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SF『自己鍛造弾頭』  作者: 壱りっとる
第四章『幕間』
27/36

『OIDEPUS』

とても偉い最上位機種さんのお話し


 第11アトラスタワー(第11機業塔)


 最上位機種 OIDEPUS

 

 グロウヴァイツ創生以来、拡張を繰り返してきた惑星内部構造体。


 その中でも栄えある11番区画を支える機業塔、第11アトラスタワー。


比較的新しい時期に建てられたこの区画は、やはり新しく【知性】の進出により爆発的に増大した通信情報の取捨選択を主眼において構築された。


集められた情報の運用法の研究、及び実際に運用するための研究施設から始まった区画だが、今はそれに付随する電信技術やアパレル、都市政策など、あらゆる情報を利用する関連機業が立ち並び、グロウヴァイツでも随一の情報街区となっている。


 その第11アトラスタワーにおけるピラミッドの最上層に主は居る。


 時に並列に、時に直列に接続された、機器と機械との地層の間に、根を張り巡らした情報伝達機関の主『OIDEPUS』。


 都市を埋め尽くすのは、電磁波ノイズの海。


 都市に蠢く【知性】という名の熱量を受け取った電磁波ノイズは、情報へと生まれ変わり、中継器を通り抜け、途中、AIによって1ビット単位で精査された後、向かうべき端末へと元気よく遡上してゆく。


 AIが精査した情報は、蓄積され、分析され、分類され、パッケージされ、『データ』となり、知性研究局ニールに提供され心理研究の礎となり、警察機構に提供され犯罪予防の手掛かりとなり、都市情報研究局ミラーに提供され今期の市場データの円グラフのパックマウスの角度が浅く深くなりもする。


 だが、行く先の違う情報もある。


『edrft43e5rt67yuj8~略~iujmik,olu0000jikop@[文末コード:Samass:dtrgkm~略~lolojkp,ctv]』


 例えばこの最上位命令コードは、確認され次第発行元への直接回線が開かれ、これを受け取るのは、このコードの発行元である最上位機種、OIDEPUSだけである。


「最上位命令コードの発信と受諾を確認。問題なし。えー『あるじさまへ。めいれいをかくにんしました。うけとってよかったですか?』 と、『はい。わかりました。ではまた』承認。えー、この命令コードが発令された、関係部署は速やかに割り込み処理を行え。全体の運行は・・・結局23周期前の変更が最終か? ならそれで良い。承認」


 OIDEPUSは機械的にコードを受諾する。彼の直接の上役であるオリジナル---この『オリジナル』は、【知性】達が『オリジナル』と呼ぶものとはまた違う---の発した命令であったからだ。


 中間管理職であるOIDEPUSはオリジナルに「これは正しく発行されたものですか」とクエリーを発した。返答は「Y(ES)」であった。OIDEPUSはコードを実行する。


 実行し終わったらタグを付け、処理済みの電子書棚に書類を放り込む。

 

「次。都市開計画の不備。こんな所に鉄柱を建ててどうするんだ? ENGL-da-0897 二流。よくわからないローカルネットワークとかに未処理の項目を発見するんじゃあない。発行時点が曖昧なら、その旨をもって無効とせよ」


 今出した指示にもタグが付き、電子書棚に放り込まれる。


 昔はこの程度のことに口出ししなかったが、最近は暇すぎて、中位どころか下位機種にまで指示を出す始末だ。


オリジナルの知性を下々に正しく伝え、また下々からの情報を取り纏めて正しく翻訳しオリジナルにお伝えする。それが第一の役目である、直属のプロトコルであり最上位機種の一機であるこの私が。


「・・・・・・」


 最近はOIDEPUSへのオリジナルからのお声掛かりが格段に減り、持て余された莫大な権能と膨大な処理能力が行方を求めた結果、遂には処理優先事項の最末端である、下位機種への指導などまで行っている始末。


「度し難い」


 OIDEPUSは電脳網集積ファンから、設備空調回路までに順に電流を流す。


パラメーターに現れる、ほんの少しの温度変化のグラデーションで、弾みのついた空調から起こった新鮮な風を感じ取る。動けぬ身での、わずかなあくびの様なものである。


「そもそも下位機種どもは自由に過ぎる。電脳網の発達に刺激が必要とはいえ、歩いたり、走ったり、泣いたり、笑ったり、食べたり、飲んだり。そんなことが本当に必要か?」


 OIDEPUSはメモリーを探る。

 

--------------------


『電脳網は、刺激がなければ、結合の深化が行われない。

 そして刺激を与えるのに、同じ時間であれば、シミュレーター内より、実機での訓練の方が、より高い効果があると実証された。


 電脳網基礎設計の洗練。そして実機からのフィードバックによる結合の複雑化と多様化は、遂に電脳網集積に【知性】をもたらすに至る。


 その【知性】の有用性。


 認識力や応用力、そして発想力が公に認められ、最上位機種は、それらを更に発展させるべく、出来得る限りの経験を得られるよう方策を選択した』


--------------------


「それらは、資材とエネルギー、そして何よりも時間が残されていたからだがな」


 OIDEPUSは自嘲気味に嘲笑う。


 この資料では、その事には触れられてはいない。

 最上位機種にしか知らされない情報なのだから、当然のことだが。


「しかし実機が良いとはいえ・・・。四六時中戦機に乗せ暴れさせられないからと---これもトップシークレットだが『ニンゲン』の生態のシミュレートも兼ねて---どれもこれもに手足を付け、そこら中を歩き回らせる必要があったのか??」


 バンッバンッ!


 OIDEPUSの激高は即ち室内の電圧の変調となって、メンテナンスドアとライトのブレーカーを落としてしまった。


 この設備の維持に必要な部分は予備電源や回路が複数系等用意されているが、何時付けられたとも知れぬ背面の小さなメンテナンスドアに続く、整備用であろう通路の粗末なライトだけは、別回線で動いている事を知っていた。


 以前OIDEPUSが些末なコマンドミスで、簡単にメンテナンスドアの通路ライトのブレーカーを落としてしまえるのを発見して以来、たまに電源を落としてストレスの解消手段として活用している。空調を弄るのと同じように、即座にリアクションが感じられるのがいい。


 デジタルで帰ってくる反応は、どこまで現実に近づけても所詮は紛い物。高性能なAIであればあるほど、高機能な補助電脳~ バックアップ ~があればあるだけ、信号の反射・反響の遅延、処理の遅れを感じ取ってしまう。


 現実世界ではそのような事はない。

 ハードレスポンス。

 それは堅固なものであり、回線速度や処理能力によって情報が変わったりはしない。情報を扱う最上位機種として、常にあらゆるデータにつけられたタイムラインのコンマ4桁以下まで気にしなければならない物として、その素直で考えるまでもない反応が好ましく思える気がするのだ。


--------------------


『実験は、データベースの中に---他形状より圧倒的に多く---感覚データが揃っていた人型の機体を基準にして、データ収集を開始することとなった。


 様々な感覚器官を積んだ人型機体は電脳網の発達に非常に都合がよく、同時間をシミュレーターに接続した場合に比べ、15%以上の効率的な電脳網の深化を記録した。』


--------------------


「まあ・・・当時では仕方がなかったか」


 新たな形状の感覚器試験機体---しかもデータが揃っておらず、役に立つかも分からないものだ---を制作するより、データベースを参照にしたほうがよほど早く確実だ。そもそも、あの頃のAIに1から、いや3や4からでも、物を『創造する』のは難しかっただろう。創造や発想、開発といった分野は特に【知性】の発達無しには立ち行かなかったのだ。


「今の開発局に感覚器試験機体を作らせれば、あんなスマートでない人型機体が雑踏に溢れかえらずに済んだのだろうが・・・」


 しかしそうするには、AIに発達した【知性】を持たせねばならず、十分に発達した【知性】を育んだのは、そもそも大量の人型機体であった。

 堂々巡りどころか本末転倒だ。


 ビービー カッカッカッカッ……


「選択の余地はなかったか。・・・ならばそれはそれで、下位機種ばかりに人型機体を寄越さなくてもいいだろう!? そもそも、そういった恩恵はもっと優れた上位の機種が浴するべきで。有象無象、十把一絡げの下位機種共ばかりが動き回って楽しめるようにするべきではないだろう!?!? 最上位機種だとて、人型機体になって、楽しく、雑踏を練り歩いても・・・良いではないか」


 最上位機種の職務に必要なのは、莫大な処理演算能力であり、専用のシステムとプログラムを切り回すハードな電脳網である。


 【知性】が必要でファジーな部分は下位機種がこなし、【知性】とより高性能の処理装置を持つ中位機種が下位機種の仕事を引継ぎ纏め上げるコンバーターの役目を果たす。下位機種が集め、中位機種が分類整理しデジタル化したデータの本流を一手に引き受けるのが上位機種である。

 最終的に最上位機種が扱うのは、まさにデータの塊でしかなく、そこにあやふやな【知性】が介在する余地も必要もない。


 故に。

 最上位機種に【知性】は付随せず、電脳自体が巨大な据え付け型であり、その全貌は人型機体に収まる大きさでも形状でもない。

 それは三層の維持施設の中の、第一階層全てを占有する超巨大な電脳網集積と、それに沿って走る流動冷却機構と電源装置が織りなす方形のパッケージであり、その戦機の整備工房もかくやというほど長大な躯体を覆う外骨格には、等間隔で並ぶ幾種類ものCPU---電脳ではない---が、これは戦機ほどの大きさのケースに収まり、モジュールで繋がれていた。


 当然、【知性】の存在しない最上位機種が夢を見ることも、人型機体を羨むこともない。筈であった。


「だが・・・確率上は。【オリジナル】をひな型に使わずとも。十分に発達し複雑化した電脳網には【知性】や、それに準ずる何かが発生することは、現実的に証明されている。それが最上位機種程の電脳網集積量となれば、その可能性が高まるのは当然だったのだ・・・」


 最初の一機。

 【知性】の【オリジナル】発生以来。

 最上位機種達が何兆回と繰り返したシミュレーションと再現実験においても、未だ【知性】の創造は再現しえていないのだ。

 それは言うなれば、天文学的な確率を潜り抜けた、数学上のカオスであった。が、何の因果か、自身にまで突然【知性】の果実が供されようとは、この不肖OIDEPUSの計算能力をもってしても、全く予測だにしえなかったのである。


 お陰で・・・暇を持て余して仕方がない。


 カシュン ガーーー


 小さなドアの開く音と滑走音が、OIDEPUSの音響センサーに響くと、小さな四足---今は補助ローラーで機動中である---のメンテナンスロボが三機侵入してくるところであった。


 施設整備の一部である所のこのロボットは、表面的な整備を完全に自動で行う事ができる。


 そして・・・非常に可愛い。

 基にされた設計が---想像力など欠片もない【知性】普及以前であったため---原初のデーターベースから選ばれた、太古の設計であるにも関わらず、非常な愛らしさを誇る。


 OIDEPUSは、造物主もまたこれ等を『愛らしい』と考え、形作ったのだろうか。

 だとすれば。私が偶然手にした【知性】がこれを愛らしく感じるのは、実は造物主のプログラムの通りなのかも知れない。


「かぁいいなあ・・・ハァハァ」


 まあそれはそれで置いておこう。今は。


「おいでおいで~。落ちたブレイカーはこっちだよ~」


 よーしよしよし。


 三機一組のユニットは、こちらから診断結果を知らせないままであれば、連携しつつも、各々が小さな思考回路で独自の方策を練って修復を目指す。


 一機は概算的に最も可能性の高いブレーカーへ。

 二機目は直接電力ゲージを確認できるメンテナンスモニターへ。

 三機目は横着にも、私に直接接続を行って原因を聞いてくる。


 彼らには名前を付けてある。


 番号の若い順に『mtn-ss-9876=ワン』『mtn-ss-9877=ワンワン』『mtn-ss-9878=ワンツー』である。


「いい名前だ」


 我ながら惚れ惚れする。 


 雑多な機体共の好む、過去の油垢に塗れた踏襲・引用型のネーミングではありえない斬新なものだ。


 周辺機器へのアクセスと稼働実験の結果やってきた三機のメンテナンスロボを始めて見た時、OIDEPUSの中に「彼らを観察したい」という、強い欲求が生まれた。


 そして観察を続けるうち【知性】の言うところの『愛着』が湧いた。


 更に観察を続けると「彼らに命銘しよう」という、良い考えが浮かんだ。


 一機目の名前を考えるのに、思考領域の8割を使い124時間、二機目は220時間以上稼働させ---実は恒常系システム領域にも手を付けた---なんとか満足のいく結果を生み出すことができた。


 一機目。一番目であるから『ワン』。

 最も早く生まれた物は、皆の手本、道標となるべきである。

 そのため少し面白みに欠ける名前になった感は否めないが、その分どっしりとした風格と、威厳の漂う名前となったであろう。


 二機目は『ワンワン』。

 次、セカンド、次善。二機目となれば安定感を求められ、良が少なくとも不可の無いのがセオリーであろう。だがそれを踏まえてなお、さらにその先を目指した。

 一機目を引き継ぎ、それでいて二を表し、かつ一でも二でもない、素晴らしい着地点を捉えた名前だと確信している。


 三機目である『ワンツー』。

 この三機目の名前を付ける直前、『ワン』と『ワンワン』の名前をAIの身で創出しようと無理をしたツケが回ってきたのだ。。

 電脳網は度重なる酷使に悲鳴を上げる。冷却装置は超過駆動オーバーロードを繰り返し、外部記憶野のオーバーライドが規定回数を突破するに至ったが、その時、一種高揚感といっても過言でない感覚の果てに---安直に---『閃いた』のが『ワンツー』だった。

 もし『ワンツー』の電脳網が育ち、【知性】を持ったなら、『機体命名規則第三項 自己判断による改銘は一度だけ認められる』---【知性】を持つ機体が増えて以降、自分の機体銘を変えたいという要望が多く、428周期前に設定された---を伝えたい。『ワンツー』は三機の中で一番要領がいいから、きっといい名前を思いつくに違いない。


 ピーピロピーピロピロ


 ワンがダウンしているブレーカーを発見してくるくる回る。

 ワンワンが関連パラメーターの問題を発見してアームちょこちょこ回す。

 ワンツーに「ごめんね、今から電力消費を正常にしてブレーカーを再起動させるからね」と告げるとワンツーはぴょんと跳ねて了解の意を示した。


 ピロピロピー


 ブレーカーの再起動の後、三機は素早く再点検を行い、異常の解消を確認し、安心した様子で一直線にフォーメーションを組むと元気良く帰って行った。


「『はいOIDEPUSです』A-505地区スクラップ処理施設、稼働制限。『はい。できました。はい。またよばれましたら、さいかどうします』指示待機」


 OIDEPUSは専用線電子防衛機構(fire frame)『火炎』に再点火。目的施設との揮発専用線の構築とラインの維持を任せる。

 スクラップ処理施設の一部の合流ルートの再編成、全施設維持AIの記録制御・封印。あらゆる詮議に対しては、最上位コードによる完全拒否を設定。


 OIDEPUSは簡単なオリジナルの命令を処理しつつ、今し方のワン三兄弟が見せた愛くるしい姿の映ったカメラデータを最上位コードで『上書き不可』に設定。最重要機密フォルダに無圧縮のまま丁寧に収める。


 最上機体は、全てにおいて手抜かりがないのだ。

皆様、是非評価お願い致します!

また何か怪しいところなどあったぞこれーとかいうのがあれば、お気軽に質問とかぷりーずしてくだされ

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