『ローテンション』
突撃して後退せよ
戦場における定義は一つ。
『成功したか否か』
挽回が可能であれば、失敗は成功に至る過程に過ぎない。
攻撃機:AT25-2224 T・NAKA
攻撃機:RAT25‐2233 ヤマダ
偵察機:RPWE-1368 龍峰
砲撃支援機:ArtWE-3009 七対子
鋼のような防衛線である。
その表面が攻勢で焼かれ剥げ落ちても、折れず砕けず、新たに鋭い輝きを放つ地金が露出する。
「硬い、硬すぎやー! これまっとうな戦略級装備でもないと駄目ちゃうのー!? それに防衛はいっつも卑怯だと思うの、自分達だけ一杯準備しててさ、こっちはこうして通信するのだって大変やのにー!」
AT25-2224 T・NAKA。愛称はNAKA。
彼女は標準的な攻撃機である。
【AT25系列:21系で推し進められた機動反応戦闘特化型に、23系で改善されたReM/L-DEF-11T強化電磁拘束炉による出力増加を加味し、装甲と推力をバランスよく発展させた型式である。
次世代であるAT26以降は、AT25を起点にバリエーションと改良を進める方針である。
その分現役機のAT25はケレン味のない(華はないが不可もない、つまり軍需生産品としては申し分はない)機体となっている。】
ケレン味のない代わりによく纏まり洗練された2脚攻撃機の鋭いフォルムも、今は精彩を欠いていた。
戦塵と焦げ跡をこびり付かせ戦区となっている市街から脱兎の勢いで飛び出してきた機体には、武装の陰すらない。装備すら投げ捨ててきたからだ。それはまさに、恥も外聞もない逃散であった。
「NAKA大丈夫か? ビルのそこここにpAsにヲノデラにpofに夜叉の新型がおって、企業博覧会みたいになっとったぞ・・・。設定がハードだから物理的にも硬い(ハード)とか勘弁して頂きたいんやが。てか幾らなんでも、龍峰はもっとましなデータ取れんかったんかい!」
自分達のルートを検分したはずの偵察機に文句を垂れる彼はAT25‐2233 ヤマダ。T・NAKAと同型の攻撃機である。
古風な名前を継いだらしいが原典は不明。
アタッカーにおいてはかなり由緒ある名籍らしく、同じ読み方をする機体が多少存在しており、同じ読みをする有志一同の集まりである『やまだ会』が結成されている。
(因みに件の『やまだ会』にて、遺跡化した倉庫で朽ちかけていた太古の01式二元思考機械まで漁って起源を研究したところ(翻訳プロトコルさえ他の遺跡からの発掘品らしい)どうもこの『ヤマダ』銘は比較的古い傍系の方であるらしいと判明した。)
「なんでこんなに、めんどくさいことになっとるのーん? 龍峰まともに索敵できてないやないかーい!」
今作戦の目的は『偵察機からの情報を得て敵策源地に一撃を加え離脱する』ことであった。
これだけであれば何の変哲もない作戦である。
だが、作戦に付随した禁則事項『軍事目標以外への戦闘行為の禁止』、この1文がこの作戦の難易度を「反物質をバケツで汲んでこい」的な無理難題へと変貌させていた。それとても、バケツに電磁界保持装置を投げ込んで電源と冷却系を尻に括り付ければ、まあ出来なくはない。
だがそれも『事前に下準備ができていれば』の話である。
今回のように事前情報無しで、通常編成が場当たり的な対応に迫られたりすれば、『底抜けバケツ』しか用意できはしない。そして素敵な『底抜けバケツ』で危険物を汲みに行った結果が絶賛敗走中のこの惨状であった。
「ザーッ 俺は悪く無い。作戦が悪い。そもそも攻撃してくる敵も悪い。悪いのは敵と作戦だ」
RPWE-1368 龍峰。泣く子も黙る偵察機である。
黙らせなければ、五月蝿くて偵察に支障が出る。
口が悪いのは一方的に情報を送りつける偵察機のサガ・・・ではなく、ただ元の根性が悪いだけである。
演習概要としては『当初は単純な破壊目標と思われたが、機密か何かが発覚したので、ハリネズミを殺さずに針山に手を突っ込んで探ってこい』とそういったものだろう。
龍峰とて、偵察機として定められた仕事はこなしたのだ。しかし偵察機の世界でも、事前の準備と装備が物をいうのである。
はたして。都市の市街地という半ば密閉された空間を急遽精査するとなっては、偵察機の数も、遮蔽の数に対して使用するべき電磁波・振動・重力波問わず探査装置の数も圧倒的に不足していたのだった。流石に一介の偵察機が悪いとかそういうレベルではない。
「そんなことイてる場合じゃないと思うのヨ。それにアンたらはいいけど、砲兵は足も其れなりしかないあるヨー!? キャイヤーーー!?」
戦場に創建された真新しい都市は、爆炎と煙灰にまみれてもなお白く、更に都市の各所から吐き出される砲や噴進弾ロケット・ミサイルが、朱や橙の彩りを添え一層の美しさを際立たせている。
悲鳴を上げているのは、ArtWE-3009 七対子。
極一般的な標準装備の可変4脚砲撃支援機である。
彼女は言語セットに独自発掘した『中華フォント』なるものを埋め込んでおり、それがチャームポイントだと本人は思っている。そんな彼女を温かく見守っているチームメイトの目は「誰にだってそういう時期はあるさ」という優しさを含んでいる気がする。
「ザーッ 七対子? なんで支援砲撃隊のお前が巻き込まれてる? 悪いもんでも食ったか?」
こちらはもうとっくに後方の安全圏に離脱し、自分の引いた通信線ラインから戦地の様子を窺っていた龍峰が機体の関節に詰まった溶けたコーティングのカスをマニュピレーターでほじりながら、位置的におかしなことになっている七対子の現状を不思議がって質問する。
「私ンところがババ引いたのヨー! 戦術目標以外攻撃しちゃイけないのに索敵がしっかりしないカラ、部隊がこんな前までキたアルよー!」
作戦が作戦である。
七対子は精密射撃が必要な局面があったため前線に詰めさせられており、敵陣からのカウンターが始まった現在、絶賛ババを引いているところであった。
その攻勢は積極的な撃破のためではなく、追い散らすための広範囲榴散弾が主であった。威力は高くないが範囲は広く、予測精度も悪くはなく、確実に足の遅いものから仕留めてゆく・・・。
つまり。今まさに逃げそこねた砲撃支援機である七対子が、格好の獲物となっているのである。
「ザーッ 俺は悪く無い。作戦の前提が性悪すぎただけだ。それに他の進行地点は ザーッ」
「クソ龍峰ーー! あ! いやァ! 電子アライグマ(名前はラスカル)に餌をやるまで撃破されるわけにはイかないアルー!!」
「あーあれか。最近流行ってるな・・・。てか餌ぐらいブリーフィング前にやっとかんか!」
「ええなー。あたしのデジタル小豆とぎなんて・・・名前付ける前にネットポリスにしょっぴかれたんやでー!?」
電子アライグマとは、電脳アプリの一種である。
そこらを飛んでいる情報性のある電磁波をキャッチして、ノイズをじゃぶじゃぶ洗って綺麗にしてから食べる(収集する)、デジタルアプリ・ペットだ。
いちいち不可思議な鳴き声や奇怪な動作で作業報告(大抵はどうでもいい通信の断片)を上げてくるようになっており(ヤマダには理解不能であるが)、一部の機体の間で圧倒的な人気を誇っている。そしてデジタル小豆とぎは違法である
「アーっ! 自分たちだけ安全なトこにいるカラて、少しハ心配してくれても良いと思うアルー!! わえrtfひpl ラスカル貴方だけでも生きt 」
- 「えさをあげてくだしい」 添付ファイル 電子アライグマ『ラスカル』.exe -
七対子からの電信とともに、電子アライグマ(ラスカル)がヤマダの元へ添付されて来た。
模擬戦とは言え今回は実機演習である。
七対子の電脳に万が一のことがあれば電子アライグマも一緒に破壊されてしまうから、わざわざ避難させたのだろうが・・・。
しかしそんな事になったら七対子は心配する必要もなくなるのだから、自分で抱えて運命をともにすればいいのに、とヤマダは思う。戦機の心情も複雑である。
「いや、なんで俺に託すんだよ・・・あ」
メール受領。
同時に爆炎の胃の中に七対子が消える。
「そもそも戦闘中の戦機は市販のアプリなんぞ起動できねーぞ・・・」
安全圏まで遁走を果たしたヤマダであるが、だからといって戦闘状態の戦機で市販のソフトを走らせることはできない。それは重篤な違反行為となるからだ。
市販のソフトであっても、もし有用なプログラムであれば多少のポイントを使って上位機種に申請し(合格すれば)戦機で利用することも出来る。だが、そこまでするようなことはあまりないだろう。
戦機の制御系は軍の管轄であり、各部のアップデートやバージョン情報すら秘匿されることも多いので、この辺りのプログラムに市場の一般のプログラマ系整備機が手を出すことはまず無い。
だがパーツや武装は軍関係より一般機業の製品が幅を利かせている部門も多く、そっち方面の制御系プログラムは、一般整備機やドロップアウトした戦機が開発・改良し世に送り出すことがままある。
しかしその場合は大抵が販売者が事前に上位機種に申請し、戦機での使用許可を得てから販売しているのであり、個人で申請する必要はないのが一般的である。
個人で申請して戦機内で使用しようとするのは、やや訳ありのプログラムとなるだろう。
そして申請した所で、戦機内でのペットアプリの使用許可はまず降りない。
「まー帰って待機中にでも起動してあげたら? 模擬弾やけど、直撃してたらどうなるか分からんしなあ」
「あー。あいつ無駄に運が悪いからなぁ・・・。直撃したのに撃墜判定には一歩足らず、でジャイロ損傷判定のロックかかったまま落下して、ダメージコントロールに失敗して地面に激突、装甲がもげたところに来た追撃弾がBBに直撃して永久に沈黙・・・ぐらいはありそうやな」
「ありえるわー・・・」
普段から七対子はどれだけアレな子なのか。
ヤマダとしては、七対子の悪運以上に「”実践”演習なんだからブラックボックス以外はどうにでもなれ」という『模擬弾』の威力にも恐れを禁じ得ない。
そしてたまに、肝心のブラックボックスも破損する。
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