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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第6話 《ウオーター》習得

《ライト》と《ウオーム》に慣れてきたころ。

ついに、その日が来た。


「では今日は、新しい魔法を一つ。

 水属性初級魔法、《ウオーター》です」


オットーが、いつもの講義口調で宣言する。



「《ウオーター》は、清浄な水を少量だけ生み出す魔法です」


黒板の前で、さらさらとチョークが走る。

カップの絵。

その上に、ちょろちょろと水が落ちている落書き。


「量は、魔力量と練度によりますが……

 最初は、手を洗える程度を目標にしましょう」


蛇口の手洗いモード、そんな感じだ。


「イメージは、透明な水。

 井戸水でも、川の水でも構いません。

 ただし、汚れのないものを」


オットーが、俺の前に空の木桶を置いた。


「さあ、アレン坊ちゃま。

 掌を、こう……」


手のひらを下向きにして、桶の上へ。


胸のあたりの魔力核に意識を向ける。


水。

前の世界の水。


蛇口から出ていた水。

自販機のペットボトル。

コンビニの氷入りカップ。

シャワー。


とりあえず、蛇口だ。


銀色の蛇口。

レバーをひねる。

透明な水が、ちょろちょろと流れ出す。


魔力核で集めた魔力を、さらさらとした感覚に変える。

それを、掌へ向かう細い線に流す。


じんわり。

じんわり。



ぽた。

ぽたぽた。


最初に落ちてきたのは、ほんの数滴。


続いて、

ちょろ。

ちょろちょろ。


細い糸みたいな水が、掌の下から桶へ落ちていく。


「……出た」


思わず、声が漏れた。


「おお。

 ちゃんと、水になっていますね」


オットーが桶を覗き込む。


透明で、濁りのない水。

見るからに冷たそうだ。


前は蛇口から出てきていたものが、

今は自分の手から出ている。


それだけで、妙に感動してしまう。


「最初にしては十分です。

 あとは、量と安定ですね」


オットーが満足げにうなずいた。



《ウオーター》を何度か繰り返し練習したあと。

俺は、ずっと考えていた実験に手を出すことにした。


まずは、普通にやってみる。


桶の水を手ですくう。

冷たい。


「ひゃっ」


声が裏返る。


その状態から、《ウオーム》。


掌の中の水を、あたためるイメージ。


じんわり。

じんわり。


……熱い。


「っつ」


思わず手を引っ込めた。


外側だけが一気に熱くなって、内側はまだ冷たい。

そんな感覚だった。


タオルで手を拭きながら、苦笑する。


給湯器って、本当にすごかったんだな。


あれは最初から、温度のそろったお湯を出してくれていた。

水と熱を、きれいに混ぜて。


今の俺のやり方は、冷たい水に後から熱を足しているだけだ。

これじゃムラも出る。



やり方を変えてみる。


まずは、《ウオーター》と《ウオーム》を同時に。


魔力核のあたりで、水と熱、両方のイメージを立ち上げる。

細い線を二本用意する感じ。


片方は、さらさらした感覚。

もう片方は、あたたかさ。


それを同時に、掌の下へ流す。


ちょろちょろ。

じゅうっ。


「わ」


水は出る。

けれど、半分くらいは出た瞬間に湯気になった。


桶に落ちるころには、水の量がかなり減っている。


「蒸発……?」


オットーが、興味深そうに眉を上げる。


「面白い現象ではありますが……

 実用性は、いささか疑問ですね」


その通りだ。


次は、別パターン。


先に空気をあたためてから、《ウオーター》。


掌の周りの空気を《ウオーム》でほんのり温めて、

そこに水を出す。


最初の一滴二滴は、たしかに少しぬるい。

でも、すぐに冷めてしまう。


どれも一瞬だけ。

一部だけ。


俺が欲しいのは、最初から最後まで、ちょうどいいお湯だ。


水と熱を、別々に考えているからややこしいのかもしれない。


最初から、ちょうどいいお湯という状態を、

一つの完成形として狙ったほうが、

むしろ簡単なんじゃないか。


そう思い始めた瞬間、

さっきまでのやり方が、急に遠回りに見えてきた。



胸のあたりの魔力核に、もう一度意識を集中させる。


今度は、水と熱を同時に立ち上げる。


さらさらした感覚と、

あたたかさの感覚。


でも、それを別々の魔法としてではなく、

最初から「ぬるま湯」としてイメージする。


手を洗うときの、あのちょうどいい感じ。


前の世界の洗面所を思い出す。

冬場、少しだけお湯寄りにひねった蛇口。

冷たくもなく、熱くもない。

いつまでも触っていられる温度。


その状態を、一つの塊として想像する。


魔力核から、細い線を二本引く。

一本は水っぽさ。

もう一本は温かさ。


胸の中では少し離したまま、

掌の手前で合わさるように流す。


二本の線を、掌の前で一本にまとめる。

お湯専用の線を作る感覚。


吸って。

溜めて。

同時に、流す。



最初は失敗だった。


「……あちっ」


出てきたのは、ほぼ熱湯。

慌てて手を引っ込める。


次は、その反動で、ぬるすぎる水。


「つめたい……」


オットーが苦笑いする。


「なかなか、難しいところを狙いますね」


でも、不思議と確信があった。

これは、感覚さえつかめばいける。


魔力核からの出力を、ほんの少しだけ抑える。

水の流量は、あまり変えない。


今度は、桶ではなく、

自分のもう片方の手のひらに向けて出す。


吸って。

溜めて。

流す。


ちょろ。


細い水の筋が、掌に落ちてくる。


触れた瞬間――


「……お」


思わず声が漏れた。


冷たくない。

熱くもない。


手を洗うのに、ちょうど気持ちいい温度。


ほんの数秒で止まってしまったけれど、

その間だけは、安定したぬるま湯だった。


水を出してから温めたというより、

最初からお湯が出てきた感覚。


別々だった感覚が、

掌の前で一つにまとまった。


給湯器のまねごとを、

手のひらサイズでやっているみたいだ。


にやけそうになるのを、なんとか抑える。



「坊ちゃま、いまのは……?」


オットーが、じっと手元を見つめている。


「《ウオーター》を出してから、あとで《ウオーム》を……

 というわけでは、なさそうですね」


「……みずと、あったかい、いっしょ」


自分でも、うまく説明できない。


それでも、オットーは目を細めて考え込んでいた。


「水を形にする前から、

 熱のほうも同時に動かしている……?」


「う、ん」


「ふむ……少なくとも、普通のやり方ではありませんな」


オットーは黒板に向き直り、

魔力線の図を描き直しながら、何かをつぶやいている。


名前なんて、正直どうでもいい。


自分の中では、

これは統合だ。


《ウオーター》と《ウオーム》。

二つの初級魔法を、状態として一つにまとめる。


二本の細い線を、

一本の「お湯用の線」に組み直す感覚。


たぶん、これが俺の道になる。


掌に残る、わずかなぬくもりを感じながら。

俺は、胸のあたりの魔力核に、そっと意識を沈めた。

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