和ノ国童話奇譚 ~雪の紅、眠りの森~
※本作は和風ダークファンタジーです。
「また“物語みたいな死に方”だ」
その言葉が、江戸の町に広がり始めていた。
毒でもない。病でもない。
ある者は眠ったまま目を覚まさず、ある者は笑ったまま倒れる。
まるで――誰かが“筋書き”を書いているかのように。
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夕暮れの江戸。
提灯が灯り、町はいつもの賑わいを取り戻していた。
人々はまだ、その異変を“噂”として笑っていた。
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町外れの井戸端。
白い着物の少女が、水を汲んでいる。
雪乃。
長い黒髪を背に流し、静かに立つその姿は、この町の空気からどこか浮いていた。
「雪乃姉ちゃん!」
子供が駆け寄る。
割れた器を差し出す。
「ごめん、割っちゃった……」
雪乃はしゃがみ、破片を見る。
「怪我は?」
「ない」
「なら大丈夫」
淡く笑う。
「物は直る。でも、体は直らないから」
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その時だった。
風が止まる。
音が消える。
雪乃の視線が揺れる。
「……?」
次の瞬間。
空気を裂く音。
刀。
咄嗟に身体を引く。
目の前を黒い刃が通り過ぎた。
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黒装束の男。
顔は見えない。
ただ一つだけ確かなことがあった。
――殺しに来ている。
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雪乃は走った。
理由は分からない。
だが身体が先に動いていた。
路地へ。人混みへ。
背後から足音。
一つではない。
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曲がり角。
行き止まり。
逃げ道はない。
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「掴め」
声。
上。
屋根の上から手が伸びる。
迷う間もなく引き上げられる。
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屋根の上。
「走るぞ」
低い声。
顔は見えない。
だが動きだけで分かる。
慣れている。
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二人は屋根を駆けた。
やがて追手は途切れる。
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若い侍が振り返る。
「このまま町にいれば、また来る」
霧の山を指す。
「逃げるなら、あそこだ」
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「どうして私が狙われてるの?」
侍は答える。
「お前が“選ばれた”からだ」
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夜。
霧の森。
異様な静けさ。
鳥の声もない。
ただ“見られている”気配だけがある。
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山の中。
七人の男たち。
斧、鉈、槌。
侍は言う。
「一晩だけ匿え」
沈黙の後、頷き。
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夜。
束の間の平穏。
だが気づかない。
すでに“筋書き”は入り込んでいることに。
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老婆が現れたのは、その夜だった。
「かわいそうに」
団子を差し出す。
雪乃は受け取る。
一口。
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崩れる。
視界が落ちる。
体が動かない。
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老婆が笑う。
姿が変わる。
継母――綾女。
「これで終わり」
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雪乃は倒れたまま目を閉じる。
呼吸はある。
だが目を開けない。
まるで“役”のように。
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若侍は呟く。
「……やはり“役”にされたか」
「物語はもう始まっている」
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夜風に赤い布が揺れる。
血のような色。
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若侍は言う。
「次は――どの物語だ」
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森の奥。
赤い頭巾の少女が歩き出す。
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物語は、続く。




