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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
3章 王編 ― 英雄の形
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第56話 報奨の価値

翌朝、まだ空が白いころ。

戸を叩く音で目が覚めた。


扉を開けると、年配の兵士が立っていた。


「王城から呼び出しがある」


それだけ言って、踵を返す。



食堂に降りると、宿の家族が全員そろっていた。

主人ベルンと妻のマルタと、あの少年。


「おはようございます!」


ベルンが慌てて頭を下げ、

マルタに肘でつつかれて、少年もぺこりと頭を下げる。


ベルンが俺を見る。


「朝ごはん、よろしければ食べていって下さい。

 簡単なもので、恐縮ですが……」


薄いスープと少し焼いたパンが

そこにはすでに用意されていた。


「……王様に、会うのですか?」


少年が小さく聞く。


「さあ。行ってみないと分からない」


「たぶん会うわよ。

 ――英雄、なんでしょ?」


マルタが言う。


「お戻りになったら、

 ぜひお話しを……聞かせていただければ」


ベルンが落ち着かない様子で手をこすった。


英雄、か。

胸の奥が、少しだけ重くなる。



王城までは、兵士に連れられて一直線だった。


高い塔。

広い広場。

磨かれた石。


門をくぐり、廊下を歩き、

途中で何人かの役人に引き渡される。


「アレン・ハルトシュタイン殿ですね」


書類を持った男が、淡々と確認する。


「はい」


「では、こちらへ」


案内されたのは――

こじんまりした部屋。


机と椅子がいくつか並んでいて、

壁際には、メダルや勲章らしきものが箱に収められている。


「ハルトシュタイン領、アレン・ハルトシュタイン」


呼ばれて、前に出る。


机の向こうの男が、ちらりと俺を見た。


「スタンピードにおける戦功により、

 ここに特別報奨金および記念章を授与する」


差し出されたのは、小さな布袋。

王家の紋章が刻まれた、軽くて薄い金属の円盤。


……王は、いない。

宰相も。大臣も。


「ありがとうございます」


受け取る。


形式的な言葉。

形式的な礼。


「以上だ」


背中を向けられる。


それで、終わりだった。


 




城を出る頃には、まだ昼前だった。


あまりにも、あっけない。


「王様には……」


ぽつりと呟くと、

案内してくれた兵士が、気まずそうに目を逸らした。


「陛下はお体が優れぬ。

 今回は、宰相閣下がご代理のはずだったが……

 急なお仕事が入られたのだろう」


少し事務的に言われる。


「とにかく、任は果たされた。あとは自由にしていいそうだ」


兵士はそそくさと敬礼した。


「……ご武運を」


それは、戦場に出る者への言葉だった。


今の俺には、少しだけ場違いに聞こえる。


 




《つばめ亭》に戻ると、

ちょうど昼の仕込みの真っ最中だった。


扉を開けると、マルタが振り向く。


「おや、早かったですね」


「ただいま戻りました」


「王城は?」


「えーと……」


少し迷ってから、ありのままを話す。


「下のほうの人に、報奨金と記念章をもらって、終わりでした。

 王様とも、宰相さまとも、お会いしてません」


「……ふうん」


マルタの目が、わずかに細くなった。


「そんなもん、なのね」


ベルンが、おずおずと口を挟む。


「で、でも、ほら、報奨金もらえたんでしょう?

 よかったじゃないですか」


「はい。故郷に送る分と、自分で持っておく分と、考えます」


マルタが、ふ〜んと鼻を鳴らした。


「英雄様にしちゃ、地味ね」


「お、おい、お前……」


「別に悪口じゃないわよ。

 こっちが勝手に派手なの想像してただけなんだから」


マルタは肩をすくめる。


「ま、あんたのご飯は、今日からは普通でいいわね。

 昨夜みたいなの、毎日は無理だから」


「十分です」


「部屋も、あの角部屋じゃなくて、

 二階の真ん中のほうでいい? 掃除しやすいから」


「あ、はい。どこでも」


「助かるわ」


あからさまな冷たさでもない。

『特別扱い』が、

いつの間にか終わった、という感じだった。


その夜。

客がビールを飲みながら


「なんだよ、あのガキさ。

 本当は大したことなかったって話じゃないか」


「え?」


別の客が、酔った声で返す。


「エルフが全部やったんだろ?

 ガキは、たまたまそこにいただけだってよ」


「でも英雄って——」


「英雄英雄言ってんのは辺境だけだよ。

 王都じゃ話が盛られてるってさ」


笑い声。


「それでも城から金は出たんだろ? いい身分だよなぁ」


マルタは、何も言わない。

ベルンも、何も言わない。

誰も、俺のほうを見ない。


乾いた笑い声だけが、響いていた。


夕食は、パンと薄いスープ。

少しの煮豆だけだった。


昨日より、明らかに質素だった。


「……ごちそうさまでした」


そう言うと、マルタは適当に手を振った。


「はーい、お粗末さま」


その調子は、

王城の事務的な声と、どこか似ていた。


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