第81話 揺れる旗 閑話
トラル寮の夕食どきは、今日も賑やかだった。
長机の上には、パンとスープと、皿いっぱいの煮込み肉。
あちこちの卓で、旗戦の話題が上がり始めている。
「今年の旗戦、去年よりはマシになりたいよなー」
「旗までたどり着いたら拍手は、そろそろ卒業したい」
「最下位じゃなきゃ勝ちって言うの、やめたいんだけど」
笑い混じりのぼやき。
アレンは、ノエルと並んでいつもの席に座りながら、その会話に、なんとなく耳を傾けていた。
◇
「前線は、やっぱルーク確定でしょ」
「そりゃそうだ。トラルの顔だからな」
「むしろ、ルークとその他じゃね?」
「やめろ。その他が泣く」
ルークの名前が出ると、同じ卓の三年生たちが、苦笑しながらも特に否定はしない。
「他の寮の顔ぶれ、聞いた?」
「サンラ寮、今年も安定しているらしいぞ」
「バルケ寮は、去年の鉄壁後衛まだいるよな。あれ割るの、正直しんどいんだよな」
「ルザアは毎年おかしいくらい強いからな。機動力が半端ない」
「うちはエースはルークでいいとして、問題は一年だろ」
「層が薄いんだよな、毎年」
「いや、今年は速いのがいるって噂だぞ」
そこで、声が少しだけ下がる。
「あの——魔法科の豆つぶ?」
「そう、それ」
くすくすと笑いが混じる。
だが、すぐに別の声が割って入った。
「でも入試の障害物コース、歴代更新したってマジなんだろ?」
誰かが言う。
「旗戦はぶつかり合いだ。タイムアタックじゃねえぞ」
「補欠くらいには入れてもいいんじゃね?」
「まだ一年だぞ」
「今年こそ上位行きたいよな」
誰かが、ぽつりとこぼす。
◇
「はいはい、そこまで!」
突然、威勢のいい声が響いた。
厨房から、食堂のおばちゃんが顔を出す。
「どうのこうのって言う前に、しっかり食べな!」
大きな皿を、どん、と机に置く。
山盛りの肉。
「走るなら食べる!」
別の皿も、どん。
あふれるほどのサラダ。
「ぶつかるなら食べる!」
さらに、どん。
パンも高く積まれていた。
「トラルはね、腹減らしてるから負けるんだよ!」
笑いが広がる。
「ほら、あんたも!」
指差されたのは——アレンだった。
「え、俺?」
「小さい!細い!もっと体作りな!」
皿に、肉が追加される。パンも、盛られる。
「ちょ、ちょっと多くないですか」
「足りないよりマシ!」
周囲から、どっと笑いが起きる。
アレンは、困ったように皿を見つめ、小さく息を吐いた。
「……いただきます」
向かいの席で、ルークが苦笑しながら頷いた。
肉の匂いと、笑い声の中——トラルの旗は、静かに揺れていた。
笑えて、ちょっと沁みる。
じいちゃんと孫娘の物語です。
もし気が向いたら、のぞいてみてください。
「斬らぬが最強!九十七歳の心眼一刀流師範、孫娘と干し芋食べてたら伝説になってました」
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