最終回 恋の魔法
窓の外はすっかり明るくなっていて、小鳥のさえずりで目を覚ますピヨネラ。
朝食をしていると、ピヨネラママがお出かけをすると言います。
昼過ぎには帰るから、と言われ、ピヨネラは素直に「分かった」と返事をします。
「あら、珍しい。いつもは不貞腐れるのに。もうすっかりレディね」
ピヨネラはまだ少し眠い顔で、ほほをふくらませました。
ぼそりと「早くおとなになりたい」とぼやくと、なーに、と聞き返されます。
「何でもなーい」
「ママはもう出るからね~。食器をシンクに出しておいてね~」
「分かった-」
ー
――・・・
「ベクト・バスク」
光が落ち着く頃、ピヨネラの服装は替わっていました。
黄色のキャミソールドレスに、長袖の白い上着を合わせて、足元は白いブーツ。
いつものバスケットに甘いのと甘くないクッキー両方を用意して。
ハムとチーズとレタスのサンドイッチも入れて。
小さなボトルの赤ワインとカップも入れたら、少し重い気がしたけれど。
赤いチェックの布を、今回は黄色に変えてかぶせて。
鏡の前で姿をチェックすると、魔法の鏡の住人ベクトが「完璧だね」と言いました。
「オオカミ君はこんな服、好きかな・・・?」
「どうかな。本人に直接聞いたほうが早いと思うよ」
「うんうん。ベクト、ありがとう。行ってきます」
「うんうん」
家を出て待ち合わせ場所に向かうピヨネラはわくわくどきどきしながら道を進みます。
魔法の森の入り口あたりの花畑に行くと、そこにはすでにオオカミ君がいました。
気だるげに木の幹によりかかっていて、ピヨネラは遠目に声をかけようと思いました。
するとそこに、美しい曲線美を持つおとなの女性が近づいて来ます。
オオカミ君が微笑んだのがなぜか分かって、ピヨネラは思わず立ちすくみます。
キスを交わしたその様子は、まるで絵になっていてピヨネラは泣き出しました。
その時、現場にマシューがやって来て、ピヨネラに気づきます。
ピヨネラは泣きだし、家に向かって走り出しました。
風の向きが変わって、ふとそちらに視線を向けるオオカミ君が気づきます。
「・・・今のは、ピヨちゃん?」
近づいて来たマシューに、美女が「じゃあね」と言って去ります。
「あれ?この声・・・ウルフのお姉さん?」
「そうよ?」
「なんでぇー、今日はおめかしして、どうしたの?」
「うふふ。パーティーに呼ばれたの」
「・・・あ。ピヨネラは誤解したんだ・・・」
「ん?」
「誤解?」とオオカミ君。
「多分、遠目に誤解したんだと思う」
「あ」
「あはは。なつかしいなぁ」と今日はおめかしをしているウルフさん。
「姉さん、今回は笑い事かどうか分からないよ」
「分かった、分かった。わたくしはパーティーに向かいます」
「分かったよ」
「オオカミ君はここで待っていて?多分、ピヨネラは家にいると思う。違ったらヤバい」
「うん。分かった」
マシューは急いでピヨネラの後を追いかけます。
その後に、「姫」と小声で心配を口にした、側付きのコーカとフェネルが続きました。
ピヨネラは家に着くと、大泣きしながら魔法の鏡がある部屋に行きました。
「ベクト!ベクト!」
「ん~?どうしたんだい?デートは?なぜに泣いている?」
「ベクト、私、早くおとなになりたいよ!綺麗なお姉さんになりたいっ」
「・・・ほー。そういう特別な魔法はあるんだよ」
「じゃあ、それをできないかなっ?」
「んん~・・・それは一時的なものだし、代りに声を失うよ?」
「・・・でも、綺麗なお姉さんになるんだよね?」
「・・・んん~・・・中身は君のままだ。このままでは妙なのにつかまりかねない」
「え?」
「いや、いい。大人になってみるといい。魔法をかけてあげよう」
キラキラと光の粒が集まって来て、螺旋を描いてリボンを解くように空中に消える頃。
ピヨネラは鏡に映る自分の姿にビックリしていました。
そこには、綺麗なおとなの女性が映っていました。
「背が高くなってるーっ」
「キスがしやすくなるね。まぁ、いい。彼の前では喋れないからね。さぁさ、約束の時間に遅れてしまうよ」
力強くうなずいたピヨネラが家を出ます。
その部屋の窓のカーテンの隙間から、マシューが中をのぞいていました。
ベクトは苦笑して、鍵が開いているよと言うと窓を開けてマシューが言いました。
「やっぱり、ね!」
「うん。僕の仕事は終わったから、別の場所に移るよ。じゃあね」
キラキラと光りを残して、ベクトは鏡ごとどこかに消えていました。
マシューはそれを見送って、無言で窓を閉めました。
地面に着地すると、「早くオオカミ君に伝えねば」と言って走り出します。
「姫!近道を!」とコーカが言うと、マシューが「それがいいね!」と言います。
フェネルが「こちらですよ」と涼しげに近道を指差しました。
―
――・・・
魔法の森の入り口近くの花畑に寝転んでいるオオカミ君の元に、マシューが現れます。
まぶたを閉じているオオカミ君に、「ピヨネラは魔法を使ったみたい」と言います。
「何の?」
「多分、おとなになる魔法」
「は?」
やっと目を開けたオオカミ君は、心外そうに上半身を起こしかけました。
マシューがつぶらな瞳をオオカミ君の目の前まで寄せます。
「ピヨネラはマシューの大事なお友達。茂みに隠れて見てるからな」
オオカミ君は苦笑して、分かったよ、と言って再び横になりました。
茂みに隠れるマシューと側付きふたりが待ち構えると、ピヨネラがやって来ました。
豊かな金髪に茶色の目、ピンクの唇に、血色のいいほほ。
――オオカミ君!あ。彼の前では喋れないんだった・・・
目をつぶっているオオカミ君は、花畑の中で横になっています。
ピヨネラはしゃがみ込んで、オオカミ君のほほを指先で突いてみました。
目を覚ますオオカミ君はピヨネラの指を掴んでいます。
――何て言おう・・?
ピヨネラを見たオオカミ君は、意外そうな顔をして「恋の魔法?」とつぶやきます。
不思議そうに首をかしげたピヨネラに、「喋れないの?」と聞きます。
ピヨネラがうなずくと、オオカミ君はバスケットを見て、「お腹すいた」と言います。
嬉しそうにバスケットを示して、ピヨネラはピクニックの準備を始めました。
甘いのと甘くないクッキー両方。
「前に甘くないクッキーしか食べない言い方をしたけど、実は甘いのも嫌いじゃない」
――そうなんだ?
ワインを乾杯して飲んで、ほろ酔いを始めたオオカミ君は話をしたいと言いました。
「さっきね、腹違いの姉が来てたんだ」
――え?お姉さん?
「顔は全然似てないけど、頼れる姉だ。普段は親戚、って言ってある。他のは無理」
――どういう事だろう?
「城にいた頃、姉さんに守ってもらっていたから、なついてるんだ」
――城?
「最近、母が亡くなってね。療養のためにこちらに移ったんだ・・・」
――そうなんだ・・・
「そしたら、君に出会えた」
――・・・君、って誰のこと?
オオカミ君はおもむろにピヨネラの顔に近づいてキスをうながしますが、
ピヨネラはお酒に酔ってその場に倒れてしまいました。
急いでマシューがかけよると、そこには元の姿に戻っているピヨネラが眠っています。
意外そうにしたオオカミ君が、瞬きながら「恋の魔法?」とマシューに聞きます。
「ピヨネラって、大きくなったらあんな美女になるらしい」
「ほう。マシューには言おう。我、恋をしているなりよ」
「分かった、分かった」
「んん~・・・」
みじろぎをしたピヨネラを見て、マシューが「夢だったことにしよう」と言います。
「分かったよ」とオオカミ君。
そして目覚めたピヨネラに、オオカミ君は言います。
「お茶の時間ですよ。目覚めなさーい」
自分の背丈を意外そうにしているピヨネラが「アリス?」とぼやきます。
「君はピヨネラ、だよ?」
「・・・それでいいの?」
「何か夢を見ていたの?」
「夢・・・?」
「俺は君のことが大好きだよ」
「・・・そうなの?」
「そう。今すぐ結婚したいぐらいに」
「私はまだ、子供です・・・」
「うん。そうだね」
「待っててくれる?」
意外そうにしたオオカミ君が、「ほほにキスをしたい」と申し出ます。
「それくらいなら」
ほほにキスをされたピヨネラは嬉しそう。
「これくらいから始めましょう?」
「それでいい」
荘厳な鐘の音と、白い鳩たちと、紙吹雪が心地よい風に舞いました。
のちにピヨネラはオオカミ君こと王子様と、お城で結婚式をあげました。
その成長した姿は、魔法にかかったあの美女の姿。
ピヨネラは夢で見た事があるような気がして、今でも鏡の前で不思議がるのだそう。
昔どこかで見た事があるような気がするけれど、思い出せないみたいです。
そんな彼女のほほにオオカミ君こと王子がキスを贈りました。
「バルコニーに行かないか?星が綺麗だ」
星空の下で「君が一番綺麗だ」とオオカミ君に言われて、素直に嬉しそうなピヨネラ。
愛の誓いのキスをしたふたりは、末永く幸せに暮らしたとさ。
めでたし、めでたし。
―おわり―




