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後編

降り続ける雨は勢いを弱めたが、未だ舗装路を叩き続けていた。


打ち付ける雨は冷たく、心と身体が冷えていく。


「……大切な人、ね……」


いつもの帰り道、とある路地の前で立ち止まる。


こんな雨に打たれて濡れたからだろうか。


それともあんなことを言われて昔を思い出してしまったからだろうか。


気付けば足は路地を曲がり路地裏へ向かっていた。


「……私も大概不様な女ね……未だに昔の男を引きずってる」


路地裏の片隅、薄汚れたドラム缶の上に置かれた小汚ない酒の瓶に差された一輪の花。


いつか作った墓標……のようなもの。


こんなものを作った時点で未練がましいというものだ。


最近は来ていなかったからか手向けの花は、枯れていた。


「……貴方は、今の私を見てどう思うのかしらね……」


こんなも不様に生き続けている女を……


「……何やってるんだか……馬鹿らしい……」


少し昔を思い出してセンチメンタルになっていたようだ。


さっさと帰ってシャワーを浴びてよう。


そう思った時、不意に人の気配を感じた。


路地の角から現れたのは薄汚れたレインコートに身を包んだ子供だった。


レインコートのフードの下から覗いた力ない瞳と目が合う。


「……あ……」


レインコートの子供は口を開いて何かを言い掛けたようだが、そのまま足下の水溜まりへ倒れ込んだ。


この辺りに住む浮浪児だろうか。


それにしては、汚れているとは言え上等な物を身に付けている様だが……


「……た、たすけ、て……」


倒れた子供を観察していると、水溜まりからフラフラと立ち上がり覚束無い足取りでこちらに向き直ると、今度こそ言葉を紡いだ。


フードの下の顔立ちと、首もとから伸びた髪の毛……少女か。


助けて、ね。


こちらとしては助ける筋合いなどない。


この子を囮にした罠の可能性もある。


「……何があったの? 言ってみなさい」


「ッ!」


こちらの返事に驚いたのか、嬉しかったのか、びくりと肩を震わせた少女の瞳に力が戻った。


「……わからないの……家に急にお父様の友達だって人達が来て……逃げろって言われて……」


いきなり意味のわからないことを……


「恐い人達が来て、組織が何だとか……」


組織か……


まさか……


「……顔を見せなさい」


少女のフードを下ろす。


「…………」


殺した男から託されたバースデーカード。


ポケットからあのカードを取り出す。


カードに貼られた写真に写った親子。


男の横で微笑む少女は、紛れもなく目の前の少女だった。


これは面倒なことになった。


「……それ、お父様の写真……」


見られてしまったか。


「貴女のパパから預かったのよ。

誕生日おめでとう。 リーフ」


カードに書かれた名前を呼んでカードとプレゼントの包みを押し付けた。


もう持っている意味はない。


「……え、どうして……?」


不思議そうにこちらを見上げる少女。


「……さぁ、ね……預かってた物は渡したし、私は帰るわ」


無用な期待は抱かせない方が互いのためにも良い。


面倒事に巻き込まれる前に退散しようと踵を返す。


「待って!お姉さんも、お父様の友達?」


「私は……貴女の味方じゃないわ」


振り返らずにそう答える。


「じゃあ敵?」


難しい質問だ。


「少なくとも今は敵ではないわね」


「なら、助けて! もう誰もいなくなっちゃったの!」


彼女を逃がした者達は……死んだか。


彼女が組織に狙われる理由は知らない。


だが組織に捕まろうがその辺のゴロツキに拾われようが、けして楽しい未来は待っていないだろう。


それは親の仇である自分と来ても同じことだ。


「私はやめておきなさい」


「でも……でも!

お願い!助けて!お願い!」


背中にすがり付かれる。


振り払うのは簡単だ。


この娘を見捨てれば、自分は日常に帰れる。


「……私に着いてきても、待っている現実は地獄でしかないわ……それでもこの道を選ぶの?」


なのに、そう答えていた。


「それでもいい。地獄でも一人じゃ嫌だから」


「……そう……私と一緒にいれば、今日よりもっと冷たくて痛い雨に打たれるかもしれないわ」


いつか、すがり付いた私に彼はこんなことを言った。


「……構わない。もう一人になりたくないから」


あの時の私もこんな風に答えたかもしれない。


「……そう……」


貴方はあの時、何を思っていたのかしら……


彼の墓標に目を向ける。


今の私を見てどう思うのだろう。


こんなにも不様に生き続けている女を……


「……貴女が望むなら、付き合ってあげる」


「……ほ、ほんとに!?」


「現実って地獄は生半可なものじゃないけど、私に手間を掛けさせる以上途中で逃げ出すなんて許さないわ」


「うん!うん!」


嬉しそうに何度も頷いて……


「……じゃあ、帰るわよ。もう離れなさい」


「うん」


歩き出すと、右手に小さな手が滑り込んできた。


雨に濡れて冷えたその手は力を入れれば潰れてしまいそうだ。


また余計な荷物を抱え込んでしまった。


この少女を、自分の腐りきった運命に巻き込んでしまった。


「言ってなかったわね。私はメアリー。殺し屋よ」


「リーフです。よろしくお願いします。メアリー、さま……」


今日のこの選択はきっとまた後悔する。


後悔しながら生き続けていくだろう。


この娘もまた、もう幸せにはなれないだろう。


もう二人とも地獄以外に行けるところなど残っていないのだ。


ならばせめて、今夜くらいはゆっくり寝かせてやろう。


気づけば雨は上がっていた。


この日の深夜、リーフの捕獲が組織から正式に依頼された。

思いの外長くなってしまいました。


殺し屋の女と、謎の少女の出会いの話でした。


色々と設定は作ってあるのです。


しかしこれのどこが恋愛でガールズラブなのか……


まだまだ試行錯誤しながらやってみます。


この話が続くかは未定。

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