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汚部屋王子を捨て、無菌の寵愛へ  作者: 月雅


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第10話 世界一清潔な結婚式


(こんなにも世界が輝いて見えるのは、磨き上げたからだけではないはずだ)


大聖堂のステンドグラスから、七色の光が降り注いでいる。

私は純白のドレスを身に纏い、バージンロードを歩いていた。


足元の白大理石は、今朝方私がこっそり【超・浄化】を掛けたので、鏡のように光を反射している。

飾られた白百合の花弁には一点の染みもなく、空気は高原のように澄み渡っていた。


かつて、カイル王子から「薄汚い」と罵られた私が、今は帝国の宰相夫人として祝福されている。

人生とは、どこでどう好転クリーニングするか分からないものだ。


「……綺麗だ」


祭壇の前で待つアレクセイ様が、マスクのない素顔で微笑んだ。

その瞳は、どんな宝石よりも澄んだ青色で、私だけを映している。

彼の手には白い手袋はなく、素手で私の手を迎え入れてくれた。


「準備はいいか、レティーシャ」

「はい。……少し緊張して、手汗が気になりますが」

「構わない。君の全てが、私にとっては聖水だ」


相変わらずの重い発言に、参列席からくすくすと笑い声が漏れた。

かつては「氷の宰相」と恐れられた彼が、こんなふうに笑うなんて。

これもまた、私が彼の心の澱みを掃除した成果だろうか。


神官が誓いの言葉を述べる。

私たちは互いに「はい」と答え、指輪を交換した。

私の薬指には、あのとき彼が個人資産で購入した大粒のダイヤモンドが収まっている。


「では、誓いの口づけを」


アレクセイ様が顔を近づけてくる。

触れ合う直前、彼は耳元で小さく囁いた。


「……愛している。私の世界を浄化してくれた、唯一の光」


唇が重なる。

その瞬間だった。


私の体内から、溢れんばかりの幸福感と共に、魔力が暴走した。

いや、暴走ではない。

これは、最大出力の祝福サービスだ。


キュピィィィン!!


結婚式の鐘の音と同時に、あのお馴染みの効果音が大聖堂に響き渡った。


中心から放たれた光の波紋が、参列者たちを包み込む。

それは物理的な汚れだけでなく、彼らの心に溜まったストレス、嫉妬、疲労、二日酔いの頭痛に至るまで、あらゆる「不要なマイナス要素」を分解し、消滅させた。


「お、おお……!?」

「なんだ、急に体が軽くなったぞ!」

「腰痛が消えた!」

「空気が美味い!」


光が収まると、大聖堂内はかつてないほどの清浄な空気に満ちていた。

参列者たちの表情は晴れやかで、肌艶まで良くなっている。


「……やってしまったか」


アレクセイ様が苦笑しながら、けれど愛おしそうに私を見つめた。


「まあ、いいだろう。これが我々の流儀だ。世界一清潔で、美しい結婚式になった」


拍手が沸き起こる。

それは儀礼的なものではなく、心からの感謝と祝福の音だった。

私は恥ずかしさと誇らしさを胸に、隣で微笑む夫の腕にしっかりと掴まった。



それから数ヶ月後。


私たちは公爵邸で新婚生活を送っていた。

もちろん、屋敷の中は私の手によって、埃ひとつない無菌空間に保たれている。

アレクセイ様は「家に帰るのが楽しみで仕方がない」と言って、以前のような不眠症も完治したようだ。


「レティーシャ、今夜の晩餐だが……」

「はい、何でしょう?」


私は掃除の手を止め、彼の書斎へ向かった。

アレクセイ様は留守だ。

彼が忘れていった書類を整理しようと、机の引き出しを開けた時、それは起こった。


ガサリ。


引き出しの奥、二重底になった隠しスペースを見つけてしまったのだ。

厳重な魔力鍵が掛かっていたが、私にとっては「鍵穴の汚れ(ロック)」を外すようなもの。

簡単に開いてしまったその中には、丁寧に梱包された小箱が並んでいた。


「……何かしら?」


怪しい賄賂の証拠だろうか。

それとも、国家機密?

私は緊張しながら、一番上の箱を開けた。


そこに入っていたのは――変色したハンカチだった。


『○月×日。レティーシャが額の汗を拭った聖布』


丁寧なラベル付きで。


次の箱には、使い古されたティーカップ。

『初めて彼女が淹れてくれた茶の器(未洗浄)』


さらに次の箱には、穴の空いたゴム手袋。

『使い古されたゴム手袋(初代)』


「…………」


私は無言で箱を閉じた。

これは、ゴミだ。

いや、所有者である彼にとっては「宝物」かもしれないが、衛生管理責任者の私から見れば、明らかな「汚染源」である。

未洗浄の食器を保管するなんて、カビの原因になりかねない。


「た、ただいま! レティーシャ!?」


タイミング悪く、アレクセイ様が帰宅した。

彼は開かれた引き出しと、私の手にある箱を見て、顔面蒼白になった。

氷の宰相が、これほど取り乱す姿を初めて見た。


「あ、いや、それは! 私の個人的なコレクションで、決して怪しいものでは……!」

「アレクセイ様」


私は最高の笑顔(営業スマイル)を向けた。

手には、愛用のミスリル製モップを構える。


「この屋敷に、不要な汚れは許しません。……たとえ、夫の趣味でも」


「ま、待ってくれ! それだけは! 私の生きがいが!」

「問答無用です。【超・浄化エクストリーム・クリーン】!」


「あああぁぁぁ……!」


彼の悲鳴(と私の笑い声)が、ピカピカの屋敷に響き渡る。

窓の外には、どこまでも澄み渡る青空が広がっていた。


汚れた過去は消え去り、私たちの未来は、一点の曇りもなく輝いている。

さあ、次は何を掃除しようかしら?


私の手帳には、今日も『幸福』という名の報酬が書き込まれていくのだった。


(完)


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― 新着の感想 ―
褒め言葉を言わせて下さい わぁ、えぇ話や……………… ったのになぁーwwwwwwwwwwwwwwww
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