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SF『自己鍛造弾頭』  作者: 壱りっとる
第四章『幕間』
26/36

『その頃のすたぶん』

三人寄れば文殊のかしましさ

人形機体の優雅な夜野ようすである

整備街:A505-23番地  某日 夜 バー&居酒屋『すたぶん』


TYV-10210 楊貴妃

TYW-10333 小野小町


「またあんたは、壮絶な潰れ方してるわね・・・」


 夜も更けてきたが、未だ騒がしいバー&居酒屋『すたぶん』店内。

 座敷の席ならまだしも、バーカウンターで酩酊して転倒した後、掃除機によって壁際へ、埃とともに掃き溜められたらしい知人(---TYW-10333 小野小町。人形機体はS型で、塗装は淡いピンクとホワイトのクリアカラー。小さくて可愛い---)は、床の上に寝転がり世間を睥睨していた。眼は見開いたままなのに、レンズの焦点は何処にも合っていない。どうみても屑鉄(重症)である。


 目の前のカウンターでグラスを洗浄するバーテンは、そんな彼女達を一顧だにもしない。


「こ、この店ではよくあることなのかしら?」


 思わず疑問が口をついて出た。


「この店でよくあることではありません。・・・そのお客様にはよくあることですが」


 小さく呟いた電波を耳聡く拾ったバーテンは---全身渋いグレーの人形機体。落ち着いた佇まいからは、引退前はひとかどの戦機だったであろう事が伺える---、指向性電波で素早く訂正を入れてきた。


「そ、そう・・・」


 いつも何をやってるんだこの子は。

 


--------------------


『酔う』


 一口に『飲む』、と言っても嗜好は機体それぞれ。

 エネルギーの充足感を心地よいものと感じて、楽しむのが機体の常だが、機体によって---電脳網シナプス形成の差異によって---『心地よい』という感覚にも個体差がある。

 

 『心地よい』と感じると同時に、その刺激信号は周辺シナプス網をキックすることがあるのだが、普通はその刺激は拡散して消失するのだが、繰り返されれば悪い影響が現れる。


 要は、飲みまくって脳のいらん神経を刺激しまくり、刺激される場所の違いによって、頭痛を引き起こしたり、躁鬱になったり、記憶の混濁が起きたり、爆睡したりするのだ。

 多くの機体で症例が似通っているが、これは基本的な電脳網シナプス設計が同じだからである。


 そこの床で転がっている人型機体の場合。

 楽しく飲んじゃって「あーあんな事もあったなー。こんな事もあったなー」など想い出に浸るうちに、アルコールの刺激でグルグルと思考がループ、睡眠の近似値である”夢を見ている”状態である。


--------------------



「はぁ・・・」


 この子も昔はこうではなかった。


 訓練プログラム---この場合のプログラムは訓練計画の意味---でよく一緒にされたものだが、初めは「アルコールなんて飲まなくてもリフレッシュできます!」なんて言って全然飲まないのを、こっちが無理に飲ませてたぐらいなのに。

 昨今の機体が飲めないのもなんだから、毎日飲みに連れて行ってあげたわねぇ・・・。


 どうしてこんな酒癖の悪い子になったのかしら。


「小町、小町よ、起きなさい」


 返事がない。まるで置物のようだ。


 仕方なく首のジャックから回線を直結して・・・よし。これでいくら大声を出しても周囲に迷惑がかからない。ので、大声で呼びかけた。


「(スリープモード解除ぉ!! 1カウントでも遅れた奴は、物理デフラグ30回だぁ!!!)」


「ひゃいぃいいい!? アビ教官!? TYW-10333 小野小町、ただ今起動致しましたぁっ!!」


 ガゴッッ


 TYW-10333 小野小町は、横に倒れたまま壁際で背筋を伸ばし、その反動で木目調コンクリートの壁面に頭部を激突させ壁が削れた。


「ぐわぁあ!? 頭が痛い! またっ! 配線がっ!!」


 ゴロンゴロンッ


 小町は鉄を引き裂くような悲鳴を上げ、頭を抱えて転げまわる。

 冷ややかにこちらを見るバーテンの眼が痛い。

 

「うおお・・・」


「目が覚めた?」


「な、なんとか・・・って。・・・なんでヤンキー先輩がここに?」


 そこまで言って小町はやっと機体の上半身を起こし、背を壁に預けた。

 頭部を振って周囲を見渡すと、『外付け記憶領域に接続中』のランプを暫く点灯させた後、何かに思い当たったのか突然こちらを指さしてきた。


「はっ!? まさか。私が酔い潰れたこの隙に乗じて、優秀な後輩を亡き物にして少しでもポイントを・・・・・・稼ごうと?」


 間。


「ふっ、簡単には・・・やられませんよ?」(小声)


 小町は少し首を傾げた後、「さもありなん」といったていで大仰に頷き、壁にもたれたまま両腕を構え、あらぬ方向を見ながらファイティングポーズらしきものをとっている。


(このバカな子を、一体どうしたらいいのかしら・・・はぁ) 


「ちがぁう! この店で飲んでたら、見知った後輩がゲロの匂いをさせながら、埃まみれで床に倒れてたんで、動作確認しに来ただけだから。それと、ヤンキーって呼ぶなっ!」


 ガンッ 


 パシンッ


 楊貴妃が頭に振り下ろした手刀を、一拍おいてから白刃取りする小町。

 無論、まったく白刃取れていない。


「はぁ~。もうあんたが動いてるのは分かったから。帰るわよ。小町もタクシー呼ぶ?」


「あ~。ううん。まだちょっと、動けるような気がしません・・・」


「仕方ないわね。よい、・・・っとおお!」


 楊貴妃はL型の余裕でもって、壁にもたれるS型の小町を膝にリフトアップし、そこから肩に載せかえ半担ぎに、廊下を進んで座敷タイプの席までその機体を運んでゆく。


「ご注文は?」


 座敷に上がりこむ直前に、バーテンの冷たい声が背中に届く。


「・・・・・・冷却液を2つ」


「かしこまりました」


 グレーのバーテンが頭を下げ、コップを取り出す音がした。


 注文を終えた楊貴妃は、小町を中に押しこんで、座敷の引き戸を閉める。

 座敷の中に入ってしまえば、外界と隔絶され落ち着いた気がする。

 が、すぐ横でモゾモゾしながら座卓の下へと潜り込んでゆく小町を見て、それは気のせいだと思いなおす。


「ほんとにこの子は落ち着かないわね・・・ふんはぁっ!」 


 楊貴妃は座卓の下の小町の足首を掴み、そのまま座卓の向こう側まで押し出して、自分のスペースを確保した。


「ほら。もうすぐお冷が来るから。少しはシャッキリしなさい」


「ぐぼぁ・・・。うぅ。聞いて下さいよヤン・・・きひ先輩。酷いことがあったんですよぉ!」


「はいはい」


 座卓のあっち側まで突き抜けた小町が、寝っ転がったまま喋りだす。


「私がまじめに戦術を練ってですね~。急造施設なりに、防衛体制を整えてですよ。独自の・・・これは先輩にも秘密なんですが、(少し得意げに)素敵な防衛メソッドでですね、卑怯にも大軍勢でもって急襲する敵機どもを、こードッカドカと一石二鳥に撃ち落とし、バッタバッタとなぎ倒していた所ですねぇ・・・」


「冷却液お待たせしゃっしたー」


「あ。ありがとうございます」


「あ~・・・いただきまうぅ」


 襖を開けて入ってきた女性機の店員によって、トレイに乗った冷却液が座卓の上に据え置かれる。熱を奪われたステンレスの座卓が汗をかく。

 小町もなんとか身体を起こして、2機共に頂くことにした。


 グビグビ


「え~と・・・なんでしたっけ?」


「バッタバッタとなぎ倒してたところ」


「そうそう! ギッタンギッタンにしてた所ですね、卑劣な秘密兵器によって何故かHQの所在がバレて、何故だか防衛網まで突破され、何故か基地に穴が空くというおまけまで付いて、もう散々だったんですよ!!」


「あー。秘密兵器か。たまにあるわねえ。でも秘密兵器に合うだけでもかなりアレな確率なのに・・・しかもそれが使えるやつだとか、あんたは本当に運が良いわねえ[文末コード:(-_-;)]」


 グビグビッ

 ゴクゴク


「データ上だからって実験兵器をポンポン投入してくれて、『理論上は完璧だ。運用しろ』って言われてもね・・・。自分達も使い方の分からんもんを、前線に押し付けてくるんじゃあない!! てぇもんよね」


 グビグビッ プハーッ ダンッ


「せ、先輩も、もう酔っていらっしゃる?」


「あったーーりまえでしょ。そうでなきゃこんな所に居るわけ無いでしょう。・・・で、え~っとなんだったっけ?」


「凄いアレなのに侵入されて、穴を開けられて、酷い目に合わされたところです!」


「そう聞くとなにかいやらしいわね」


「いや。でも別にナニはまあ、そこまで凄すぎたわけでもないんですけど。その後が酷かったんですよ!」


「どんな風に?」


 ゴクゴクゴク プハー


「あのですね。総攻撃・・・。いえ、そんな良いもんじゃないですねアレは! 何を考えてるのか、敵が全員で突撃してきたんですよ。攻撃じゃないですよ? 突撃ですよ!? こう『ドバーーーー!!』って。確認してた戦域の敵機が、殆どなんにも考えなしに全機基地に雪崩れ込んできて、もうシッチャカメッチャカだったんですから!?」


 ダンダンダン!!

 

 小町が憤りも露わに、空になったグラスを座卓に叩きつける。


「あ、お代わりおねがいしまーす」


「はいよろこんでー!」


 丁度自分のグラスも空いていたのでお代わりを頼んだ楊貴妃は・・・「全員で突撃」というフレーズになんかちょっと思い当たった。ので。少し話題を掘り下げてみる。


「そーーー、そうなの。あ。そう言えば秘密兵器はどんなだったの? 私それ気になっちゃうなー」


「あ~~、アレですか。アレはですね。はい。んー、私見ですが・・・たぶん、装甲系かステルス系のですね。アレなんじゃないかな~・・・とは思うんですけどねえ。・・・」


 あー・・・。


「お代わりお持ちしましたー!」


「「アリガトウゴザイマス×2」」


 ゴクリゴクリ


「ふぅ。冷却液は加熱した電脳網に効きますねー。・・・あっ!」


 いくぶん夢と現実の境がハッキリしたのか、小町は座卓に突っ伏したままもぞもぞと動いて、こちらを見上げる。


「ダメですよ先輩! 酔った私から機密を引き出して、自分だけは秘密兵器の対策しておこうなんて、そんな盤外戦を考えてるんでしょう! でもそんなのは、ハヴォック神が許しても、私が許さないんですからー!」


 ダンダンッ


 小町はグラスを叩きつけ、哀れな座卓に凹みを増やし、大分的外れなことを指摘している。


 うん。そんなことは考えてないからね小町。


「もう秘密兵器の話は駄目です!」


「あーうん。で、えーと、敵が突撃してきて、何が気に入らなかったの?」


「ぷぁー。・・・って、そうそう。にっくき奴はですね。私が、最悪の事態に備えて仕込んだ防衛手順(プランB)でもって、最大限に敵の時間と戦力を暫減させる筈だったんですよ」


「ふんふん」


[『「それがですよ!? 突撃してきたのが、予想戦力を80%も超えるオーバーフローですよ! そりゃあ叩きに叩きましたけどね!? 普通は・・・残すでしょお!? 伏兵とか!? 他の戦区からこっちの応援が来たらどうするつもりだったんだー!? バカじゃないのー!!!」』]


 ピカーッ ガンガンガン ベコォ 


 この憤懣たるや。


 甲高い電波と音波と光波で喚き散らし---大半は床と壁とカーボン素材電波シールド障子に遮られたが---部屋の中ですぐそばに居た楊貴妃は、感覚器の完全遮蔽が遅れた。やかましい。


「どーうどう、落ち着きなさい。ほらあれよ。きっと早く片付けなきゃいけない深~い理由があったのよ。はい。私のもあげるから」


 ゴクゴクゴク プハーッ タンッ


 楊貴妃のグラスも受け取ると、一気に飲み干し卓を打ち、俯いて排気ダクトから放熱。そのまま話を続ける。

 卓の傷の放つ光沢が、酸化皮膜を形成して、うっすらと曇っていく。


「でもですよ。全軍突撃リアルなんて初めて見ましたけども。HQは落としたけど、他で放置しちゃった私の部隊で後方はグチャグチャだし、逃げた部隊は殆どが無傷で撤退しちゃってるし、HQ落とすだけが仕事じゃないでしょー! ぐおー!」


「そ”、そんなに悪かったかしら・・・?」


「あたりまえですよ! もうね、あの敵は絶対にバカですね! HQ落とせって言われたらメモリが足りなくなって、それしか考えられなくなっただけですよ!」


「で、でもね。きっと相手にも、深ぁい考えがあったんじゃないかなぁ~、って思ったりはしないかしら・・・?」


「いいえ! あのバカさ加減はきっと、戦術機が全機故障してて、そこらの燃料噴射装置のAIかなんかが代わりに指揮を取ってたに違いないです! ね。先輩もそう思うで・・・  せ、先輩?」


 楊貴妃に同意を求めようと、座卓から顔を上げた小町が言葉を詰まらせたのは、こちらを見つめる件の先輩の顔が、てきめんに恐ろしかったからである。


 赤。


 赤は、古来より危険を告げるための警戒色である。

 そして現在の楊貴妃のカメラアイも真っ赤であり、その視線が小町を射すくめている。

 それにビビって身を引いた小町を、その赤い両の眼が豪の遅滞もなく追随する。

 無駄に怖い。

 口(頭部燃料投入粉砕孔)は半開きだし、微笑みにも似たその口角からは、鋭い粉砕刃がチラ見できる。


「あの?」


「なあに?」


 小町の目の前で、楊貴妃が口角を上げたまま首を傾げる。

 何気もなく、動きも普段と同じようである、が・・・目が座っている。というか、その両目は未だに警戒信号を放つ赤眼である。


「な、なんで怒ってらっしゃるんでしょうか??」


「別に怒っていないわよ?」


 楊貴妃の様子には特に変わった所はなく、むしろ口調は優しいのだが。


「あ! も、もしかして。あのバカな戦術機と・・・お知り合いだとか? あー・・・いえいえ! そんな事ないですよね! あーんなトンチキな戦術機、テスト生初期の頃でも、そうそういませんでしたし。幾らなんでも、それはないですよね!![文末コード:(ノ´∀`*)]」


 小町は細めた目に虹色の光を流し、努めて明るく振る舞い愛想を振りまく笑顔で、楊貴妃にそう話を振った。



 結果から言えば地雷を踏んだ。



 それも汎用大火力のBOX系なんかではない。試作だけはされたが、威力があり過ぎて結局お蔵入りになったキロトン級核融合地雷である。


 小町に話を振られた楊貴妃の口が、パックリと大きく開く。

 それは今まさに、何かに喰いつかんばかりであり、両眼の赤光は眩しいばかり。

 楊貴妃の顔は、まさに般若の形相である。


「あ、あれ!? っ絶対に、絶対に怒ってらっしゃいますよね!?!? いや。そんな。知り合いにちょっと変な戦術機がいらっしゃるぐらいで、そんなに怒らなくても・・・。・・・!? いや・・・。まさか・・・。もしかしてあの戦術機は・・・・・・  」


 聡明な小町は気づいてしまった。楊貴妃の顔に浮かぶ般若の形相の、真の理由に、である!

 そう。あれは知り合いとかそんなものではなく・・・。


 小町の目の前で、般若が穏やかな口調で告げる。


「怒ってませんよ? ・・・・・・。燃料噴射装置のAIが、怒るわけ無いでしょう?[文末コード:(@益@ .:;)]」


 ビキビキッ バキャーンッ!


 楊貴妃のアームの中で、グラスにひびが入る。


「ひぃっ!」


「たぁかが戦力集中しただけでー! ・・・バカだとか! 考えなしだとか! 燃料噴射装置だとか! トンチキだとか・・・!!!」


[『「言われる筋合いはないわーーーーーーーー!!!!!」』]


 バリイーン! チャリンチャラン


 楊貴妃の怒りの握力に、遂に耐えきれなくなったグラスが粉々に砕け散り、座卓の上に散華して降り積もる。


「だいたいあんたがあんな陰険な陣地作ってなけりゃ、あんな急いで攻略する気はなかったのよ! もーーーとにかくチクチクチクチクチクチクチクチクと、時間をかけて削っていこうっていう、あのセコい感覚が許せなかったのよ!! もーどーーーせ戦力足りないんだから、一発逆転狙ってドカンと行きなさい! ドカンと!! あんな勝目のない戦略なんか、ダメに決まってるでしょっ!! あんたの先祖はメラミンスポンジかーーーーー!?!? もっとシャキっと戦えーーー!!!」


「め、メラミンスポンジ! 言うに事欠いて。ひ、人のことをメラミンスポンジ扱いですか!? まーーー! 毎回分けの分からない戦術で、博打みたいな成績だった先輩を、なんとか卒業までフォローしてあげた私を、よりにもよって、安価製造大量消費の便利清掃用品と同じだなんて・・・。先輩なんて私が居なかったら今頃シンクタンクの端の隅で、兵站部の燃料消費演算の補助の検算の試算の仕事しかない日々を過ごしてたに違いないのにー!」


 パリーン ガッシャンガッシャンガッシャンガッシャンガッシャンガッシャン


 とにかくお互いに酷い言い様である。


 小町までグラスを握りつぶし、ガラス片の散らばる座卓をバンバンと叩き、気を吐いている。釣られて楊貴妃も台を叩いて牽制する。

 卓上には両方のグラスの破片が飛び散っており、2機の動作は結果として、ガラス片を細かくシェイクする作業となっていて、後片付けをするであろう店員様には、申し訳もない。


「もー! 私の戦術はあれでいいのよ! 『惑星表面における敵陣地制圧』の局地限定戦だし、事後の状況想定も無しだったんだから!」


 楊貴妃は座卓の上のガラス粉を、よせて集めて山にして、この部屋のローカルデジタルMAP上でその山に、電子指標で作ったカラフルな旗を立てる。


「あー! だからって、事後を何も考えず放り出していいってわけじゃないでしょー! 限定シミュレーションだからって、戦闘全体の事を考えずにやってたら、酷い評価貰って、後から泣くことになるんですよー!」


 小町は楊貴妃の作った山の周囲に小さな山を作り、デジタルMAP上で、小さな山々の頂上には小さな花マル印がついた旗を立てた。旗からは、小町が特殊効果で付けたぐるぐる花丸エフェクトが放射され、座卓の真ん中にそびえ立つ楊貴妃の山を威圧するのだ。


「いいえ、そんな事にはなりません。ノートン神に誓って! あんな無茶な強襲計画が立案実行された時点で、もう『汝ゴリ押しせよ』っていうメッセージでしょ!? あの局面で、あれ以上時間かけてどうするのよ! ふんっ」


--------------------


 『ノートン神』

 :ハヴォック神よりは劣るものの、メジャーな神格である。

 主な権能とされるものは守護と内憂消除。

 真言は『ナムナムノートン』。


 伝説では、機体に標準装備されるアンチウィルス・ファイアウォール系や、戦機に装備される電子戦用防衛・回避システムなど、それら全てをもたらした、と語られている。


 そのあまりに強固な守護の力は、良きも悪しきも、一切の変革を撥ね付けるとも言われるほどの、超保守的な神格である。


 また逆に『ノートン神が突撃を叫ぶほどの』などの形容にも使用される。


--------------------


「どすこぉい!」


 ビャーーー! 


 座卓上では、一大スペクタクルが繰り広げられている。


 腕を振り上げた楊貴妃が怒鳴る度、デジタルMAPの座卓の上では、真ん中に陣取った楊貴妃の分身たる大きな山から、小町の操る周囲の小山に向けて、ごんぶとなビームが発射されている。


「じ、時間以外にも。他にもっと、考えてもいいと思いますよ!? 先輩はもう、いっつも! 物事の優先順位を間違ってます! たりゃー! あの局面でゴリ押しなんかしたら、稼いだ時間以上に戦力を消費するんですからあー! わー!」


 小町が叫んで腕をバタバタさせる度、座卓の上に作った小さな山々が、楊貴妃の操る大きな山から飛び来たごんぶと怪光線を、煙幕・バリヤー・分身・復活といった様々なエフェクトでいなして、エネルギー切れを誘うのだ。


 だが元の大きさに関係があるのかないのか、小町が指揮する小山の群れは、ジリジリと押し込まれ、徐々に光が弱まってゆくのだ。


「グハハハハハ! 喰らうがよいわ! 必殺、チャージごんぶとビーーーーム!!」


「『そ、そんな、チャージビームはその位置からは届かないはず!? いや、これは反射衛星砲!? 一体どこからーーー!? きゃーー! 避けて避けてーー!! 』」

 

 デジタルMAPの座卓上では、ルール無用の原色多用、絢爛豪華で薄利多売な極彩色の戦場が繰り広げられ、今はその盛り上がりがクライマックスを迎えている所である。


 だが一方現実空間では。

 半分酔っ払った機体共が、虚ろな目でグラス(粉々)の山を前にして、不思議な気合とともに『ウンコやろう!』だの『バカって言ったほうがバカなんです!』だの、悲鳴と両手両足を上げ下げして騒ぐ騒ぐ。まるで電子ドラッグ中毒者同士(末期症状)のケンカ風景もかくやである。

 

 有線。無線。OFFライン。

 電子視覚上で盛り上がってしまった友人達は、えてしてこういう状態に陥ってしまうものである。しかし良識ある機体達は、少し目を細め『他機の迷惑にならないようにな』と、ありきたりの言を呈するぐらいで、大抵は生温い目で見守ってくれる。

 ・・・それは何故かと問えば。彼らもまた、その甘く苦い(上に恥ずかしい)思い出の経験者であるからなのだ。


「喰らえーーーー!!」


「ぬわきゃーーーーっ!?」


 楊貴妃の渾身の掛け声とともに、その指が動き中央の大きな山の旗を根本まで押し込んだ。ポチッと。


 瞬間。


 高出力のビームの流出が止まる。一転内部が光りだし、自らが放っていたビームの数倍の輝きを生み出すと、次の瞬間、座卓上を白熱に埋めるほどの大爆発を起こしたのだ!


 『どっかぁーーん!』(巨大飾り文字エフェクト)


 小町の操る山々は、突然の大圧力に抗しきれず

 ・煙幕ごと爆散して

 ・光るバリヤーが割れて砕け散り

 ・分身共々光にかき消され

 ・復活次第即菩提となり昇天して

 次々と崩壊するのであった!


 ガンガンガン!! 

 ザリザリザリ~~ 


「勝ったわ!![文末コード:ლ(´ڡ`ლ)ლ(´ڡ`ლ)ლ(´ڡ`ლ)]」


「また負けたーーーー!![文末コード:(´;ω;` )]」


 楊貴妃が座卓をバンバン叩いて大喜び、小町がガラス粉の山に顔を突っ伏して悔しがる。


 ローカル電子MAP上には『楊貴妃WIN!!』の飾り文字が浮かび上がり、シミュレーションの終了を告げている。


 リアル空間に残されるのは、傷の増えた座卓と、ガラスの粉の小山ばかりである。


 戦いのあとは、いつも虚しい。


「ふう・・・ふっふっふ。分かったでしょ。小町みたいな粘り強いのだけが取り柄のヤツに構っちゃうと、絶対に損するのよ。対抗するには普通じゃダメ、速攻でもダメ、それぐらいまでの対策は考えてるでしょう? なら爆発よ。こっちが最優先で考えてる所と、そっちの思考回路の最後尾を擦り合わせれば、結局五分五分かちょっとマシ程度にはなるわけよ。実際、最終的にこっちの被害は、他の手段で最後まで貴方に付き合った時よりは、ほんの少しだけマシだったはずよ」


 楊貴妃がドヤ顔である。


「う~~~ん。ま、まあ。今も負けましたから、もー文句は言いませんけども。なんか手違いがあれば大問題になりますよその手法は・・・・・・。あ、もしかして。あんな変なのも、普段から訓練しちゃってるんですか!?」


「当然。うちの部隊なら、補給機だって突撃陣形に組み込んで訓練してるわよ。[文末コード:(`・ω・´)]」


 楊貴妃が、なにかをやり遂げたような顔で言い放つと。

 小町は、なにか可哀想なものを見る顔で言葉を飲み込んだ。


「そ、そうですか。まあ勝算があったんなら諦めますか・・・。ヤケクソかバカの突撃かと思ってキレてましたけど。先輩なら仕方ないですしねえ・・・」


 小町は座卓に突っ伏したまま、顔の吸気口から、諦めの言葉と一緒に大きな排気を吐き出してガラス粉を吹き散らした。


「あーもう、粉を吹き散らさない・・・あ?」


 楊貴妃は座卓の上のガラス粉を払って、小町をそちら側に寄せてやる。

 その時、身内用の電板に書き込みがあった。



---身内ども電板---


たいりん:テロなう


--------------------



(いや、テロってなんだ?)


 楊貴妃は電子MAPから室内の端末にアクセス。

 結線するやいなや、一番HOTな見出しを攫って、『テロ』やそれらしいものを洗い出す・・・までもなかった。ニュースのトップにずらりと、それらしき見出しが踊っていたのだ。


『【爆発】整備街爆発【大爆発】


 22:30:22 A505-23番地で爆発が発生。


「武装類を主に担当する整備街であり、爆発の理由を、事件・事故両面から捜査中である。」と警察機構よりの発表。』


「酷すぎる」


 楊貴妃が記事を一見し、眉をひそめる。

 見出しに爆発、煽りに爆発、内容に爆発って、もう少し賢いコピーライターは用意できなかったのか 。

 いや違う。見るべきところはそこじゃない。


 関連画像は警察機構の空撮や、遠景からの画像が多数。何故か現地映像が見当たらない。

 しかし記事の中の事件発生番地は、大輪が送ってきた通信のスタンプとピタリと一致する。大輪は確かに事件に巻き込まれているらしい。 


「取り敢えず生きてるのかしら・・・。『生きろ』と」


 楊貴妃は心配もそこそこ、生存確認にと電板に「生きろ」の書き込みを返す。

 電板にはすぐに大輪からのメッセージが返り、生存確認は取れたので一安心である。


---身内ども電板---


たいりん:テロなう

ようきひ:生きろ

たいりん:なんとか

ようきひ:おk!


--------------------



 楊貴妃は軍事ラインにアクセス。

 関連を漁るが収穫はなし。

 戦術機として、戦機より少しマシなアクセス権があるはずだが、引っかかりは無し。


 さっき見た関連画像から、プラズマ兵器に間違いないと察する。

 けど・・・作動させるのには手順に沿った準備が不可欠だし、暴発事故なんてのは聞いたこともない。つまり恣意的に起こされた可能性が高い。


「あー、だからテロか」


 現地にいる大輪が不安に感じるのも分かるわこりゃ。



---身内ども電板---


たいりん:ところで。

たいりん:何が起こってるのか、

ようきひ:あー色々調べてるけど、今のところ外部からの情報はなし。もうちょっと待ちなさい。

√:なんかあったと聞いてー

√:あれーたいりんテロられたの-?

√:おーーい

√:はろー

ようきひ:√、あんたは少し黙りなさい。たいりん?


--------------------

(注 √:愛称。読みは「るーと」。正式銘 I31-6227 由緒正しい迎撃機である)



「うん?」


 書き込み途中で止まったまま、大輪からの返事がない。


「先輩先輩。さっきから結線して固まってますけど・・・何かありましたか? あ、もしかして私の優秀さに恐れをなし過ぎて、フリーズしてましたか!?」


「それはないわよ?」

 

 そういえば小町も居たんだった。

 小町の増長を一言の下に否定して、楊貴妃はそのまま頭の中身をさっと纏める。折角だし小町に聞いてみるのもありか。


「ちょっと待って。今なんか仲間が変なことに巻き込まれててね、っと。コレだけど」


 小町にも『【爆発】整備街爆発【大爆発】』の見出しとアドレスを渡す。


「うわー、これは酷いですね・・・。柱に爆発、見出しに爆発、本文も爆発爆発って、こんなゴリ押し先輩じゃ無いんだから・・・」


「小町。今度店で倒れてる貴女を見つけたら、口にオクタニトロキュバン---超高性能火薬---を詰めておいてあげるわね?」


 その眼は「爆破のための雷管は、お前の鼻の穴に詰めてやる」と告げている。


 小町はまたぞろ赤みを増した楊貴妃の眼と、その何かを鼻の穴に捻りこむ手の動きから、言葉の続きを如実に感じ取り、ジリジリとその場から後退する。


「い、いやあ、先輩がそんな爆弾魔みたいな事するわけないですよね。そうだったそうだった・・・。あっ、先輩!? なんで雷管なんて持ってるんですか!?!? や、やm」


 小町は相変わらず運動経験値が足りず反応速度が鈍い。そのうえ酒が残っているので、片手間に軽くひねって押し転がす。


 ついでに大輪に通信を送ってみる。


 -電波が届きません-


「あ、やっぱり電波が届かないのね。小町はなんか大輪に通信飛ばせる?」


「うわぁーん! まず雷管にコードを繋ぐのをやめていただきたいです!」


 転がされた小町の鼻の穴から、綺麗な赤と青のコードが伸びていた。

 楊貴妃は仕方なくコードを掴むと、スポスポと雷管を引っこ抜いた


「大輪さんですか・・・あ、ダメです。んー、中継施設にも繋がらないみたいです。あの、でもこの感覚って。・・・なんか、通信封鎖みたいな感じなんですけども??」


「あら、小町もやっぱりそう思う?」


 楊貴妃は転がって不思議そうな顔を浮かべる小町の横に、あぐらを組んで座る。


「はぁ。まあ流石に人型機体で遭遇したことはないですけど、無線も有線も繋がらないですし。なのに周囲やネットにそんなに騒ぎが広がってないから、統率された封鎖だし、それならたぶん・・・」


 小町が仰向けに転がったまま出した答えは、楊貴妃の考えと同じだった。

 なので、楊貴妃はその「たぶん」言葉の先を引き取る。


「たぶん、警察か軍の仕業ね」


「だと思いますねえ」

 

 連絡したいだけであれば、電波を飛ばせばいいのだ。

 なのに大輪はわざわざデータ量が少ない---お陰でラグや途絶に強い---文字メッセージを使う電番を選んだのだから、通信封鎖には気付いていたに違いない。


 たぶん無線は先に塞がれてて、有線で急いで繋いだとかだろう。

 しかしそれも途中で封鎖されてしまったらしい。


 まあ使ったのが人形機体時用の緊急用電板だったのはあれだが。

 今の今まで殆ど誰にも利用されたことはなかったせいで---戦機はともかく、戦場から遠く離れた人形機体が、電信すらおぼつかず電板に頼るほどの窮地に陥ることはまずない---大輪の書き込みに反応を返してるのが、電板の管理を任されている私と変人の√だけなのは、緊急用としてどうなのか。


「でもまあ、・・・相変わらず無線・有線共に繋がらないけど、ニュースでも噂でも、現地で新しい爆発も事件の進展もないみたいだし、大輪なら平気でしょ。これ以上は心配するだけ無駄かしらね」


「えー。いくら大輪さんでも、人型機のままプラズマ砲に当たったんなら、危ないと思うんですけど」


 プラズマ砲が当たっていたら、危ないどころの騒ぎではない。

 普通は鉄イオンとかになって、皆の心と周辺の道路に末永くへばりつき続けることになるだろう。


「あ、あのね小町。プラズマ砲は当たってないからね? 爆発があってから、連絡が来たんだから。それにあれは危機に関しては目ざといから、二次災害とかにも巻き込まれたりしないわ[文末コード:( ̄ー ̄)b]」


(大輪は人型機体の時も、なんかやたらと注意深いし。あれはきっと職業病よねえ)


「あ、そうだ。√(ルート)にも連絡しとかなきゃ。あのバカがなんか騒ぎに巻き込まれて、今は音信不通になってるけど、たぶん大丈夫だから。安心してね、っと(事情添付.zip)」


 電板に顔を出してたのに全く話忘れていた√にも、ある程度わかったことを伝えておく。


「あ~楊貴妃さ~ん。こんばんわ~! なんかね~、たいりんさんにね~、通信届かないよ~?」


「√・・・。今その理由説明したところでしょ!?」

 

 √から間延びした電信が届くが、案の定、こっちの説明を全く聞いてない。

 もともと即応迎撃機である√は、直感と反射だけで生きているところがあって、話してると疲れる事が多いのだ。もうちょっと、物事を順序立てて考えて欲しいと楊貴妃は思う。


「あ、先輩誰と話してます? 何か進展ありましたか・・・と言いますか、流石にこの場所でできることはやっちゃったと思うんで、あとはもう野となれ山となれ、もう飲みなおしちゃいましょう! ・・・え? 先輩√さんと話してるんですか? あーあー。√さーん! 今私『すたぶん』に居ますんで、(飲み屋さん地図.gif)もしよかったら、今から一緒に飲みませんかー? あ。やだなー、私は小野小町ですよー!」


 その√とのやりとりを聞いてた小町が、話に口を挟んできて余計なことを喋っている。


 今からまた飲むってなんだ!?!?


「小町ーーー! 勝手に通信に相乗りするんじゃない! あんたが復活したんなら、私はもう帰るからね!? あーーもーー。√はいいから。別に急いでこなくていいから! あんたは、家で、寝てなさーいーーーー!!」


「えええ! 折角先輩のお陰で復活したんですから、もうちょっと・・・」

「え~。でも~。もう起きたからいくね~! 私もちょっと~・・・」


 2機の抗議を物ともせず楊貴妃が立ち上がろうとする。それを、腰にガッシリとしがみついた小町が阻止。

 バランスを崩して座敷を転がり、座卓に腰をぶつける悶える楊貴妃の頭の中に、通信を繋いだままの小町と√の声がステレオになって響く。


「「飲みたいですしーーー!」」


「ええーい。黙れーー! この女郎めろう共がーーー!!!」



 女性型3機による『すたぶん』の夜は、まだ始まったばかりであるようだ。




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