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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第9話 魔法教師の診断

「アレン坊ちゃま。

 今日はまとめの日です」


オットーは、いつもよりきっちりした服装だった。

その隣に、セバスが控えている。


まとめ。

つまり、区切りだ。

テストか、診断か、その類いだろう。



場所は応接間。


お父さんとお母さんが並び、

その少し後ろにルークが座っている。


俺は、お母さんの隣に用意された小さな椅子に座らされた。


正面にオットー。

横に、記録用のメモを持ったセバス。


どう見ても、面談だ。


「では、ガルド様、エリシア様」


オットーが、講義よりも一段落ち着いた声で切り出す。


「アレン坊ちゃまの、ここまでの魔法習得状況について、ご報告いたします」



「まず、率直に申し上げて――」


一拍置いてから、はっきりと言った。


「アレン様は、初級魔法に限れば、

 私がこれまで見てきた中でも、非常に優秀です」


お母さんの肩から、力が抜けるのが分かった。

お父さんの目が、わずかに細くなる。


「習得速度。

 詠唱の安定。

 魔力消費の少なさ。

 いずれも、高い水準にあります」


オットーは、指を折りながら続ける。


「《ライト》《ウオーム》《ウオーター》《ウインド》。

 加えて、《ヒール》や《ミスト》といった支援寄りの初級魔法も、

 本来よりかなり早い段階で、実用域に達しています」


言われてみれば、

遊んでいるつもりのうちに、だいぶ覚えていた。



「特に注目すべきは、魔力線の制御です」


オットーの視線が、俺の胸元に向く。


「一本一本が非常に細く、滑らか。

 しかも、それを同時に複数扱える」


「先日の、《ウオーター》と《ウオーム》を併用した湯の生成は、

 まさにその長所がよく表れていました」


「ええ、本当に助かっていますわ」


お母さんが、すぐに言葉を添える。


「手荒れも減りましたし、

 子どもたちも喜んでいますの」


後ろでミーナが、力強くうなずいていた。


「生活魔法、支援魔法の分野では、

 このまま伸ばせば、領内でも有数の使い手になるでしょう」


そこで、オットーは一度、言葉を切った。


「しかし――」


空気が変わる。



「中級以上の火力魔法。

 いわゆる、戦場で主力となる分野では」


声が、少しだけ硬くなる。


「単属性に特化した才能と比べると、

 どうしても差が出ます」


理由は明白だ、と言わんばかりに続ける。


「魔力線の太さと本数の問題です」


板に、簡単な図が描かれる。

太い線が数本の図。

細い線が無数に走る図。


「大きな威力を出すには、

 太い線に一気に魔力を流す必要があります」


「アレン坊ちゃまにも、太い線がないわけではありません。

 ですが、平均よりやや細い」


「その代わり、細い線の本数と精度は、

 私の経験上でも、ほとんど例を見ません」


「結果として――

 初級魔法の精密な操作には極めて向いているが、

 中級・上級の大出力魔法には向かない、という評価になります」



「多属性適性についても同様です」


オットーは、慎重に言葉を選ぶ。


「幅広く扱えるが、

 一属性を極めた者のような爆発力は出にくい」


「現時点では、

 幅広い初級特化と表現するのが、もっとも適切でしょう」


お母さんが、不安そうにこちらを見る。

お父さんは黙って聞いている。

ルークは、腕を組みながら、どこか納得した顔だ。



正直なところ、その評価には心当たりがあった。


紙を揺らす《ウインド》。

光と影を同時に保つ《ライト》と《ダーク》。

ぬるま湯を作る、複数魔法の併用。


細かく、いくつも動かすのは楽だ。

でも、一発で大きなことをやろうとすると、すぐに息が上がる。


全部焼き払う火山にはなれない。

その代わり、蛇口をいくつも並べることならできる。


たぶん、それが俺だ。



「もちろん、訓練次第で中級魔法の一部は扱えるでしょう」


オットーは、評価を下げきることはしない。


「ですが、

 一人で上級魔法を放つ英雄の道は、

 現実的とは言えません」


そして、結論を出す。


「むしろ、

 初級魔法を徹底的に磨く方向に進んだほうが、

 ご本人にとっても、周囲にとっても有益です」


「生活魔法、支援魔法。

 そして、魔法の組み合わせや工夫」


まだ名前は出さないが、

頭の中では、たぶん同じ方向を見ている。



「ガルド様」


オットーは、深く頭を下げた。


「前線の大砲をお求めであれば、

 アレン様は適任ではありません」


「ですが、

 領地を支える仕組みや、日常を底上げする力としては――

 これほどの適性は、そう多くありません」


沈黙のあと、

お父さんが短く言った。


「よく分かった」


そして、俺を見る。


「アレン。

 お前は、どうしたい」


いきなりの直球だった。



少し考える。

でも、答えはもう決まっている。


「おっきい、まほうは、むり」


まず、ちゃんと認める。


「でも、ちいさいの、いっぱいできる」


手を開く。


「あったかくしたり。

 みず、きれいにしたり。

 ふとん、ふかふかにしたり」


喜ばれた顔が、いくつも浮かぶ。


「それ、もっと、やりたい」


それだけだった。



お父さんは、少し目を細めた。


「そうか」


オットーに向き直る。


「初級特化でも、

 領地の役に立つ、ということだな」


「はい。

 むしろ、そのほうが」


「なら、それでいい」


即断だった。


「英雄だけが価値ではない。

 この領地は、裏方に支えられている」


セバスが、静かに目を伏せる。


「その裏方を、魔法で強くできるなら、

 ありがたい話だ」



面談が終わる。


廊下を歩きながら、俺は考える。


初級だけでも、

まだまだ遊べることは山ほどある。


お湯。

乾燥。

光と影。

次は、土だ。


初級特化。

英雄から見れば、外れ値かもしれない。


でも、俺の感覚では――

これは、かなり当たりだ。


胸の奥が、ぽうっと温かくなる。


初級だけで、どこまでやれるか。


それは、思った以上に、面白そうな遊びだった。

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