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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第4話 初めての魔法

その日。

俺は、いつもの「むにむに体操」を終えたあと、別室へ連れてこられた。


机がいくつも並び、本棚があり、黒っぽい板が壁際に立てかけられている。

壁には、意味ありげな図や文字。


どう見ても、教室だ。



「では、アレン坊ちゃま」


オットーが、いつもの丁寧な笑顔で向き合った。


「今日から、本格的な魔法の授業を始めましょう」


まだ幼児のはずだが、この世界では普通らしい。

魔力検査から、ある程度の時間も経っている。


「まずは、魔法の基本からです」


声が、完全に講義用になる。


「魔法とは、世界に満ちるマナを取り込み、

 それを自分の魔力へと変え、

 体内の経路を通して現象に変換する技術です」


黒板に、簡単な図が描かれる。

中心に四角。その周囲に線と輪。


「この中心が魔力核。

 坊ちゃまの体の中心にある、力の溜まり場です」


自分が日頃感じている、あの感覚と一致する。


「そこから伸びるのが魔力線。

 魔力を運ぶ道です。太さや本数は人それぞれ」


線が何本も描き足される。


「そして最後が魔法回路。

 魔力をどう流し、どう変換するかという設計図ですね」


オットーがこちらを見る。


「ここまで、よろしいですかな」


俺は、こくりと首を縦に振った。


「ほう。理解が早い」


わずかに感心したような声。



説明は続く。


「魔法は大きく三段階。

 初級、中級、上級に分かれます」


黒板に三本線。


「初級は、少ない魔力線を単純に使う魔法。

 生活と基礎に欠かせません」


「中級は複数の線を同時に使い、形や性質を変える。

 ここから魔力の太さが重要になります」


「上級魔法は――」


オットーは、肩をすくめた。


「大人でも一生に一度撃てるかどうか。

 今は考える必要はありません」


それでも、少しだけ気にはなる。


「重要なのは初級魔法です」


棒で一番下の線を指す。


「先日の検査結果から見ても、

 アレン坊ちゃまは初級魔法に限れば非常に優秀です」


きっちり限定してくるあたり、実に教師だ。


「ですから、焦らず。

 まずは光と温もりから始めましょう」



講義は十五分ほどで終わった。

概念自体は、前世で読んだラノベと大差ない。


だが、実感がまるで違う。

自分の中に、実際に熱と流れを持つものがあるからだ。


もっと真面目に授業を聞いていれば、

前の人生も違ったかもしれない。

そんなことを考えたところで、オットーが手を叩いた。


「では、実技に入りましょう」



最初は《ライト》。


「光の初級魔法です。

 暗所を照らし、闇を払います」


次は《ウオーム》。


「こちらは熱の初級魔法。

 対象を温め、寒さを和らげる」


どちらも生活魔法の代表格だ。


「便利だからと侮ってはいけません」


オットーの声に、わずかに熱がこもる。


「どんな魔法使いも、

 最初に覚えた初級魔法は、一生使い続けるものです」



「では、《ライト》から」


掌を上に向けるよう促され、その通りにする。


「掌の上に、灯りを思い浮かべてください」


ロウソク、ランプ、焚き火。

例を聞きながら、俺はロウソクを選んだ。


体の中心に意識を集め、

そこから掌へ、静かに流す。


小さな灯りを置くような感覚。


一瞬、何も起きない。


だが次の瞬間、

掌の上に、ふっと光が生まれた。



小さく、丸い光。

ロウソクより少し明るい程度だが、確かに光だ。


指先が、ほんのり温かい。


自分の内側から、

世界に光を足している。


前の世界では、スイッチ一つで済んだこと。

今は、それを自分の手で生み出している。


不思議な高揚感があった。


「よろしい。形も安定しています」


オットーがうなずく。


「一度消して、もう一度」


意識を引くと、光はすっと消えた。

再度流すと、さっきより早く灯る。


確かに、二回目の感触だ。



次は《ウオーム》。


「掌の中に、温もりを思い浮かべてください」


暖炉、湯たんぽ、温かいスープ。

俺は、冬に握っていた使い捨てカイロを思い出す。


体の中の温度を、少しだけ上げる。

それを、掌に集める。


じんわり。

じんわりと、温かさが広がる。


「そのくらいで結構です」


穏やかな熱が残った。


思わず、声が漏れる。


前の世界の便利さを、今さら実感する。

あれも、立派な文明だった。



授業が終わり、お母さんが部屋に入ってきた。


「アレン、どうだった?」


答えの代わりに、掌に《ライト》を灯す。


「まあ……!」


目を輝かせるお母さん。


「すごいわね」


その言葉は、まっすぐだった。

飾り気も、評価もない。


だからこそ、胸の奥が少し熱くなる。


俺は、《ウオーム》でお母さんの手を温めた。

彼女は小さく息を吐き、笑った。


その笑顔は、どんな魔法より温かかった。



夜。

オットーは、お父さんに報告していた。


「《ライト》も《ウオーム》も、実用レベルです」


「そうか」


「初級魔法に限れば、将来が楽しみです」


またその言い回しか、と思う。

だが今日は、受け取り方が違った。


初級魔法だけでも、できることは無数にある。

灯り。暖房。湯。保温。生活のすべて。


初級まで、ではない。

初級なら、全部使える。


そう考えるだけで、世界が広がる。


布団の中で、

俺はこっそり《ライト》と《ウオーム》を繰り返しながら、

二周目の文明再建ごっこを始めていた。

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