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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
4章 王立ヴィクリィール学園編 ― 才覚の線
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第80話 抜きたい背中 【ロウガ視点】閑話

騎士科訓練場でロウガは、軽く身体をほぐしていた。

さっきの全力疾走の汗はまだ乾いていない。


肩を回す。首を鳴らす。足首をぐるりと回す。

さっき全力で使った筋肉の張りを確かめる。


呼吸。心拍。足裏。

いつもの感覚に少しずつ戻っていく。


「ロウガ、お呼びだぜ」


同じ騎士科の生徒が、にやつきながら寄ってくる。


「魔法科のやつが、身体強化もどきを使うらしい。

騎士科の見本を頼む、だとさ」


「……もう一回か」


ついさきほど、歴代トップタイムを出したばかりだ。

掲示板に名が刻まれる程度の数字。大声で自慢する気はない。


だが——

見せるなら、あれよりもう少し削るか。

ロウガは胸を張り、コースへ向かった。


——その数分後。


「記録——歴代コースタイム、大幅更新!」


ロウガは、思わず耳を疑った。


「は……?」


コースを走っているのは、細身の少年——魔法科の同じ新入生だ。

名前は、確か。アレン……だっけか。


豆粒みたいな《ライト》を撃って、場を静まり返らせたくせに。

斜面を壁みたいに駆け抜け、二本飛ばしで丸太を渡り、ジャンプではなく「最後の一歩」で壁を駆け上がる。

見たことない、ありえない走り。ぞくりと胸が熱くなった。


 ◇


ロウガの家は、代々の騎士家だ。

剣と槍で飯を食い、馬で駆け、誇りを守ってきた一族。

祖父は、酒が入ると決まって昔話をした。


「昔はな、魔導士なんざ、後ろで呪文をぶつぶつ唱えてるだけだったんだ」


でかい手でロウガの頭をぐりぐり撫でる。


「今は遠距離からの火力で、戦術を変えた」


「だがいつだって——戦場で一番前に立つのは、騎士だ」


『前に立つ誇りだけは、忘れるな』


ロウガは、その言葉が好きだった。

だから、走った。誰よりも。

一番速くて、一番強い騎士になるために。


それなのに、抜かれる側に回った。

悔しくないと言えば嘘になる。


だが、その痛みは燃えた。

やっと——本気で抜きたい背中ができた。


 ◇


騎士科のカリキュラムには、毎年恒例の行事がある。

その中で、一番血が沸くのが——「旗戦」だ。

騎士科の講師、が、訓練場の真ん中で吠える。


「旗戦は、元々は軍の訓練だ!」


大声が、土の上に響く。


「乱戦の中で、味方の旗を守り、敵の旗を折る!」


「昔はな、木の槍であろうが、丸太であろうが、

とにかく前に立って殴り合うのが、騎士の仕事だった!」


ロウガの祖父と、どこか似た口振りだ。


「今は魔導士も前に出る」


は、ちらりと学園の塔のほうを見る。


「だが、乱戦で最後に立っているのは、やっぱり足のあるやつだ」

「旗戦は、その足のあるやつらの、見世物だ!」


騎士科の生徒たちが、「おおー!」と声を上げる。

ロウガの胸も、自然と熱くなった。


あいつののおかしい走り。

そこで、あいつはどう動くか。

ロウガは、純粋にそれが見たかった。


見て、追いかけて、そして抜きたい。

自分の足で。


 ◇


訓練場の端に、丸太が置かれていた。


「おいロウガ、それ引くのか」


腰に縄を巻きつけ、その縄を丸太につなぐ。


「普通は馬が引くやつじゃねえの、それ」


周りが苦笑する中、ロウガは地面を蹴った。

ぐ、と全身に負荷がかかる。

丸太が、ぎぎっと音を立てて少しだけ動く。


歯を食いしばりながら、ロウガは思う。

味方の旗の前で押し合いになるとき。敵の陣に突っ込むとき。

足腰が貧弱だと前には出られない。

だったら、全部鍛えときゃいい。


 ◇


身体強化についても、少しだけ考え方を変えた。

今までの俺は、常時全体強化が多すぎた。


足も腕も胴も、全部同じように強化して、その状態で三〜四分走り続ける。

障害物コースを一周するくらいなら、それで足りていた。

でも、旗戦はもっと長い。


あいつは、点で使ってた。


アレンの走りを思い出す。

足首。膝。腰。肩。

必要な瞬間にだけ、そこがひゅっと光り、すぐ消える。


あれを真似する気はねえけど。ロウガは、少しだけ笑う。

全部をずっと全開で流し続けるのは、さすがに効率悪い。


だから——「全体を三段階で変える」使い方にする。


走り出しは、ごく薄く。

ぶつかる前だけ、二段目。

旗の取り合いの瞬間だけ、三段目。


点ではなく、段で切り替える。


「負けっぱなしで終わる気はねえからな」


騎士は、倒れても前に出る。

その相手として、ようやく相応しいやつが見つかった。

ロウガの口元には、自然と笑みが浮かんでいた。


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