窓際の席の女の子
教室の窓からは墓地が見えます。ここまで近いとお化けが教室までやってきそうで、少し不安になります。
今日の天気は弱い雨です。風が強くて、窓際に座る私の髪は揺れています。
私は窓から、斜め前の誰も座っていない席に目を移しました。教室には数学の先生の声が響いていますが、私の頭には入ってきていません。
あの誰もいない席の持ち主は佐藤くんです。佐藤くんは先週から学校に来ていないのです。
理由は知っています。クラスメイトの男子たちが、彼をいじめていたのです。
少なくともクラスメイト全員が、彼がいじめられていたことを知っていました。しかし、誰も彼を庇おうとしなかったので、クラスの全員が彼をいじめていたと言っても過言ではありません。もちろん、私もそうです。
私は彼にお詫びのために会いに行くことにしました。彼の家は知ってます。なぜなら、通学の時いつも家から出てくる彼を見かけていたからです。
私はフルーツを買いました。彼の好みは分からないので、取り敢えず、私が好きなメロンとイチゴとマンゴーにしました。学校から帰ったら、それらを届けに行くつもりです。
帰りのホームルームが終わりました。私は急いで教室を出ます。私の家は学校から走って十分くらいの所にあります。しかし、今日は七分で帰ることが出来ました。
朝用意しておいたフルーツの入っているバケットを持って、走って家を出ます。
私の家から佐藤くんの家までは、走って三分くらいです。
私は息を切らしながら、佐藤くんの家のチャイムを鳴らしました。佐藤くんのお母様が玄関までいらっしゃいました。そしてお母様は今にも消えてしまいそうな声で、私にこう言いました。
「智明は、先週死んでしまったの。今まで伝えてなくてごめんね」
私はショックのあまり、手に持っていたバケットを落としてしまいました。
佐藤くんのお母様の話によると、佐藤くんは先週自ら命を絶ってしまったそうです。そして、彼は今、私が今日眺めていた墓地にいるそうです。
私はお母様にバケットを手渡し、行きの十分の一くらいの速度で帰り道を歩きました。