表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

プロローグ 日常

ふっと目が覚める。緊張のためかあまり眠れなかったようだ。

まだ薄暗い部屋を見渡す。部屋の中心にあるいろり、木でできた床に布を敷きその上で寝る母親。そしてその横にいる自分。

ここ、ピコの村ではありふれた家庭風景だ。母親と息子のマニム、そして長期の狩りに行っている父の3人家族である。

もうすぐ朝になる。睡眠が十分だとはいえないが今日は初めての狩りの日だ。

二度寝して寝坊する訳にはいかない。そう思い、マニムは顔を洗いに行くことにした。




家の外に出るとまだ肌寒い空気が肌に触れる。季節は春になったがまだ朝は寒い。

マニムは少し強く上着の端を握りしめ井戸へ向かって歩いた。

村は円状に家々が並び、井戸は村の中心にある村長の家の横にある。

井戸に歩いて行くと先客がいることに気づいた。



「おはようエル。」


顔を洗っている人に声をかける


「エルも早く起きちゃったの?緊張??」


そう言うと顔を洗っていた人が振り向く。

背は12歳の平均程度のマニムより少し高く、黒髪を肩までで切りそろえた少女が立っていた。


「うん。あんまり寝れなくて…。マニムも?」


目がぱっちりとしており、鼻筋は整っている。美少女と言って申し分ない。


「そうだね。やっぱり初めての狩りだ!って思うとね…。」


「大人たち程遠くには行かないんでしょ?」


「そう…だって聞いてる。村の近くにいるモンスターを倒すのが目標らしいね。

倒すモンスターもせいぜいガンディアデとかアラノドとか大人なら一人で倒せるものらしいよ。」


「それなら大丈夫そうだね。じゃあ私朝食の準備してくるから。」


そういってエルは自分の家へと戻っていった。




マニムが顔を洗い終わり、家に戻ると母親のユヨが起きていた。


「おはよう。母さん。」


「おはようマニム。やっぱりあまり眠れなかった?」


「うーんそうだね。少し緊張してる。」


そう言いながら部屋に入るとすでに朝食が用意されているのが目に入った。

今日の朝食はアラナド肉と芋の煮込みだ。消化の良いご飯であり、ピコの村での朝食の定番である。


「みんなそんなもんだよ。緊張してるってことは体が狩りに行くぞーって張り切ってる証拠だからね。さ、食べな。今日頑張れるよう少し多めにしておいたよ。」


「ありがとう母さん。そういえば井戸でエルに会ったよ。エルも緊張してるみたいだった。」


「あら、そういえばあの子も今日が初めての狩りなのねえ。女の子なのに狩りをやりたいなんて変わってるけど、かなり強いらしいわね。キノキ先生がいってたわ。」


「そうそう、俺より背も高いし、1対1だと勝てないよ。」


「あらあら…。」


そういって母は微笑んでいるが事実だ。キノキ先生の道場(といわれているが外で訓練を主にする)での訓練では一番優秀なのがエルだった。どんな武器も使いこなし、体術の技量も素晴らしかった。マニムは得意の槍を使った戦闘でのみエルと互角に戦うことができた。


「よし、それじゃあそろそろ行ってくるよ。」朝食を食べ終わり、そう母に声をかける。


「気をつけて行ってらっしゃいね。ちゃんとキノキ先生のいうことを聞くのよ。」


「わかってるよ!いってきます!!」





村の入口の門が狩りの集合場所だ。すでに何人か集まってきている。

村は周囲三方向を山に囲まれた天然の要塞にある。山には魔物はほとんどいないため、子どもたちが山菜を取りに行くことが多い。

かつてこの村ができる前は山には無数の魔物がいたらしい。しかし村長がある日やってきて、全ての魔物を殲滅し、ここに村を作った…ということになっている。

小さい頃は信じていた伝説だが、マニムももういい年であり、そんなことは不可能だということはわかっている。今の村長はたまに見かけると、ひなたぼっこをしてぼーっとしているただのおじいちゃんみたいになっているし…。そういえば村長の名前ってなんだっけ?


「お!マニム!お前も今日からだなー。」


背がマニムの頭一つ分ほど高く、引き締まった体を持つ青年にそう声をかけられた。


「キウテさん。おはようございます。キウテさんは今日で近場狩りは最後なんでしたっけ?」


キウテはマニムの隣に住む青年であり、今年で15歳になった。ピコの村では15歳になると村の近くでの狩りをやめ、2週間から1ヶ月ほどかかる、村から離れた「狩り場」での狩りをするようになるため、キウテの近場での狩りは今日で最後だという話だ。


「おう!そうだぞ。予定だと明後日ぐらいに狩り場組が帰ってくるからな、そこに俺は入れることになってる。まあそんな俺様がいるんだ。今日はまあ見学気分でいてくれや。」


「それじゃあ意味ないでしょ。でもありがとうキウテさん。」


続々と人が集まってくる。エルの姿も見える。なんとなく近づいて話すのが恥ずかしく、どうしようか迷っていると、よく通る大きな声が聞こえてきた。


「みんな集まっているな!!今日は西の方に行くぞ!!西のアラナドの巣のあたりにいく!各自、弓を忘れないように!」


「「「「はい!」」」」


キノキ先生の声に応じて全員が引き締まった声で答え、武器を取りに行った。


「弓は得意じゃないんだけどなあ…。」


そうつぶやきながら弓を選んでいると後ろから声がかかった。


「当たらなくても威嚇になるし、別にいいんじゃない?」


「エル…。」


「それより手持ちの武器を何にするかじゃないかな?私はこれにするけど。」


そういって刃渡り40cmほどのナタをもち、これみよがしに見せてきた。


「小回り効きそうでエルっぽい武器だな。俺は短槍にするよ。」


短槍とは1mほどの槍のことだ。長槍よりも小回りがきき、アラナドのような素早い敵には向いている。


「さあいこう。西の巣までは徒歩で行くらしいよ。」


そういってエルとともに門の横にある武器庫から外に出た。


「あのあたりにアラナドの巣がある。」


キノキ先生の指差す方を見ると数羽ほど飛んでいるアラナドが見えた。

骨と皮だけで出来た見た目をした茶色い鳥、鋭いくちばしを持ち、そのくちばしで地上の生き物であるガンディアデを主に食べ、生きている。


「いいかーお前ら。教えたようにあいつらは1羽やられると半分が逃げ、半分が攻撃してくる習性をもっている。まずこちらの位置が見つからないよう弓で攻撃。その後であいつらが気づいたら括弧撃破だ。落ち着いて倒せば殺されることはないが、万が一危ないと思ったら赤い魔法弾を上げろ。また青い魔法弾があがったら撤退だ。いいな。」


魔法弾とは魔法という技術を封印したもので一回だけ使うことができ、狩りに行くものはみな赤い魔法弾を一つもらう。村長のみが魔法弾を作ることができるため、未だに村長が作っているらしい。


「それじゃあ二人の新人は俺と一緒に、残りは二班に別けていつもの三箇所から攻撃しよう。」


その言葉を聞くとわかっていたかのように、マニムとエルを残して他の人がふた手に別れ、別々の方角に進んでいく。


「よし。準備ができたみたいだ。いくぞ。矢をつがえろ。」


「「はい」」


そう答え矢をつがえ、弓をひく。引く手だけではなく、押す手の方にも意識を向け、前後のバランスが悪くならないようにあごの後ろまで引き切り、その後肩甲骨を閉めるようにゆっくりと引き絞っていく。


「うて!!」


合図とともに一斉に弓が放たれた。


「あたらねーかー…。」


マニムの矢はアラナドが動いてしまったため外れてしまった。


「よしっ!」


一方でエルの矢はアラナドの頭にちょうど刺さったようだった。


「さすがエル!」

「よくやった!エル。」


二人で褒めていると巣からすごい勢いでふた手に別れ、鳥が飛び立っていく、片方は遠くに、もう片方がこちらへ向かってくる。


「いいかーみんな!うて!なくなるまでうちまくれえ!!」


その声に従い、丘に矢の雨が降り注ぐ。何羽ものアラナドが落ちていくが、一方で矢の雨をかいくぐってこちらへ来たアラナドもいた。


「マニム!エル!来るぞ!接近戦の準備!!」


「「はい!」」


マニムは短槍を正眼に構え、エルは半身を切り、ナタを前に持つ形の構えをとった。さらにキノキ先生は中程度の長さの剣を二本抜き、左足を前にし、少し姿勢を低くした双剣スタイルになっている。


「くる!」


まずは10羽ほどでこちらへと襲い掛かってきた。近づいた瞬間、キノキ先生が2羽を切り捨てているのを横目に、マニムは目の前に現れたアラナドに槍の一撃を叩き込んだ。そのまま一歩下がり、左にいるアラナドを引く力をのせた槍の柄でたたきつけた。叩きつけながらエルの方を見ると素早い動きで殺しまくっていた。

どう見ても一振りなのに、一瞬でアラナドが3羽殺されている。どうやるんだろう…。


やがてアラナドがほぼいなくなり、キノキ先生が青い信号弾をあげた。


「みんな!今日はここまでで十分だ!帰ろう!!」


「ん?マニム。怪我してるじゃないか。」


「あ、はいさっき少しアラナドのくちばしが刺さっちゃいまして…。」


戦闘中に何度かエルの方を見ていたら、逆側からくちばしが肩にささったのだ。

とても痛かったが戦闘中であるため、声を上げずに戦い続けた。


「うーん。結構ひどいな。帰ったら村長に見てもらえよ!」


「わかりました。」


ピコの村において治療術が使えるのは村長のみである。だからいつもみんな大きな怪我をした時には村長に治してもらっている。




「村長!すいません。今日の狩りで怪我しちゃったんですけど…。」


なるべく早く観てもらったほうがいい、とキノキ先生に言われたため、村に戻るとすぐに村長の家を尋ねた。


「はいはい。よびましたかな?」


「村長ごめんなさい。ここ今日アラナドに突かれちゃって…。」


「どれどれ、こっちにきて怪我を見せてみて。」


「あーこれなら大丈夫そう。いくぞ。それっ。」


その声とともにまばゆい光が見え、そして次の瞬間、右手の痛みはなくなり、傷も綺麗になおっていた。


「すごい!村長すごいんですね。ありがとうございます。」


「そういえば君は初めての治療か…つまり今日が初めての狩りだったんだね。」


「は、はい。そうです。」


そこでマニムはふと今朝気になったことを思い出した。


「あ、あのーそういえば村長ってみんな呼んでますけど、村長の名前ってなんて言うんですか?」


「あ、ああそういえば最近名前呼ばれないのう。」


「私の名前はね…ミチノリ…かつてはニッタミチノリと呼ばれておったよ。」

アラナドはプテラノドンをイメージしてます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ