第64話 腹をふくらませる、まっとうな方法
朝の仕事をひと通り終えて、
子どもの家の裏口に腰を下ろした。
今は、ちゃんとスープもパンもある。
明日もその次の日も——それが問題だ。
「よお、あまちゃん坊や」
顔を上げると、壁にもたれて
ニヤニヤしているグレンがいた。
「そんな嫌そうなツラすんなよ。
スラムの腹をふくらませる、
頼れる小悪党のご登場だぜ?」
自分で言って、肩をすくめる。
「口のうまい小悪党、って感じです」
「悪口エグいな、おい」
苦笑しながらも、どこか楽しそうだ。
「で、見つかったか?
腹をふくらませる正しい方法とやら。
俺の商売、見事にぶっ叩いてくれたもんな」
答えられず、視線を落とす。
グレンはわざと大げさにため息をつく。
「格好よかったぜ?
こっちは、その小銭で腹ふくらませてんのによ」
「でも、やっぱり、あれは——」
軽く手を振る。
「だから嫌なんだよ、お前みてえなのは」
「……」
「しょうがねえ、ヒントやるか。
グラ爺の手伝いしてこい」
吐き捨てるような言い方なのに、
声はどこか楽しげだった。
「あの、どさって落ちるやつだよ。
使い道があるかどうかは——自分で見てこい」
ちらりと目だけこちらに向ける。
「それさえできねえ役立たたつなら、大あまちゃんもいいとこだぜ」
あざけるような口調の奥、わずかな期待が光った気がした。
グレンは、そう言って
路地の向こうへ消えていった。
◇
「なるほどねえ」
広間の隅。洗濯物を畳みながら、ミレーネが短く言った。
「グレンがそんなこと言ったわけ?」
「はい。グランツさんの負担も、考えてて」
「ふうん」
畳んだ布をぽんぽんと重ねて、彼女は少しだけ目を細める。
「あのガキ、頭は悪くないのよね」
片方の口角だけで笑った。
「で、あんたはどうしたいわけ」
「……手伝いたいです」
言葉にしてみると、想像以上に腹の底が決まっているのが分かった。
「俺の一瞬の身体強化なら……」
「獲物相手に追いかけっこ、ね。
あんたの得意そうなやつだわ」
布の山を抱え直しながら、ミレーネは続けた。
「正直に言うとね」
一拍、手が止まる。
「あんたに狩りなんて行ってほしくない」
真剣な眼差しがこちらを射抜く。
「グランツさんが……
いいって言ったら、ね」
ニヤっと笑う。
「それと、怪我して帰ってきたら、スープ抜きよ」
あっさり言い切る。
「自分の体を軽く扱う奴に、腹いっぱい食べさせるのは嫌いなの」
「……気をつけます」
ちょうどそのとき、玄関のほうで子どもの声が上がった。
「にくジイだー!」
「グランツさんって言いなさいってば!」
ミレーネが額に手を当てる。
「ほら、いいタイミング」
足を玄関へ向けた。
◇
大きな布包みが、テーブルにどさりと置かれた。
「今日はホーンラビットが多めだ。
オークの端肉も、ちょっとだけマシなのがあった」
ミレーネが深々と頭を下げている横で、
子どもたちが「肉だ!」と騒ぐ。
「ほら、触るんじゃない。手ぇ洗ってきなさい!」
「はーい!」
バタバタと駆けていく足音を背に、俺は一歩前に出た。
「あの、グランツさん。
お願いがあります」
白い髭の奥から、渋い目がこちらを向く。
ぐっと、背筋に重さがかかった。
「狩りに同行させてください。
追い込みとか……そういう補助を、やりたいんです」
「ちょっと待て」
手のひらが、すっと目の前に上がった。
ギルドで会ったときと同じ、値踏みするような視線。
「グレンの入れ知恵よ」
ミレーネがフォローをする。
「……あのガキが」
グランツが、鼻を鳴らす。
しばし、沈黙したあと、
低い声が落ちた。
「邪魔になるなら、次はない」
「……はい」
腹の底で、何かが静かに固まる。
「おれも!」
横から、甲高い声が割り込んだ。
「肉とりに行く!」
三方向から即答。
「ダメ」
「ダメ」
「ダメ」
テオが「ええ〜〜!?」と大袈裟にのけぞった。
そのやりとりに、グランツが小さく笑う。
「じゃあ小僧。明日の朝、ギルド前に来い」
「はい!」
思わず、声が大きく出た。
◇
翌朝。王都の外れ。
丘の続く狩場は、
砦の前とはまた違う色をしていた。
グランツが、腰のナイフを確かめながら言う。
「お前の仕事は三つだけだ」
「一つ。俺の言うことに必ず従え。
二つ。お荷物になるなら、即返す。
三つ。攻撃しない。追い込みだけだ」
「分かりました」
グランツは地面にしゃがみ込む。
そこには、小さな二つ並びの跡がいくつか続いていた。
「まずは、ホーンラビットからだ」
足跡の向きと深さを確かめながら、グランツが顔を上げる。
「こっちから回り込む。
あの丘の影まで行って、獲物の尻か横の死角に入れ。
お前は脅かすだけだ。こっちに流せ」
指さされた先には、緩やかな丘がいくつも重なっている。
向こう側は風の抜け方も違っていて、音も気配も紛れやすそうだった。
「じゃあ、行け」
「はい」
小さく息を整え、走り出す。
足裏に、草と土の感触。
心臓の鼓動に、意識のリズムを合わせる。
——単発で撃つと、カクつく。
世界樹の下で思い知ったことだ。
だから最初から「一歩分の流れ」として組んでおく。
ダッシュ用に組んだ型。
——それをブースト散弾としてセットする。
《瞬間ブースト》
右足が前に滑り、膝が自然に曲がる。
腰と肩がそれに引っ張られるように前へ乗り、
視界がなめらかに流れた。
よし、うまくできた。
丘の陰に入り、速度を落とす。
息を整える。
少し離れたところで、グランツが小さく手を上げた。
その先。草むらの間。
長い耳と、鈍く光る小さな角が揺れる。
ホーンラビット。
最弱だけど、逃げ足だけはやたらと鋭い。
「……来るぞ」
グランツの低い声。
次の瞬間、ホーンラビットが草を裂いて走り出した。
速い。
その進行方向の少し左先には
すでにグランツが回り込んでいる。
俺は、逆側――ホーンラビットの右背後を狙う。
気配をぶつけるだけでいい。
側面踏み込みと、逃げ用の一歩を
ブースト散弾にセットしておく。
「今だ、右の死角!」
「——了解!」
《瞬間ブースト》
踏み込み用に組んでおいたブースト散弾が、弾ける。
草を裂き、一瞬でホーンラビットの側面に飛び出す。
「——ッ!」
長い耳が跳ねる。
真横からの気配に反応して、ホーンラビットが乱れた。
反射的に、横へ跳ぼうとした、その先。
そこに、グランツがいた。
土を蹴る鈍い音。
低く短い掛け声。
ホーンラビットの角が空を切る。
グランツの腕が振り下ろされる。
白い毛玉が、地面に転がった。
「一匹」
グランツが、何気ない動作で首を折る。
ちらりとこちらの足元を見て、鼻を鳴らした。
「今の距離感を崩すな」
「はい」
息が上がっている。
でも、うまく噛み合っている実感もする。
丘を挟んで、何度も繰り返す。
獲物は、ただ速いだけじゃない。
風下を選ぶ。
隠れられそうな茂みを直感で見つける。
2匹以上のときもある。
少しだけ先読みする。
グランツの視線が、時折こちらに流れてくる。
「思ったより嫌な位置をつくな」
「……悪口じゃないですよね?」
口元だけ笑ってた。
そうして半日も経たないうちに、
荷袋からは、白い耳と肉付きのいい足がはみ出してきた。
「すみません。張り切りすぎましたか」
「バカ言え。獲物が取れすぎて困るなんて、贅沢な悩みだ」
「いっそ全部、焼いちまえ。
ガキどもにたまには腹いっぱい食わせてやれ」
ずっしりとした布袋の重みが、妙にうれしかった。
◇
「なにこれ、すっごい量じゃない!」
子どもの家に戻るなり、ミレーネの声が一オクターブ上がった。
「今日は祭り? それとも明日死ぬの?」
「生きていくための肉ですよ」
慌てて首を振る。
「グランツさんが、取れすぎたから焼けって」
「ほんと、あの人は……
よし、あんたら! 今日は大仕事だよ!」
その一声で、子どもたちがわあっと広間に集まってくる。
「テオは水。
大きいやつは薪割りと火の番。
小さいのは皿運び!」
「はーい!」
ドタバタと走り回る足音。
その喧騒の中で、俺は一人の名前を思い出していた。
「……グレンにも、声かけてきてもいいですか」
ミレーネが包丁を止める。
「あのガキ?」
「はい。
狩りのきっかけは、グレンがくれたので」
ミレーネは、わずかに目を細めた。
「素直には来ないと思うけど……」
「……がんばります」
◇
グレンは、思ったより近くにいた。
孤児院を出た路地の先。
壁にもたれて、空を見上げていた。
「グレン」
こちらを見るなり、眉をひそめた。
「なんだよ、グラ爺に追い払われたか?」
「違います。
腹をふくらませる肉、おかげで捕れました」
「……は?」
「一緒に食べませんか」
グレンの目が、一瞬だけ泳いだ。
「……俺、あそこ、ちょっと行きづれえんだよな」
「子どもたち、グレン兄ちゃんは?って」
短い沈黙。
「……チッ」
路地の奥を、一度だけ振り返ってから
グレンは立ち上がった。
「分かったよ。
肉の匂いだけ嗅がされて追い返されたら、恨むからな」
◇
広間は、いつもよりずっと熱かった。
レンガを積んだだけの簡易かまど。
その上に、古びた鉄板が一枚ちょこんと載っている。
歪んだ鉄板の上で、肉がじゅうじゅうと音を立てていた。
「すげえ……」
グレンが、思わず漏らした。
「なんだこれ。どこの貴族様の宴だよ」
あちこちで、テオたちが肉をつつき合っている。
「それまだ生! 返して!」
「お前、焦げてるとこばっか取るなよ!」
「こげたとこ、うまいんだもん!」
「はーい、けんかするやつは一回皿没収!」
子どもたちは「はーい!」と返事しながら、
ミレーネの声を全然聞いていない。
「グレン兄ちゃんだ!
来てくれたんだ!」
テオが気づいて、尻尾をぶんぶん振りながら駆けてくる。
「お、おう」
少しばつが悪そうに頭をかくグレン。
「肉、あるよ! いっぱい!」
「グレン兄ちゃんの皿、こっち!」
よちよち組の小さい子が、よたよたと木の皿を運んでくる。
そこには、惨憺たる盛り付けの
哀れな肉片が山のように——
「おい。これ、半分生で半分炭なんだけど」
「えへへ」
「えへへじゃねえ」
眉間に皺を寄せたグレンを見て、ミレーネがくすっと笑った。
「文句があるなら、自分で焼きなさい。
ほら、あそこ空いてるから」
「自分の皿は自分で守るの。
ここ、そういうルールなの知ってるでしょ」
「……ったく」
ぼやきながらも、グレンは袖をまくる。
「いいか、お前ら。
肉はな、面で焼くんだ。点じゃねえ」
「めん?」
「そう。じゅーって音がするくらい、一度火を当てろ。
ひっくり返しすぎんな。落ち着け」
いつのまにか、周囲に子どもが集まっていた。
「ここ切ると硬え。
こう、筋の向きと逆に……そうそう。
お前、包丁持つのはそうじゃねえ。指切るぞ」
次々と飛び出す指示。
気づけば、グレン席の周りには、小さな輪ができていた。
「グレン兄ちゃん、すげー!」
「肉ジイより教えるのうまい!」
「おい、誰が肉ジイだ」
テオの頭を小突くグランツの声に、笑い声が混ざる。
その隅で、俺はひたすら肉を焼いては配り、焼いては配りしていた。
皿が空になりかけると、すぐに小さな手が伸びてくる。
「おかわり!」
「次、あたし!」
忙しい。
でも、悪くない忙しさだ。
こうして腹がふくれていく光景を
ぼんやり眺めていると、
不意に甘い匂いが鼻をかすめた。
「おい、テオ。何持ってんだそれ」
「グレン兄ちゃんがくれた!」
テオが、得意げに壺を掲げる。
「前に、奇跡の水で使ってたやつの残りだよ。
水に入れると甘くなるんだって!」
「ただの、甘い果実、だ。
奇跡の水は言わなくていい」
グレンが額を押さえる。
「でも、うまい」
テオが、わくわくしながら壺の中身を水桶に注ぎかけ——
「あっ」
手を滑らせた。
果実片のいくつかが、
バシャッと跳ねて、そのまま焼き台の上へ。
じゅっ。
甘い香りが、煙と一緒にふわりと広がった。
「……」
しばし、誰も動かない。
「いい匂い!」
最初に叫んだのは、子どもの一人だった。
「これ、さっきのより、なんかうまそう!」
「おい、そこ焦がすな」
グレンが慌ててひっくり返しながら、わずかに目を細める。
鼻先をくすぐる香り。
焼けた果実の甘さと、肉の脂。
「おい、テオ。さっきと同じくらい、もう一回だけ落とせ」
「え、いいの?」
「いい。今度はわざとだ」
テオが慎重に果実片を摘んで、肉の上にぽと、ぽと。
じゅう、と音がして、香りが一気に濃くなる。
「……」
グレンはしばらく黙って、それを見つめていた。
やがて、一切れをつまんで口に運ぶ。
「どう?」
子どもたちが身を乗り出す。
「……悪くねえ」
短い答え。
「いや」
ほんの少しだけ口元がほころんだ。
「うまいわ、これ」
その声に、周りの目がキラキラと輝く。
「じゃあ、こっちにも!」
「こっちにも落として!」
「待て待て。一度にやったら分かんなくなるだろうが」
どやしつつも、グレンの目は、さっきよりずっと真剣だった。
◇
少し離れた廊下の影に、グレンの姿はなかった。
代わりに、裏口のほうから小さな気配がする。
「……」
暑さと煙を逃れるように、彼は外に出ていた。
背中を壁に預け、空を仰いでいる。
指先には、食べかけの肉。
「グレン」
声をかけると、微かに肩が揺れた。
「なんだよ。説教なら、中のガキどもにしてくれ」
「ふふふ、相変わらずね」
グレンは、手の中の肉をじっと見つめていた。
「なあ、ミレーネ」
ミレーネが、真剣な顔を見せる。
「俺さ——
ここ出てから、ずっと偽物の英雄やってきた」
グレンは、小さく息を吐いた。
「奇跡の水だってさ。
本当に、ガキどもに夢見せたくてやってたんだ」
ミレーネはなにも言わず聞いている。
「でも、本当は——
俺が、のし上がりたかっただけだ」
唇が、かすかに震える。
「力もねえ。魔法もねえ。
貴族の名前も、血筋も、なにもねえ」
次々と、言葉がこぼれてくる。
「そういうやつが、スラムで上がってくにはさ。
嘘でもでかいこと言えるやつに
なるしかねえって、本気で思ってた」
「そのうち本物の英雄になりゃいい、ってさ」
鼻で笑おうとして、うまくいかない。
「ちゃんと考えてたつもりなんだよ。
いつか稼いだら、ここにも金持ってきて、
ガキどもの腹ふくらまして——」
喉の奥で、なにかが詰まったみたいに
言葉が途切れる。
「でもよ。
中にいたあの英雄坊やさ」
顎で、広間のほうをしゃくる。
「中途半端な魔法で。
貴族だけど端っこで。
英雄だ英雄だって言われてんのに、
王城にはほっとかれて」
ひとつ、短く笑った。
「なのに、あいつ」
グレンは、指先で肉をつまんだまま、ぐっと力を込めた。
「それでも人の役に立とうなんて、
真面目くさったこと考えてやがる」
声が、少しだけかすれた。
「俺が、夢を売るしかねえって思ってたとこをさ」
広間からは、まだ笑い声と肉の匂いが流れてくる。
子どもたちの「おいしい!」という声。
テオの「俺のが一番うまい!」という叫び。
「……あれが、本物ってやつなんだろ」
グレンは視線を落とした。
「俺はさ、にせものだよ」
それは、泣き声のようなにも聞こえた。
香ばしい焼いた肉の匂いとともに煙があたりを包む。
「なあ、
俺のやってきたこと——
全部、間違いだったのか」
胸の奥底に押し込んでいた問い。
ようやく、言えた。
ミレーネはしばらく沈黙する。
「……あんたね。
さっきまで、焼き場で何してた?」
「肉、焼いてただけだろ」
ミレーネは、一歩近づいた。
「グレン」
名前を、はっきりと呼んだ。
「本当は気づいているじゃない?」
グレンの喉が、わずかに鳴る。
「英雄ってのはね。
ああやって前で走るバカのことでしょ」
ミレーネは、グレンの額に、ぽんと指を当てた。
「前で走るそのバカの、手足になればいい」
指を離し、胸の前で腕を組み直す。
「それが、あんた自身をこのスラムから引き上げる道になる」
「俺が……?」
グレンの目が、わずかに見開かれた。
唇が、震える。
「……そんなうまいな話、あるかよ」
「それを決めるのは、これからでしょ」
ミレーネは、ほんの少しだけ肩をすくめた。
「ま、誰かが横で違うって言ってやらないと。
あの子も暴走するでしょ」
「俺が、その役?」
「得意でしょ、そういうの」
その一言に、グレンの肩から、少しだけ力が抜けた。
顔を伏せる。
目の奥が、じんわりと熱くなる。
それでも、涙は落ちない。
ぎりぎりのところで、なんとか堪えている。
「なあ、ミレーネ」
言葉を、ひとつひとつ選ぶように。
「あの本物の英雄様の横で」
喉が詰まりそうになりながら、それでも。
「……まっとうに生きていってもいいか」
それは、嘆きではなく、かすかな希望だった。
ミレーネは、少しだけ目を細めてから、笑った。
「ほんとめんどくさいわね。
ごっことか、偽物とか、責任とか」
「なんだよ、それ?」
「さあね。男の子なんでしょ。
思うようにしなさい」
軽く胸を小突かれる。
「さ、行きなさい。
あんたがいないと、あの焼き場、すぐ崩壊するから」
「しゃあねえな」
小さく舌打ちして、グレンは目元をこすった。
「ありがとよ」
そう言って、扉の向こうへ足を踏みだした。
◇
広間に戻ると、ちょうど俺が三枚目の肉を焦がしかけていた。
「おい英雄坊や!」
怒鳴り声が飛ぶ。
「火が強すぎんだよ! 皿こっち寄こせ!」
振り向くと、袖をまくったグレンが、いつものニヤつきを浮かべていた。
「肉、ひっくり返す手が遅え。
ほら、そこどけ。
今夜は特別に本気出してやる」
「偽物の英雄の本気ってやつだよ」
そう言って、焼き台の前に立つ。
子どもたちが、「グレンだ!」と歓声を上げる。
焼き台の上で、肉がじゅうじゅうと音を立てる。
甘い匂いと脂の香り。
そこに、子どもたちの笑い声が響いていた。




