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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
38/81

第38話 想いを込めて

なにか——

なにかないか。


砦に戻る。

逆方向に走る。


いや、どっちもダメだ。


街を守れない。

森の奥で無限ループの鬼ごっこなんて

体力もない。


悪臭でいじる。

眠りで鈍らせる。


手持ちのカードは、

どれも自滅するだけだった。


これも、ダメだ。


胸の奥で、感情がこみ上げてくる。


「無理」

「怖い」

「死ぬ」


それが、ぐちゃぐちゃに絡み合って、

思考を押し潰してくる。


だったら、

残ってる手札なんて――



ふと、朝での感覚を思い出す。


泥石や水石を、

ひたすら量産していたときのことだ。


《並列思考》


同じレシピの統合細線を、二十本ぶん。

それを、頭の中で同時に作って並べていた。


十連の《重ね掛け泥石》


ピストンみたいに、束ねたものを

一組みずつ出していく。


一度に流すのは、二本まで。

だから安全だった。


それをもっと束ねたらどうなるか。

太線に十本分押し込んだら……。


怖くて、考えないようにしていたやり方。

リュシュアさんとした約束を、破るやり方。


順番じゃなく、一気にだ。

やったことがない。

やってはいけないと分かっている。


……でも


木の幹に一度手をついて、

荒い息をなんとか飲み込む。


胸の奥が、ずっときしんでいる。

さっきの蹴りで、多分どこか折れてる。


太線が死ねが、魔法人生は終わる。

いや、そもそも人生そのものが終わる。


俺の価値って、なんだろう。


そのとき、頭の中にいろんな顔が浮かんだ。


父さんの短く低い声。


「前には出るな」


眉間にしわを寄せる兄さん。


「生きて帰ってこい」


泣きそうな顔のリナ。


「絶対、戻ってきてよ!」


腕をつかまれていた感触まで、

はっきりと思い出す。


ギルド長のバルドさん。


「無茶はするな、って言ったろうが」


笑っているのに、

目だけまったく笑っていない人だ。


「風切りの牙」のみんな。

カレンさん。セバス。ミーナ。

街で「坊ちゃん、また石作ってくれよ」って言ってきた人たち。


今やろうとしてること。


もしこの場にいたら、

全員に全力で止められるやつだ。


その光景を想像したら、

なぜか、少しだけ笑いそうになった。


――帰るくらいの努力は、してやる。

だから、一回だけ。

無茶をする必要があるだ。



胸の奥に意識を沈める。


《ストーン》と《エアーパレット》と《ダーク》。

これで、一本の統合線を作る。


ストーンで、弾の芯。

エアーパレットで、空気の滑り台。

ダークで、その周りを黒い膜で包む。


感知されないよう、石弾をさらに改良する。

それを、十本ぶん。

頭の中にずらっと並べる。


作るだけなら、簡単だった。

あとはこれを、いっぺんに流すだけだ。 


三本までは、

身体が「前にもやった」と覚えている。


四本目で、

胸の奥でギチ、と何かが鳴った。


五本目。

背中の内側に、熱がじわっと広がる。


大丈夫だ。まだ、イケる。


六本目。

七本目。


指先がわずかに震える。

石の芯の形がぶれないように、

そこだけ意識を寄せる。


八本目。

九本目。


視界の端が、

わずかに白く、ちかちかし始める。


――戻るなら、今だ。

その不安を、すぐに打ち消す。


十本目。


線をつかんだとき、

自分のことなのに、

「知らない」と目をそらしたくなった。


でも、握ったものは、もう離せなかった。


ここで離したら、

身体の真ん中で、

十本ぶんの弾が暴れ出す気がしたからだ。


「——っ」


歯を食いしばる。


十本ぶんの統合細線を、

太線にぜんぶ詰め込んだ。


胸の奥が、痛い。

焼けるように痛い。


ビリビリと背骨に沿って、

電気が走る。


本当は……

もうちょっとのんびり生きてたかったな。


初級までしか届かない自分への、

ちょっとした恨みと悔しさ。


どこかよく分からない穴を、

たまたま一個埋める役。

それぐらいでちょうどいいと思ってた。


ただ、生きて帰りたい。


どうしようもない執着。

それだけが、今の俺を突き動かす。


巨人は……

少しふらついていた。


今までのが効いてきたのか。

足取りは重い。


チャンスは一度しかない。


右手を前に突き出し、

すべての想いをこめる。



《闇石弾10倍ショット》




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