北国
企画「ひだまり童話館」の『ひえひえな話』です。
啓介一家は、とある北の国に引っ越してきた。そこは父方の祖母の家だ。祖父が他界し、祖母だけでは北国の暮らしは不安だからと引っ越してきたのだ。
小学校一年生の啓介は不満だった。せっかく出来た友達と離れなければならなかったからだ。何も引っ越さなくても……と啓介は思っていた。だから祖母に対して素直になれずにいた。
「啓ちゃん、今日の学校はどうだったかい?」
祖母に聞かれても、啓介はそっけなく返すだけだ。
「別に。いつもと変わらないよ」
啓介は一言だけ言葉を発し、自分の部屋に駆け込んだ。
どうしてこんなところに引っ越してきたんだ!
啓介はそればかりを考えていた。祖母との関係も冷えきり、最悪な状態だ。
そんな啓介一家に、初めての冬がやって来た。雪が降り、啓介は最初の頃こそ喜んで庭で遊んでいたが、その雪の凄まじさに家にこもるしかなかった。
こたつに入りながらも、啓介にとって寒さはぬぐえなかった。
「寒いよー」
「寒いねえ」
啓介の言葉に応えたのは祖母だった。啓介は疑問に思ったことを聞いてみた。
「おばあちゃんはあんまり寒そうにみえないよ」
祖母もそれに応じる。
「おばあちゃんは北国生まれだからねえ」
「北国生まれだと寒くないの?」
「そりゃあ寒いさ。ただ、慣れってものがあるからねえ」
「ふーん」
「ちょっと手を出してごらん」
「え?こう?」
啓介が両手を差し出すと、祖母はその手を擦り出した。
「これであったかくなるよ」
「おばあちゃん……」
啓介は恥ずかしさから目をそらしてしまった。しばらく祖母は手を擦っていてくれた。
「……おばあちゃん、ありがとう」
啓介がそう言うと、祖母は嬉しそうに笑っていた。祖母のしわくちゃな手は温かかった。