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前編

初投稿した『嵐の夜に』の前日談です


死神 メアリーと謎の少女 リーフとの出会いの話


恋愛でガールズラブかは不明

……雨……


雨が降っていた。


どんよりとした暗い空から絶え間なく、雨粒が落ちては地面を叩いて弾ける。


規則的な雨音はどこか機械的で、冷たかった。


今夜は冷えるかもしれない。


────!


そんな雨音を切り裂く轟音。


使い込まれた大口径の自動拳銃。


威力は折り紙つき。


正直、この仕事には威力過多と言っても過言ではない。


そう、仕事。


人殺しの仕事だ。


「組織の殺し屋か……私は組織に歯向かったりはしていない。

何故、私が狙われる?」


側近たちの血溜まりの向こう、今回のターゲットである中年の男がこちらを振り返る。


「貴方が何をして組織の不興を買ったかなんて知らないし興味ないわ」


私にとってそんなことはどうでもいい話だ。


「組織から貴方を殺せと依頼が来た……それだけの話よ」


本当はこの男一人殺せればそれで良いのだが、部下達が抵抗するから奪わなくても良い命まで奪ってしまった。


「そう、か……私の運もここまでってことかね……」


男は諦めたような顔で少し笑うと、上着の中に手を突っ込んだ。


「今更何をしても無駄よ。やめておきなさい」


男の額に銃口を向ける。


抵抗など無意味だ。


「はは……プロの殺し屋相手にタイマン挑むほどバカじゃない。

銃ではないさ」


男が懐から取り出したのは1枚のカードだった。


片面に写真が貼ってあるのが見える。


「なぁあんた。あんた家族はいるか? 」


「……何」


何を言い出すかと思えば。


「恋人でもいい。

心から大切な人間は一人でもいるか?」


「……」


男の言葉に一瞬脳裏を過った面影。


まだ世間も知らない少女だった自分が出会った優しい人。


優しかったあの人の、死に顔。


「そんなものいないわ。

全てこの手で殺してきたもの」


「……組織の殺し屋……その銃……まさか、あんたは……噂の死神か……」


部下を殺され自身に銃を向けられても落ち着いていた男の顔が青ざめた。


「……私も、有名になったものね……」


なにも望んでこの道を選んだ訳ではない。


ただ少し、運が無かっただけ。


ひたすらに生きて、生きるため引き金を引き続けた先に今があるだけだ。


気付けば組織最強の殺し屋になって、気付けば死神なんて呼ばれていた。


「そうか、じゃああんたはあの男の……いや、何も言うまい」


男が何か言いかけて、口をつぐむ。


「……娘がな、出来たんだ」


しばらくして男が再び口を開いた。


「……」


「私はずっと一人で組織のためにこの身を捧げてきた。

そんな私にも、本当に大切にしたいものが出来たんだ」


引き金を引けば仕事は終わりだ。


引けば良い。


「子育てなんて初めてでな、何をしたらいいかわからないし、あの娘に何をしてやれたのかもわからない」


なのに何故か、男の独り語りに耳を傾けてしまっていた。


「私は死ぬことなど怖くない。

だがあの娘を失うことが何よりも怖いんだよ」


「……だから、助けろと?」


「そうじゃない。

組織に狙われた以上、ここを生き延びたところで逃げ切れはしない。

あんたに、一つだけ頼みがある」


男と目が合う。


強い意志を感じる。


「……聞くだけ聞いてあげる」


そう答えてしまっていた。


「もし、この先あんたが娘に会ったら、これを渡してほしい」


男は懐から小さな包みを取り出すと、先程のカードと合わせて差し出してきた。


「そんなこと、自分の部下に頼みなさい」


何故ターゲットのお使いなどしてやらねばならんのか。


「あんたに殺されてしまったからな」


「……」


確かに。


「まぁ冗談だ。

私が死んだら娘を逃がすよう手を回している。

もうすぐ誕生日の娘に、これをプレゼントするつもりだったんだ」


「そう……この先貴方の娘に私が出会う保証なんてないわよ?」


それこそ、その娘を殺す依頼でも来ない限りは。


「ああ、それでもあんたに頼みたい」


酔狂な男だ。


「……そう……願いはそれだけかしら?」


「ああ、これだけだ。

娘には何も知らないまま幸せになってほしかった……

それももう叶わないだろう。

私が自分の都合で巻き込んでしまったからな」


この男、わかって言ってるのか?


その言葉まるであの時の……


「そう、それじゃそろそろ」


脳裏に過る面影振り切って銃を向ける。


「ああ」


男は娘へのプレゼントをハンカチで包むとそっと脇に置いた。


自分の血で汚さない配慮か。


「……さよなら」


引き金を引き絞る。


轟音と共に吐き出された鉛弾が、ひたすら娘を想う父親の命を吹き飛ばした。


「……貴方は幸せね。最後まで大切な人を思って笑って死ねて」


これで、仕事は終わり。


何だか最後に無駄な時間を費やしてしまった。


もう忘れ去ったと思っていた過去まで思い出してしまった。


「……大切な人、ね」


ハンカチで包まれた小さな誕生日プレゼント。


「このまま転がしておくのもね……」


そっと拾い上げ、上着のポケットに突っ込んだ。


これをどうするにせよ、今日は帰ろう。


携帯端末で組織に仕事の終わりを告げ、踵を返す。


外で降り続ける雨は何時しか豪雨となり稲光と雷鳴がひっきりなしに轟いていた。


……困ったな。 傘は持ってきていない。

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