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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
34/81

第34話 眠り瓶

「中央、詰まってるな」


兄さんがつぶやく。


止まっている。

止まりすぎている。


上からの魔法と矢と石弾で、

オークたちが削られている。


そのぶん、後ろから新しいオークが押し寄せる。


どろんこレーンは、ちゃんと噛み合っていた。

……はずだった。



「あれ、ちょっと高くなりすぎじゃないですか?」


山は、人の背丈を超えてもはや壁になっていた。


今やそこは、

止まるための場所ではなく、

溜まり続けるゴミ山になりつつあった。


上に乗っているオークは、自分で動けない。

後ろから押される。

前にも後ろにも行けない。


「圧で横に逃げている。流れが変わった。」


背後から、バルドさんの声がした。


砦の上。

戦場全体を見下ろしている。


「いいか、見ろ」


彼があごで示した先。

左右レーンのあたり。


「……増えてる」


右レーンのオークの列が、最初より明らかに厚い。

左も同じだ。


左右は、薄いどろんこレーンだ。


さっきまでは、

泥で減速→盾で止める→数人で刺す、で何とかなっていた。

そこに眠り石もあって、むしろ優勢だった。


でも今は、

中央からあふれたぶん、

左右が一列、二列と増えている。


「右、押されてるぞ!」


「盾下がるな! 光の手前で止めろ!」


「左も数が増えてる! 列を崩すな!」


怒鳴り声が厳しくなるのが、砦の上まで届いた。


右レーンの兵士たちの足が、

じりじりと光のラインに近づいていく。


左レーンでは、《風切りの牙》が前で支えながら、

ほんの少しずつ、位置を後ろにずらしている。


「……このままじゃ、防衛ラインが崩壊しますね。」


俺が言うと、

兄さんが小さくうなずいた。


「中央に戻せないか?」


「戻したいですけど……」


どろんこ地獄は、真ん中一本。


そこにぜんぶ叩き込みたい。

でも、山が詰まりすぎていて、

新しく滑り込む余地がだんだん減っている。


「バルドさん」


俺が振り向くと、

ギルド長はもう何か考え込んでいた。


「中央に、余裕を持って置いていた高ランクは、もう側面に回してる」


「これ以上前線に出せる戦力は、そう多くない」


ちょうどそのとき。

砦の階段から、何人かが上がってきた。


鎧は泥だらけ。

肩で息をしているDランク冒険者たちだ。


交代で下がってきた、側面の連中だろう。


「バルドさん!」


一人が、鎧兜を脱ぎ捨てながら叫んだ。


「右側面、どんどんやべえことになってます!」


「中央が完全に詰まってるせいで、

 全部こっちに回ってきてる!」


「左もだ!」


別の冒険者が続ける。


「泥レーンも眠り石も薄いから、

 勢いが全然死なねえ!」


「減速はしてるんすけど、

 止める前に次の波が来る!」


「眠りゾーンのとこは、マジで楽なんですよ!」


ひとりが、ぐったり腰を下ろしながら言う。


「足元ふらついてくれるから、

 そこ狙えばポコポコ倒せるんすけど……」


「それ以外は、ゆるい全力疾走ぐらいで!」


「こっちのスタミナのほうが先に切れる!」


「だったら山を増やせ!」


口の悪い誰かが、半ば悲鳴のように言った。


「どこに!?」


別のやつが即座に返す。


「いつ!? 今か!?」


「もっと泥レーン増やせって話じゃねえのかよ!」


「中央の泥レーン、見てから言えよ!」


「もう、山積みの壁になってんだって!」


「これ以上増やしたら、またどっかの穴から回り込まれるわ!」


言葉の端々から、

限界ギリギリで耐えてる感じがにじむ。



「……中央に押し返すのは、もう無理だな」


バルドが、短く息を吐いた。


「側面にそんなに人も回せない」


「崩すだけじゃ、じわじわ押し切られる。

 左右にあふれたやつらを、 効率よく削る、一手がいる」


バルドは、戦場を見下ろしながら言う。


「中央の上位魔法使いにドカンってやってもらうのは?」


さっきのDランクらしき冒険者が、 息を整えながら言った。


「一発ぶちかましてもらえりゃ、

 側面、だいぶ楽になると思うんすけど!」


「それができたら苦労はねえよ」


バルドが、肩をすくめる。


「あの山見てみろ。

 中央の上位魔法使いたちは、もう十分働いた。

 魔力が回復するまで、あの規模は撃てん」


「それに——」


彼は、右レーンと左レーンを見比べる。


「側面は、範囲が狭すぎる。

 一発でまとめて撃とうとすりゃ、味方もまとめて焼きかねん」


「ドカンじゃなくて、

 崩して止めるための弱い手が欲しいってことか……」


兄さんが、ぽつりと言った。


「そうだ」


バルドが、重くうなずく。


「敵を波を削る」


「そうすりゃ、一匹ずつ狩りやすくなる」


「だが、眠り石はすでに配置済みだ」


「今から、あの混沌の前線に、更に置き石なんて撒けるか?」


誰かが舌打ちした。



「じゃあさ、アレンだろ。」


軽い声が、砦のふちの向こうから飛んできた。


泥だらけのまま、ひょいと顔を出したディランだった。


「え?」


「オレさ、《ヒール水》見て思ったんだけど」


ディランはニヤッと笑った。


「ディラン方式2の悪臭袋の代わり、もうあるじゃん」


「え、あの悪臭ばらまくやつを、ここで?」


セラもいた。顔をしかめる。


「ちげえよ! ここで臭くしてどうすんだよ!」


ディランが全力で否定した。


「今欲しいのは眠りだろ!」


「ヒール水がポーション容器で閉じ込められるんなら、

 眠り石だって閉じ込められるよな?」


「……続けろ」


バルドが、ディランに目を向ける。


「どうやる」


「単純な話だ」


ディランは、指を一本立てた。


「眠り石を作って、ガラスのポーション容器の中に入れるだけさ」


「中でどんだけ眠り眠りしてても、

 ガラスが閉じてりゃ外には出ねえ」


「で、ここだってときに、瓶ごとぶん投げる」


「割れた瞬間、中で充満してた《スリープ》の霧みたいなのが、

 一気に外に広がるって寸法よ」


「……」


――頭の中で、組み上がる。


《眠り石》の線。

石の中に溜めた眠気。

それを、さらにガラスに封じ込める。


見えない眠り霧が、

瓶の内側で満ちていく。


ふたが閉まっているかぎり、

外には一滴も漏れない。


「これなら、重ね掛けしなくても、瞬間的には強烈だ」


ディランは、続ける。


「範囲も、それなりにできる」


「効きすぎて巻き込むのが怖けりゃ、

 狙いどころをちゃんと決めればいい」


「携帯できて、

 使いたいときに発動できる」


「ただの眠り石なら、

 アレンの負担も少ねえ」


「今からでも量産できるだろ?」


「……理屈は通ってるな」


兄さんがぽつりと言った。


バルドも、短くうなずく。


「坊主」


名前を呼ばれる。


「やれるか?」


「 はい、《眠り瓶》としてなら、

 今からでもある程度の数は作れます」


「よし」


バルドが、すぐに声を張った。


「ポーション容器班! 砦上に空瓶を全部持ってこい!」


「《眠り瓶》を作る!」


「ただし、条件がある!」


――と、俺を見る。


「アレン。《眠り石》は外で作れ。

 ここでやったら、この砦が丸ごと眠りゾーンだ」


「分かってます!」


「《ウインド》が使える初級魔法使い! 一人でろ!」


「風属性、初級ですが!」


「十分だ。坊主の風上に立て」


「作業中、外へ風を流し続けろ」


「《浄化》が使えるやつ!」


イリスが手を上げた。


「《浄化》だけなら!」


バルドがうなずく。


「少し離れて待機しろ」


「アレンや風使いに異変があったら、

 すぐに《浄化》を飛ばせ」


「リナ!」


「はい!」


「お前は、ふた係だ」


「石が入ったら、すぐ閉めろ」


「もたついたら、お前もアレンも眠るぞ」


リナが、ゴクリと息をのむ。


「……了解です!」


バルドは、最後に俺を見た。


「お前の役目は、流れをいじる道具を作ることだ」


「前に出たい気持ちは分かるが、

 今は、それだけに集中しろ」


「……はい」


今は――

やるべきほうを選ぶ。


「《眠り瓶》工場、始めます」


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