魔法の鏡に住む仕立屋
「こん、こん♪ピヨネラ~、遊びに来たよ~」
とある日、ピヨネラの家にマシューが遊びに来ていました。
「あ。マシューだ」
玄関まで走ったピヨネラは、嬉しそうに扉を開けました。
そこにはマシューがいて、今日は花飾りを髪の毛に付けています。
手には綺麗な花束を持っていて、「お見舞いに」と言葉を添えました。
実は最近、ピヨネラのお母さんが風邪をこじらせていました。
お留守番が多くなったピヨネラのために、マシューがお見舞いに来たのです。
「ありがとう。きれーい。花瓶に飾るねっ」
「うん。入ってもいーい?」
「いいよ~」
手頃な花瓶に水を入れて、花を活けるピヨネラ。
顔を見せることはできませんでしたが、ピヨネラママから「ありがとう」の伝言。
マシューははにかんで「分かった」と言います。
テーブルに置かれたカップに入った植物が面白いと言うと、ピヨネラが笑いました。
「これはパパが考えたの」
「そうなんだぁ。可愛いね」
「うんっ。気に入ってるんだ~」
「他にも何か育ててたりする?」
「シンク周りにキッチンハーブがあるよ」
「なに、それ?」
「バジルとかパセリとかをシンク周りで育ててるの。すぐに使える」
「ほー」
「あと、お庭で家庭菜園をしているよ。私はミニトマト担当なの」
「収穫して、食べる役?」
ピヨネラは大笑いが落ち着くと、「ちゃんと水もあげてるよ~」と返事をします。
「ウケてよかった」
「ねぇねぇ、マシューに見せたいものがあるの」
「ん?なぁに?」
「魔法の鏡」
「なんですって?どんなの?」
「その中に、仕立屋が住んでるってパパが言ったの」
「ピヨネラのパパは仕事何をしてるひと?」
「アイテム屋だよ」
「なるほど~。今、その鏡、見れる?」
「いひひ。見に行こうっ。物置部屋にあるの」
「楽しみだ」
移動をして物置部屋の扉を開け、遮光カーテンを開くピヨネラ。
明るくなった部屋の奥、壁際に姿見がありました。
マシューが先にその鏡を対面して、じーっと見つめています。
ピヨネラが言いました。
「実は、魔法の言葉を言わないと出てこれないんだって」
「ほー。住んでるの?誰かが?何も見えないけど」
「『ベクト・バスク』ってひとが住んでるんだって」
すると少しだけ、魔法の鏡が光りました。
ぎょっとして身を退くふたりがしばらく固まっていると、何も起きません。
「なに今の・・・?」
「『ベクト・バスク』って言ったら・・・」
するとまた、鏡が淡く光り出します。
「え」
「えっ。まさかっ・・・」
マシューが、「一緒に言ってみる?」とうながします。
「うん」とピヨネラが返事をすると、ふたりは息を合わせました。
「「ベクト・バスク」」
今度こそまばゆい光を放った鏡に思わず目をつぶったふたり。
まぶたに当たる光が落ち着いたような気がして目を開きました。
そこには、巻尺を首にかけて指先でいらっているベストスーツ姿の美青年がいました。
「やぁ、僕はベクト・バスク。お呼びかな?」
「「おお・・・」」
「ん?」
「イケメンね」
「思ってた感じとかなり違う」
「そうなんだ?」
ピヨネラが「ベクトは鏡の中でなにをしているの?」と聞きました。
するとベクトは、「お客さんを待っている」を言いました。
「「お客?」」
「ああ、大丈夫。君たちからお金は取らないから。魔法を解きたいんだ」
「どうして鏡の中にいるの?」
「昔はお城に使えていた。姫より自分が美しいとぼやいたのが聞こえたらしい」
「ああ・・・それで魔法使いに?」
「そう、鏡の中に閉じ込められた」
ピヨネラは「かわいそう」と素直に言いました。
「ありがとう。ある程度仕事をしたら、魔法は解けるんだ」
「そうなの?」
「そう。お嬢さんたち、時間があるなら僕の仕立てた服を着ないか?」
「お姫様の服を仕立てていたの?」
「そうだよ」
「ぜひ!」
「マシューはそのままがいいから、別にいい・・・」
「なんで?」
ピヨネラの言葉は、ベクトの「さぁて」と言ういきごんだ声にかききえてしまいました。
「もっと可愛くしてあげる」
鏡が光ってたんぽぽの綿毛みたいな輝きがピヨネラを包みます。
やがて光は小さくなって、いつの間にか消えていました。
光の螺旋と共に、ピヨネラの服はベクトの『仕立て魔法』で変わっています。
マシューが「わぁ」と感嘆。
ピヨネラは首元に赤いリボンが結んである淡い桜色のワンピースを着ています。
靴も桜色のローブーツです。
「すてき~。素敵だと思わない?」とベクトは言います。
「すっごーい。魔法ってすごーいっ」とピヨネラ。
「かっこいい魔法ね」とマシュー。
「だろう?」とベクトは嬉しそうに笑いました。
「時々、お願いしてもいーい?」とピヨネラ。
「もちろんだとも。仕事をすれば魔法は解けて鏡から出れるからね」
「分かった!マシュー、あっちの部屋で遊ぼうよ」
「うん。じゃーねー、ベクト」
「うんうん」
手を振っている場面で、ベクトの姿はいつの間にか見えなくなっていました。
物置部屋から出たふたりは、一緒にクッキーを焼いておやつの時間。
「ピヨネラは好きな男の子とかいる?」
「えっ・・・」
「あ。いるんだ?」
「えっ。うん、あの・・・オオカミ君が気になってるの。秘密にして?」
「分かった、分かった」
「どうして急にそんなこと聞いたの?」
「オオカミ君に、聞いておいて欲しいって言われたから」
「えっ。どういう意味っ?」
「そうねぇ。今度、オオカミ君に、この美味しいクッキー焼いてあげたら?」
「えっ・・・」
「あ。顔がりんごみたいで可愛い」
「もうっ」
楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕暮れ前。
また遊ぶ約束をして、マシューは帰って行きました。
大丈夫かな、と思いつつ少し様子を見ていたピヨネラ。
遠目に、物陰から出てきたコーカを見つけて、思わず微笑んだのでした。




