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chandelier 作者:ataru
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22/22

Chapter 22

 それから少し、時間が経った。
 白垣はあの後、警察に逮捕された。白垣良の名前がニュースのテロップにのったのを見て、僕は尚更もどかしい気持ちになった。
 あれから僕は、ずっとあの人の事を考え続けていた。あの人のために何ができるのか、何をすべきなのか。今どういう行動を取ればいいのか――長い間考えていたのにもかかわらず、不思議と『かな恵さんと面会しよう』という思いには至らなかった。
 白垣の言うような、逃げ‥‥‥なのだろうか。
 何も打開策を打ち出せず、瑞穂さんたちにも連絡を取らないまま時間は流れ、気付けば寒い冬になっていた。
 吐いた息が白く染まるのを見て、僕はやっと冬の到来を感じた。今までずっと時間の流れを感じない生活をしていたから、僕はもう冬の季節になっていることに驚いた。
 今は、コンビニへ晩御飯を買っていたところだった。少し前は、かな恵さんが時々作ってくれた料理を楽しみにしていたが、今はそんな楽しみはない。
 街灯が、夜の街を悲しく照らす。
 自宅のマンションに戻りポストを確認すると、手紙らしきものが届けられていた。
 誰だろう。
 家に帰り、一人の部屋の中で手紙を読んでみた。
 僕ははっとなった。

 正樹へ

 お元気ですか。長らく会えなくて申し訳ございません、こちらは元気です。
 今回、私から正樹に伝えたいことがあって、警察の方にも許可を貰い手紙を書かせてもらいました。

 正樹、本当にごめんね。

 あの交通事故の事から今まで、本当に皆にはたくさん迷惑を掛けちゃったね。特に正樹には。たくさん傷つけちゃってごめんね。皆にも嫌な思いさせちゃってごめんね。ごめんねって言葉しか言えなくて、本当にごめんね。
 あれ、何だか言葉が支離滅裂になっちゃった。
 あの頃の私は、すごく心が汚れてたんだ。人を使い捨てにしたり、簡単に殺そうとなんて思っちゃったり。正樹や良も、皆の事も同じ扱いだった。便利な道具としか思ってなかったんだ。
 こんなこと言っても何の解決にもならないし、信じてくれないのは分かってるけど。今の私には、ごめんとしか言えないんだ。皆に謝罪することしかできないんだ。今の正樹たちにこんな手紙しか送れない私を、どうか許してください。
 そちらが良ければ、私は皆と面会して、ちゃんと話をしたいとも思っています。いつか刑務所を退所したら、正樹たちが笑顔にできるように、精一杯努力するつもり、それがいつになるかはわからないけど。
 本当に、ごめんね。

 柊かな恵

「ああ、こういう手紙なら、私のところにも届いたわよ」
「そうなんですか!?」
 僕は瑞穂さんの言葉にとても驚いた。
 もしかしてとは思ったが、瑞穂さんのところにも手紙を書いていたのか。瑞穂さんは伏し目がちに言った。
「まあ、初めて見た時は、あまりにも改まった口調で私も驚いた。この短い期間にもう改心したのかと思ったわ」
「でも、実際どうなんでしょうか? ごめんごめんってたくさん書いてますけど」
「醍醐君は信じてないの?」
「‥‥‥僕ですか?」
 正直、僕はこの手紙に隠された真意が何なのか理解しかねていた。本当に申し訳なく思っているのか。まだ心の奥深くで醜い感情を燃やしているのか。はたまた、それとはまた違う目的があるのか。
 答えられなくなった僕を見て、瑞穂さんは静かに言った。
「‥‥‥私は少し信じてるんだ」
「え?」
「あくまでも少し、だけどね。でも、私はかな恵が本当に心を改めたと思ってる。でなきゃ、今になってこんな丁寧な手紙送ってこないだろうし、むしろもっとえげつない内容の手紙書いてきそうだし」
「中身が嘘だとは思わないんですか?」
「それは私にも分からない。だけど、私はかな恵が改心したんだって思う。――てか、無理矢理にでもそう思うことにしたの。そうすることで、自分なりに蹴りをつけることにしたんだ」
 瑞穂さんの『蹴りをつける』という言葉に、僕ははっとなった。
「いつまでもかな恵に対する憎悪を引きずっていても、もうしょうがないと思って。一度かな恵に会いに行こうとは思ってるんだけれども、そこでかな恵が本当に改心していたんだったら、その気持ちは、私としては精一杯応援しようと思ってる。あのひねくれた性格が治らないようであれば、いっそそれでもいい。
 だってそれは彼女の気持ちだもの。私の事を一生嫌いなのなら、一生嫌いでいてもらえばいいと思うわ。どんな返事が返ってきても、私はそのありのままの返事を受け入れるつもり」
「‥‥‥‥」
「あの子の本当の気持ちを受け入れて、きっぱり決別する。――そうして私は、この騒動をきちんと自分の中で終わらせたいの」
 上を見上げて言う瑞穂さんからは、凛とした強さを感じさせた。
 これが彼女なりの蹴りのつけ方なんだな、と思った。同時に、まだこの手紙に対する結論を出せていない自分が少し恥ずかしくなって、僕は何も言わなかった。
 今僕たちは、以前かな恵さんとデートした通りに来ている。凍てつくような風が吹く中、街はたくさんの人でにぎわいを見せていた。淡く揺らぐ街灯の光は、デートの時のあの不思議な高揚感を思い起こさせた。
 瑞穂さんがふと立ち止まる。
「ねえ、『シャンデリアの下で』って曲、知ってるでしょう? あれ、どういう経緯でできたか知ってる?」
「‥‥‥さあ、そこまでは」
「あの曲に詩をつけた人、主人公の失恋のエピソードを、舞踏会みたいに書いたんですって」
「どういうことですか?」
「昔の西洋の方だと、舞踏会は社交デビューした令嬢たちが、結婚する夫を見つけるために臨む、今の『婚活』みたいなイベントだったんですって。それと、普通の失恋の物語を掛けたそうよ」
「へえ」
 大通りのエピソードを中心に歌われる中で、何で『シャンデリア』って言葉が出てくるのかな、と思っていたが。やはり舞踏会のことが絡んでいたのか。
「令嬢たちは、運命の相手を見つけるために、人生を賭けて舞踏会へ戦いにいくのね。どんな気持ちで臨んでたのかな」
 瑞穂さんが呟く。
 その言葉は、頭の中で僕たちの境遇とリンクした。
 ‥‥‥‥。
 僕は心の中で決めたことがあった。
「瑞穂さん。僕、今度かな恵さんと話をして来ようと思います」
「あら、醍醐君も?」
 瑞穂さんが驚いた調子で言う。僕は静かに話した。
「僕って、皆の為皆の為って自分に言い聞かせていながら、実際は全然皆の気持ちを分かっていなかったし、自己満足で行動していた。本当は‥‥‥ただただかな恵さんの事が好きで。もっと分かり合いたかっただけなのに、いつの間にか、自分の中で目的を見失っていました。
 僕はかな恵さんと面会して、改めてかな恵さんの本当の気持ちを知りたいと思っています。そしてそれを踏まえて、自分が今本当にすべきことを成し遂げたいんです」
「もし、自分が深く傷つくような答えが返ってきたら?」
「‥‥‥その時は、その時です。相手がどんな答えを提示してきても、僕はその答えを享受します」
「私の言葉パクったでしょ?」
 瑞穂さんが横目で見つめる。「違いますって!」とあわてて言うと、瑞穂さんはくすっと笑って見せた。
「分かってる」
 瑞穂さんは真っ暗な夜空を見上げた。僕もつられて見上げる。
「色々また大変だろうけど、あなたはあなたなりに頑張ってね」
「‥‥‥はい」
 漆黒の夜空を明るく彩るように、イルミネーションが淡く光っていた。
 この先どう転ぶか分からないけど――僕は不思議と怖くなかった。

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