ウルフさんに甘くないクッキー
とりあえず魔法の森に向かい直したピヨネラとマシュー。
話題はバスケットの中のクッキーの話になりました。
「バスケットの中にたくさんクッキーがあるから、少しわけてあげるわ」
「え、嬉しい」
「でもね・・・」
「なぁに?」
「甘くないの」
「クッキーが甘くない?なにがあったの?」
「ウルフさんにお届け物で、疲れたら少し食べてもいいように多めに作ったの」
「ウルフ・・・?」
バスケットのふたを開けて、中身が無事なことを確認するとクッキーを渡す。
「まずはおひとつ、いかが?」
「じゃあもらおうかなぁ・・・甘くないクッキー?」
「甘さ控えめ、ってわけでもないの」
少し考えた様子で手に取ったクッキーの香りをかいでみるマシュー。
おもむろにそのクッキーを口の中に入れて、食べ始める。
「あ、サラミとチーズだ!」
「ご名答」
「あ、あと黒胡椒も入ってるでしょ!これ美味しいな」
「うふふ。じゃあ少し包むね」
「わ~、ありがとう」
ラッピング用の小分け袋を持っていたらしく、渡されたマシューはご機嫌。
ピヨネラは幼い姿として低身長だが、マシューはその腰ほどに届かない身長。
ふたりは楽しそうにお喋りをしながら歩いています。
そして魔法の森の入り口前の、花畑・・・
そこに、美男子が眠っていました。
顔を見合わせるピヨネラとマシュー。
「「なんでこんな所に?」」
黒い制服を着た美男子は鞘に入った剣を持っていて、花畑の中、眠っています。
ピヨネラとマシューには倒れているように見えたようで、心配中。
「声をかけてみようよ」
「いきなり攻撃とかされたらどうしよう・・・?」
小声で相談をしているふたりを前に、うっすらと目を開けて、しばたく美小年。
「・・・何?何の生き物?」
「わたしはピヨネラ。こちらはマシュー」
「僕は魔法の森の精霊だよ」
「バスケットの中身、何?」
「もしかしてお腹がすいているの?」
「・・・多少」
ピヨネラは、こんなにたくさんあるんだから少しくらいいいよね、と独り言。
バスケットの中の甘くないクッキーを15枚ほどおすそわけする。
「これ美味しいな」
「そう言えば、あなたのお名前はなんと言うの?」
少しの間視線があって、凛とした顔立ちの美小年は「僕はオオカミ」と言った。
「オオカミっ?嫌だ、怖いっ」
苦笑する美小年は花畑の花を一輪積むと、ピヨネラに差し出しました。
「怖がらせてごめん。今手持ちがないので、これで」
「あなたは人間に変身したオオカミなのっ?」
「違う、違う。僕の通り名だ」
「じゃあ・・・オオカミ君?」
「んん~・・・まぁ、それで、いい。オオカミ君は迷いの森に用事があるんだ」
「それなら、最初の分岐路の右側は、墨になった木でいっぱいよ。気をつけて」
「ありがとう。美味しいクッキーも。もう行くよ」
手をふって軽く挨拶をして、迷いの森に姿を消していく黒髪の美小年。
姿が見えなくなった頃、ピヨネラとマシューは魔法の森へ。
可愛いお花が時折キラキラと光っていたりします。
木々の葉の水滴も、光を宿してキラキラ。
ピヨネラが言いました。
「なんて綺麗な場所なんだろう?」
「魔法の森はいいところ」
「でも・・・あんなに綺麗な目をしている男の子、初めて見た・・・」
「・・・ほ~・・・」
「なんだろう、この気持ち?」
「オオカミに恋をしたの?」
「まさかっ、そんなはずはなくってよ」
「じゃあ・・・なに?」
「分からない・・・」
「うーん・・・そう言えば、どこにクッキーを届けに行くって?」
「ウルフさんのお家に」
「オオカミ?」
「ううん。ウ・ル・フ。今日は親戚のひとが来るんだって」
「だから甘くないクッキー?」
「そう、あ、あっちの角を曲がって少し進めばウルフさんのお家だよ」
駆け足になって十字路の角を右に曲がり、しばらく進むと家がある。
その玄関先の花壇でハーブの手入れをしていたのは、ウルフさん。
「はぁい、お嬢ちゃん」
「ウルフさん、こんにちは。ちょっと数が足りるか分からないけど甘くないクッキーです」
「おや、何かあったのかな?」
「途中でオオカミさんにクッキーをあげたの」
「もしかして黒い制服の?」
「そう。綺麗な目のひと」
「ほ~・・・あいつは確かに、目に灯る光がひととと違う感じはするけど」
「ウルフさんはオオカミ君のことをご存じなの?」
「ははは。親戚だよ。オオカミ君の、ね」
不思議そうに首をかしげたピヨネラ。
マシューが「なるほどなぁ」とぼやく。
「どうしたの、マシュー?」
「ウルフさんのニックネームは、多分『オオカミ』なんだろうに」
「ええっ?」
「ははは。そうなんだよ。ウルフは別の字で『オオカミ』と言うこともある」
長い黒髪を後ろでひとつにまとめていたウルフさんは、大きな丸眼鏡をかけている。
クッキーをもらったあと、ちょっと待っていてね、と言われて待機。
玄関の扉が再び開くと、彼女は薬酒を示した。
「はい、薬酒と交換」
もらい受け、バスケットの中に薬酒を入れると「はい、たしかに」とピヨネラは言う。
笑うウルフさん。
「気を付けて帰るんだよ」
「うん!」
「それからオオカミ君とやら、また会ったら仲良くしてあげてね」
「はい!」
それから少し、もじもじしていたピヨネラに気づくウルフさん。
「ん?どうしたの?」
「あの、ね、あのね、ウルフさん、髪の毛の縛り解いて、眼鏡はずしたら可愛いと思う」
「えっ・・・ほ~・・・ははは。ありがとう。今度のパーティーの時の参考にするよ」
「うんうん。コンタクトレンズ、って言う、人魚のうろこがあるらしいから」
「ふふふ。もう知ってるんだね。人魚のうろこ」
「はい!あのっ、もう、帰りたいです」
「うんうん。もうお帰り」
「うん!マシュー、行こう?」
「え、うんうん。あっちのお花、ラブリーだよ~」
「今日はもうお家に帰らないと。だいぶ時間を使ってしまったわ」
「そっか~。魔法の森にまたおいでね、マシューそこらへんにいるから」
「そうなんだ・・・いつ来れるか分からないけど、またね!」
「うん、またね!」
そうしてピヨネラはマシューと出会った初日、ママからのをお使いをかなえました。
無事に帰ってきたピヨネラは甘いクッキーと冷たいミルクにご機嫌。
なによりお届け物ができた達成感が、彼女をにこにことさせていましたとさ。




