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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第40話 ギルド長の胸の内 【ギルド長バルド視点】閑話① 

砦の門前は、まだ泥と血と焦げ臭さが混ざっていた。


崩れた柵。

踏み荒らされた地面。

転がる無数のオークの死骸。


さっきまで、ここは地獄だった。


今は――

ただ後始末が残っているだけだ。


「……生存者、最終確認終わりました」


背後から、声がかかった。

領軍の若い兵だ。

声も顔も、もうくたびれ切っている。


バルドは砦の上から外を見下ろしたまま、顎だけで返事をする。


「そうか」


勝った。

間違いなく。

スタンピードは止めた。


だが、それで全部が終わったわけじゃない。


砦の中からは、まだかすかに歓声が漏れてくる。


「街を守ったぞ!」

「もう来ねぇ!」

「生き残った……!」


安堵と興奮。

少しの泣き笑いが混じっていた。


バルドの胸の中だけが、別のものでざらついている。


「……坊主は?」


口をついて出た。


報告に来た兵が、びくりと肩を揺らす。


「……いません」


一拍置いてから、続けた。


「前線にも、治療所にも、倉庫にも。

 生きている者の中には、確認できておりません」


予想していた答えだった。


「死体置き場は?」


「それが……」


兵は言いよどむ。


「集めた戦死者の中にも、アレン様と分かる遺体は……

 ありませんでした」


バルドは、そこでようやく兵のほうを振り向いた。


目の下に隈をつくった若い兵が、気まずそうに視線を泳がせている。


「つまり――

 どこにもいねえ、ってこったな」


「……はい」


バルドは短く息を吐いた。


「分かった。お前は下がれ。

 まだ動けるやつを回して、死体の山を森側にまとめておけ。

 腐り始める前にな」


「は、はい!」


兵はほっとしたように敬礼して、足早に去っていった。


砦の石壁にもたれ、バルドは遠くを見やる。


どろんこレーンだった場所は、

今もぐちゃぐちゃの泥と折れた武器で埋まっている。


あそこで、何百というオークの足が止まり、

弓と魔法と槍で削られていった。


「よく持ったもんだ……」


思わず口から漏れた言葉は、

誰に向けたものか、自分でも分からない。


罠帯に。

泥石と水石に。

眠り石と眠り瓶に。


そして――

それを設計し、形にした小さなガキに。


ギルド長の立場で、情けねぇ。


普通、あんな無茶できねぇ。

俺たち大人がブレーキをかけなきゃいけなかった。


「……バカなやつだ」


バルドは吐き捨てるように言い、

それでも、わずかに口の端を上げた。


それでも――


「やりやがった」


砦の中に戻れば、山ほどの後始末が待っている。


ギルドの記録には、

こう書かれることになるだろう。


> アレン・ハルトシュタイン

> スタンピード混乱の最中、行方不明


生きているとも、

死んだとも、書かれない。


書けない。


遺体がねぇ以上、

公式にはそうするしかない。


「だがなぁ……」


バルドは、空を一度仰いだ。


砦の上空には、もう魔物の影はない。

代わりに、煙と、薄くなった雲が流れている。


あの一撃のあと、

森の奥から来ていた圧の気配は、確かに消えた。


そして、同時に――

あの坊主の線も、ぷつりと途切れた。


ぱたりと、どこにも感じなくなった。


「死んだ、って言うには……」


どこか引っかかる。


何十年も冒険者と戦場を見てきた勘。


「……あいつは、絶対死んじゃいねぇ」


誰にも聞こえない声で、バルドは呟いた。


根拠なんざ、どこにもない。


それでも。


あの坊主はしぶとい。

今まで何度も、逆境を乗り越えてきた。


あの坊主が残した痕は、目に見えるほど広い。

ここまで戦況をひっくり返しやがった。


どこかで、ボロボロになって

ひょっこり現れるに決まってる。


「また、しょうもねぇ穴でも埋めてるさ。

 ……そういうタチだ」


バルドはそう言って、砦の壁から背を離した。


さて。

ギルド長の仕事に戻らなきゃならねぇ。


本当のところは、

胸の中だけにしまった。

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