『アイドリング』
ロボだって世知辛い世の中を生きいるのかもしれない
グロウァイツ地表 第三大規模演習場 赤陣 第三十八方面軍 06:00
戦術機:TYV-10210 楊貴妃
強襲型偵察機:RBYF-19E 大輪
重装型火力支援機:H-VLWS-6D ブルース・D
3機の人型機体が整体店の軒先で待合用の長椅子に座って街を眺めていた。
眼前には人型機体のサイズに合わせられた、しかしそれでも巨大なビル群がズラリと立ち並んでいる。
四角や丸のよくあるビルの他に、尖塔のような奇抜なデザインをした有名パーツチェーン『2る』(「楽しく選べるバラエティ放熱索! 色がなんと48色に!」と、のぼりにはある)。入り組んだ路地裏にあるバラックにしか見えない人型機体用の老舗板金工房『T0Y0TA』。店の看板にあらゆるカラーコードをびっちり書き込んだ(ただし文字自体は全て白黒である)塗装工房『サン・コ・ムタ』。
太い道沿いに点在して鎬を削る駆動機メーカー『Ps-Ride』に『ヲノデラ農機』に『タイムラベンシ』の店頭には各社自慢の最新機種が飾られている。
『Ps-Ride』では母体である軍事企業POF譲りのハイパワーなエネルギー伝達系を売りにした『Ps-Saiko.v3』が、流麗なボディラインを晒している。
戦機の駆動系も手がけ(と言うかそちらがメインである)足回りの堅実さに定評のある『ヲノデラ農機』では8輪独立駆動の大型トラック『爆進王』か飾られ、若い整備機に人気の軽トラック『陸王』シリーズも「売り出し中!」だそうである。
最後の『タイムラベンシ』はドロップアウトした戦機と戦場整備機のコンビ「タイムラ」と「弁士」が始めた企業で、当時の戦機や戦場整備機に太いパイプを持っていて、最新技術が流出したとかしないとか。今ではその蓄積された技術を下地に万全の性能と快適性を提供する、ハイランクな駆動機メーカーとして名を馳せている。
彼らの前にはそんなどこにでもありそうな風景が街一区画分続いていた。
しかし、どこを取っても新品同様のまっ白な建築用コンクリート。傷一つ無い軽金属の窓や扉のフレーム。看板や店構えなどは、写真をただプリントアウトして貼り付けただけ。店頭に並ぶ駆動機も、パッと見で車種が印刷されたバルーンだと分かる。まるで作りたての模型の街を巨大な手で並べたかのような町並みである。それに、どの店舗にも出入りする機体の影も形もない。
それもそのはず。この見渡す限り全て。街全体が演習用のモックアップなのである。
モックアップだからと言って、どの建築物も中身が空で人型機体が居ない以外は、実際の建物と大した変わりはない。
急造なので多少強度が劣るが、逆に経年劣化は無い分、頑丈さもどっこいどっこいと言ったところだろう。
「はぁー。毎回思うけど、本当に凄いわ。シミュレーションならこのぐらいは当たり前なんでしょうけど、これ全部本当の建物とかわらないんでしょう?」
淡い紫の外套を羽織った楊貴妃が長椅子の手すりに腰掛けながら(L型でも大柄な方なので、普通に座ると背の低い長椅子では座りが悪いのだ。)周囲を見渡し、化粧が施されたように真っさらな町並みに感嘆の声と疑問を漏らす。
疑問に対しては楊貴妃の横に突っ立っているブルース・Dが答える。カーボン系の黒い外套の下にアラミド系の紺の厚手のベスト、更にその下に重ポリマー素材の白い厚いシャツを着込んで着膨れているが、彼にとっては何時ものことだ。
「うむ。知り合いの建機は大体同じだと言ってたのう。なんだったか。地盤を固める必要がないから手間は減ってるし、バリエーションもそんなに無いから簡単らしいぞ。建築基準も関係ないからのう」
「はー、そう言われればすぐ壊すから建築基準なんていらないのか。お陰でこんな高度制限がないビルが立ってるのを見ると「実機演習だーっ」て感じがするな。前は襲撃側だったけど・・・アノトキハヒドカッタナァ」
長椅子に深く腰掛け、ボケーッと本来街には存在しない筈ののっぽのビルを見上げている白いシャツと青のジーパンだけの大輪。その頭部が見上げすぎて真上近くまで曲がった角度で停止する。何か嫌な記憶を思い出してしまったらしい。
「前ねえ」
楊貴妃がチラッと記憶を探る。
第987期実機演習。
00:01
開始に至って、25パターンまで絞り込まれた突撃ポイントの中で最も怪しい(危険な)地点に、RBYF-19E 大輪による強行偵察を命じる。
00:45
RBYF-19E 大輪がポイントに辿り着く前に、迎撃部隊の大口径レーザー(あの頃はまだGLLZ-pAs-ll.0321だったかしら)の一撃で小破。電磁障壁発生装置の一部の損傷。
01:23
RBYF-19E 大輪は電磁障壁発生装置の一部に損傷を受けたまま侵入を試みるも、弾幕を潜り抜けることができず、撃墜判定を受ける。
「・・・早かったわねぇ・・・って。あたっ。ブルース? あんたなんか変なとこ捻ってない?」
「おおう、Elz-コブラ-8系関節はこっち側に回らんかったか・・・前の大輪は早かったのう。流石偵察機だ」
折角整体店に居るせいなのかなんなのか。長椅子の肘掛け部分に座った楊貴妃の腕を捻り回し、駆動部の異常がないか検知している(人型機体整備機や専門家でないので、全くの素人仕事である。)つもりのブルースである。
「ブルーーース! 前はお前も良いとこ無しで落ちてただろーが!!」
「いや、わしはちゃんと砲を撃ったし、火力を引き付けてから落ちたぞ。重装は落ちるのも仕事の内だからのう。・・・フンッ」メキッ
楊貴妃の腕を更に変な方向に捻り上げながら(というか、力を込めなければ曲がらない方向へ関節を曲げてはいけない。)ブルースが答える。この暴挙に対して反応がないところを見ると、楊貴妃は早々に痛覚設定をOFFにしたらしい。
後々不都合が出ないかが不安である。
重装型火力支援機:H-VLWS-6D ブルース・D。
火力支援機の一派である重装型は、派手に火砲を打ち上げて敵の火力を引きつけるのも仕事の内である。追加ブースターと機体が丸く見えるほどの重装甲と事前の陣地構築を駆使して、天地鳴動驚天動地のミサイル群をブッ飛んで躱し(または吹き飛び)、曲射弾の雨あられを高靭高耐久複合カーボネイト皮膜の陣地にめり込んで耐え抜き(または押し潰され)、所定の目標と観測班から上がてくる攻撃地点への火力支援要請に対応し迅速に火力を集中する、それらが重装型の仕事である。
「て、敵を引きつけるってんだったら、俺だって・・・仕事はしたよ!?」
「いや。あんた偵察機でしょ?」
「いやー。役目が違うじゃろう?」
大輪は抵抗を試みたが、2機の鋭いツッコミが心の装甲を軽く貫通する。
「グワアアアアアアアア![文末コード:( TДT)]」
強襲型偵察機:RBYF-19E 大輪。
言うまでもなく偵察機の仕事は、なにを置いてもまず偵察である。中でも強襲型となれば、敵の火砲に晒されようが撃墜されようが、偵察をやり遂げ情報を送るまでが仕事なのだ。火砲を浴びせ掛けた後、予定通り敵の火力を引き受け撃墜されたブルースとは違い、偵察する前に撃墜された大輪への当たりは厳しかった。
「というかだ。前回は投入される場所が悪すぎたんだ。身内(強襲偵察機)の中であの迎撃態勢突破できるやつは居ないぞ!? あれでポイントが減ってたら俺はもう何をどうすればいいんだよ。さすがにあの出会い頭の多重砲陣は運でしか抜けれないぞ・・・」
「惜しかったわねえ。あともう少しだけ頑張れてたら、物資集積地点が割れてたんだけどねえ。大輪は肝心なところでポカをしちゃうからねー」
楊貴妃がようやくブルースから開放された腕関節をグルグルと回しつつ、長椅子に座っている大輪を茶化す。
「やめろお”お”お”お”! 俺は本気でポイントが激減してないか不安で、査定日まで二週間、飯も食えないぐらい悩んだんだぞ!?」
(飯。口から投入し内燃機関で消費するカロリー源を指す。飯を食べていない間も、電源には普通に接続して電力補充はしていたので、実は案外大したことではない)
茶化された大輪は、肘掛けに座る楊貴妃の正面に回って抗議の雄叫びを上げる。
「でもまあ結局は良かったじゃない。判定の結果はお咎めなし。『戦場評定機会』は機動・戦術・対応に問題は認められず、敵陣の構築の偏りと、あとはレーザーの当たり所が悪かったせいだったし。前回の残念な結果は、ハヴォック神のおぼしめしということね![文末コード:( ̄ー ̄)bグッ!]」
「〈 そりゃあ俺のせいじゃないんだから、お咎めなしは当たり前だーーー!!! そもそもあんな戦力の集中したところに俺を配置した姐さんが悪いんだろ!?!? 俺は本気で殿堂入りを狙ってるのに『戦場評定機会』から万が一にも酷い評定貰ったらと、凄い心労だったんですがね!?!?!? 〉」ピカーッ
如何に辛い精神状態であったかと窮状を訴えかけるも、楊貴妃にサラッと流されてヒートアップした大輪は、楊貴妃の襟ぐりガッシと掴み揺さぶりながら(楊貴妃が肘置きに座ってるせいで揺れる揺れる)溢れる言葉の出力先が電波だけでは足りず光通信端末からも高出力でレーザー発信。憤りとともに楊貴妃のメインカメラに直撃させ視界を奪う。
『言葉の暴力』である。
「アッ!? こら! 眩しいからやめなさい! うわっ、センサーになんか変なエラー出ちゃってるし、網膜焼けたら直すの高いんだからー!!」
いまだに大輪に揺すぶられながらメインカメラを服の襟元で覆って保護した楊貴妃は、なんとか大輪を引き剥がして不安定な椅子の手すりから降りて立ち上がる。
その横でブルースは一仕事終えた顔で長椅子に座って、いがみ合う2機の様子を好々爺ぜんとしてにこやかに眺めている。重装型は敵の攻撃を引き付けるが、無意味な損害を引き受けるわけではないのだ。
「ふぅ~。私はね。大輪ならきっと大丈夫だと信じて、あの位置に送り出したの。でも大輪は期待の甲斐なく落っこちちゃうし」
楊貴妃がようやく視界の戻ったメインカメラを大きく開いて瞬きし、よよっと崩れ落ちてみせ「弱々しさ」をアピールする。ガタイの良いL型なので効果は半減である。
「まさかあんな位置に特火点があるなんて、最上位機種でもわからない。だから評機会もそれを妥当として、私のポイント減算も少なかったわけだし。だから私は悪くないの」
崩れ落ちたままコンクリの床に「悪くないの」と書いている楊貴妃を見て、何か考えている風だったブルースが少しメモリー使用中のランプをチカチカさせたあと、その碌でもない口を開いた。
「姐さんも悪くない。評機会も悪くない。ということは・・・・・・やはり撃墜された大輪が一番悪いということかの?」
適当なことをいって油を注ぐ。
「そうね。相手が奇抜過ぎる陣形だったのは認めるけど、本調子の大輪だったら簡単に突破できてたはずよねー」
楊貴妃もそれに乗っかる。
綺麗に整った顔の中で意地悪く口角を上げ、ブルースの鉄面皮なくせに目元だけニヤリと笑っている顔に目配せる。そして息を合わせて言った。
「ということで、やっぱり大輪が悪いのね」
「ということは、やっぱり大輪が悪いのう」
楊貴妃とブルース。多数決で2対1。大輪の一人負けで、めでたしめでたしである。
「〈 ・・・って、そんなワケがあるかーーーーー!! 運が悪いだけだったろ!? 「誰も悪くないよね!」って俺を慰めて一件落着する所だろうがーーー!?!? 〉」ドガドガッ
長椅子の前で地面を叩いて吠え猛る大輪。
対象的ににこやかに笑う楊貴妃とブルースの2機は声を揃え、物分りの悪い子供を諭すように優しく語りかける。
「冗談よ[文末コード:(*´∀`)]」
「冗談だのう[文末コード:(⌒,_ゝ⌒)]」
「ムギャオオオオオオオオオオ!?!?[文末コード:ヽ(@益@ .:;)ノ]」
3機の暖かな交流は約1機の過電流により更に温かみを増した。
どっとはらい。
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