヤマダとは、七対子についてレーザー通信でヒソヒソと会話していた。


〈まあー。どんだけ予備機に不都合あってもアビゲイルさんなら七対子を出しはるやろなー〉


 そう言うNAKAも、予備機に転換中の七対子のが、作業を真面目に行っていれば間に合わないだろうことは察していたのである。


 確かに一応セーブデータはあるのだが。

 しかしそれで補えるのはソフト的な『データ』だけであり、戦機の『電脳網集積の連続性』などのハード面まで再現されるわけではない。


 ブラックボックスからデータに繋がる連結経路の再構築、更にその確認作業。それらは高度にマニュアル化されており、手順通りに作業を進めれば『予備機での再出撃までにたった12時間しかかからない!』・・・という触れ込みではある。


 ・・・まあ建前ではそうなっている。

 しかし、どうせ途中で細かい部分で、時間だけかかって仕方がない調整作業が発見されて、結局は整備時間の限界ギリギリまで作業が伸びるのが日常なのだ。


〈アビゲイル嬢ならまあ出すだろうなあ。万が一の整備不良とかデータ破損があっても放り出されるのは間違いない。『使える物ならバケツでも出撃させる』と評判のお方やからな・・・〉


 ヤマダがチラリとNAKAを見ると、床がミシリッと鈍い音を上げる。直立不動のL型人型機体であるヤマダは「きっとまだ大丈夫だ」と自分に言い聞かせながらそっと首をもとに戻す。


〈あー・・・あのアビゲイル戦法やね。いや、アビゲイルさんは実際無茶苦茶やりはるからなー・・・。七対子大丈夫やろか・・・〉


 NAKAにもヤマダにも言いたい放題言われている猛将アビゲイル嬢であるが、さすがに「バケツを出撃させた」という記録は確認されていない。似たようなことをやらかした前歴があるだけで、それが件の『アビゲイル戦法』なのだが。



 アビゲイル戦法とは。


『ニコイチやサンコイチ(注:1)どころではない。修理が間に合わない機体や、FCS(火器管制システム)も装備されていない整備機をくっつけて、武装を括りつけ敵前面に搬送し、『設置』して、敵機の迎撃に利用した姑息戦法のことである。

(注:1 

 ニコイチ:部品や時間が足りない場合に、破損した機体を半分やら3分の1やらづつ継ぎ合わせ、1機体の完品をでっち上げる場当たり的な修理法のことである。

 利点としては共通機種であれば融通が効き易く、破損箇所を取り替えるだけで済むので、時間の短縮にも繋がる。

 欠点としては修理に使用する素材が両方共が破損した中古機体同士であるため、信頼性が低下する。

 更に機体の同時出撃数も暫減してゆくため、まともな整備としてはできれば使いたくない最終手段である。)


 そもそも普通はそんな状態で戦場に放り出されても、まともな敵軍にかかれば鎧袖一触である。 侵攻には一切の遅滞も起こさせることなく、ただ虚しくスクラップが量産されるだけ・・・の筈であったのだが。


 だがしかし。『執念深い』『陰険』『地獄の悪鬼』と名高いTYT-10000 アビゲイル嬢は、常日頃からこんな御無体な戦法の有効利用法を、個人でネチネチと(そもそも戦術教程を完全に無視している)考え続けていたのであろう。


 当の本人。アビゲイル嬢が戦闘終了後に提出した、論文の題名はこうなっている。

 

 【戦力の有効活用に於ける2~3の考察と実践】


 内容的には単純明快。

 「戦力として数えられていない物でも、創意工夫を凝らして扱えば戦力になりえる。だからやる」というものであった。


 実際にはどうであったか。

 その戦闘では、敵味方の戦力比3:1と、見るからに負け戦の防衛戦、それを任されたのがアビゲイル嬢であった。


 旧561高原(現1081盆地)にて、丹念に仕上げた防衛線も押し込まれ予定通りにいざ撤退戦となった。

 これから詰めてくる残忍無比の敵追撃部隊と相対し、如何にして残存機を生き残らせるか、如何にして敵部隊を抑えるか、が肝要となる。それに必要な布石、要石となるのは殿しんがりとなる部隊であった。


 撤退戦は被害が大きくなるものであり、被害を抑えるのには、自軍の最後尾に陣取り追いすがる敵部隊の足止めを行う部隊が必要となる。これを殿と言う。


 一口に殿と言っても、時と場合によって種々様々。

 陣地防御から機動防御、撤退部隊との連携攻撃から単独突撃まで。ありとあらゆる手段を使って敵の追撃部隊を足止めし、部隊の撤退を支援する役目を持った部隊の総称が殿である。


 しかし殿に戦力を割き過ぎれば、当然温存されるべき戦力が減る。そのために、この匙加減は非常難しい。

 

 ・・・だから、アビゲイル嬢は殿に戦力を割かなかった。


 ”兼ねてより思案していた通り”。中破、もしくは大破した、つまり作戦に戻ることが不可能とされた機体、及び整備機。つまり本来戦力に数えられていない機体のみで、殿部隊をでっち上げたのである。


 各機の破損度合い、武装、地形を掛けあわせ『破損機と並列化した整備機の連携』なる謎仕様(整備機にはFCSが積まれておらず武装が扱えない。更にFCSのインストールは決して許されない。しかし大破した戦機と有線接続することで、武装のキャリアー・砲台とした)を用い、その巧緻極まる配置によって、『表面上の機体数からのみ算出された戦力値(実数の大半がスクラップであるにも関わらず)』の2~3割を叩き出し、敵の足止めに成功する。


 同時に、出撃機の大破率150%(当然、大破した機体は出撃できない計算である。それらを無理に出撃させた結果『”大破=出撃不能”した筈の機体がまた”大破=出撃不能”する』という訳の分からない計算となった)という、前代未聞の記録もマークした。


 この戦法は、発案者の銘前を取ってアビゲイル戦法と命名される。


「~戦術教程第323版 第2803章:アビゲイル戦法考察~ 


 ・・・後の補給・整備の問題点から鑑みて、仕様には戦術規則第3章及び、第13章補足5により、使用制限L4となる点を留意すべし」』


 といったものである。



〈アビゲイル嬢への評定は、擦った揉んだの乱高下があったらしいが、結局は『卓越した独自性』を高く評価されたらしいで・・・〉


〈マ、マジでー?〉


〈まじまじ。大マジ〉


 NAKAとヤマダがレーザー通信にて、改めてアビゲイル嬢の恐ろしさを確認し終わった辺りで、掘っ立て小屋ミーティングルームを揺るがせていた一番の元凶、アビゲイル嬢の大音声も終了へと近づいていた。


[[・・・・・・よって、諸君らの任務は、第1次攻撃時の陽動、及び敵陣容の看破である。とにかく動きまくって、敵にとっての面倒事を沢山引き起こすように。以上!]]


「「「アイアイマム!!!」」」


 バーーーン!

 言い終わると同時。アビゲイル嬢が壁に貼られた図示用のホワイトフィルムに写る作戦区域図に、力強く拳を叩きつけた。締めの景気づけであった。


 グラグラグラ・・・。


 最後に行われたその暴挙に、居並ぶ機体がどよめきを上げたが、なんとか掘っ立て小屋は・・・グラグラと2~3回揺れただけで、崩れ落ちることはなく済んだ。皆がアビゲイル嬢がS型であったことに感謝しながら、ブリーフィングは万事つつがなく終了した。




ブックマークやらお気に入りやらありましたら嬉しい次第でありまくり御座います!

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