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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第3話 魔力検査の日

朝一番。

エリシアの声が、いつもより少し弾んでいた。


「ほら、アレン。今日はちゃんとした日よ」


言葉の意味は、全部じゃない。

でも、雰囲気で分かる。

今日は、なんか大事な日だ。


いつものお仕着せじゃない服に着替えさせられる。

布地が、明らかに違う。

少し重くて、でも肌ざわりがいい。


抱き上げられて、廊下を進む。

窓の外に見えるのは、いつもの中庭じゃない。


もう少し広い庭。

その向こうに、石造りの建物。


行き先が違う。

それだけで、胸の奥が少しざわついた。



「こちらへどうぞ、奥様」


落ち着いた男の声。

見慣れた執事――セバスが一歩前に出て、扉を開ける。


中に入ると、空気が少しひんやりしていた。


石の床。

壁には、意味の分からない模様が刻まれた板が、いくつも立てかけられている。


部屋の中央には、椅子がひとつ。

その横に、背筋の伸びた痩せ型の男が立っていた。


「お初にお目にかかります、奥様。

 王都魔法学院・前講師、オットー・ラインベルクと申します」


丁寧な口調。

にこやかな笑顔。


でも、その目の奥は、少し違う。


数値を見る目。

評価する側の目だ。


ああ、分かる。

この人は先生タイプだ。


前の世界でも、何度か見たことがある。

テストを配る側の人間の視線。


「遠路はるばる、ありがとうございます。

 本日、三歳になった息子の魔力検査をお願いしたく」


お母さんが、軽く会釈する。


「いえいえ。将来有望なご子息の第一歩。

 お手伝いできるのは、教師として光栄なことです」


言葉はきれいだ。

でも、空気は完全に「点数をつける側」だった。



俺は、お母さんの膝の上に座らされる。


正面、ちょうど目線の高さに、

丸い石板が、すっと差し出された。


大人の顔くらいの大きさ。

表面には、細い線が渦を巻くように刻まれている。


「こちらは、属性反応を見るための魔力板です。

 お子様でも、触れるだけで反応します」


オットーが説明する。


やっぱり、あれだ。

ラノベで見たことのある、属性診断用の魔道具。


「では、アレン坊ちゃま。

 手を、こちらへ」


オットーが身をかがめ、

俺の小さな手を、そっと取る。


石は、冷たい。

思わず、指先に力が入る。


ちょっと、どきどきする。


「……だいじょぶ」


自分でも驚くくらい、

短いけど、ちゃんとした言葉が口から出た。


胸の奥にある、いつもの感覚に意識を向ける。

毎日続けてきた、あの体操。


今日は、その結果を見る日だ。


ゆっくり息を吸う。

少しだけ溜めて――

手のひらへ、そっと流す。



最初、石板は何の反応も示さなかった。


オットーの目が、わずかに細くなる。

「やれやれ」と言わんばかりの表情だ。


――待って、今やってる。


呼吸を整え、

意識を手のひらへ集める。


指の付け根あたりが、じんわりと温かくなった、その瞬間。


石板の線が、ふっと光った。


「……おや」


オットーの口から、小さく声が漏れる。


最初に浮かんだのは、赤。

火の色だ。


次々に紋様の一部が、ぽうっと灯る。


続いて、その隣。

青――水。


さらに、薄い緑。

風。


土を思わせる、くすんだ茶色。

少し遅れて、白っぽい光と、淡い紫。


石板の模様が、じわじわと色づいていく。


「……お、おお?」


今度は、はっきりとした驚きの声。


「これは……火、水、風、土……光……闇……?

 すべて、反応していますね……」


「全部、ですの?」


お母さんが、思わず息をのむ。


「ええ。見事な多属性反応です。

 ここまで揃って出るのは、そう多くありません」


どうやら、褒められているらしい。

少しだけ、気分がよくなる。


石板の光は、俺の様子に合わせて、

ゆらゆらと明るさを変えていた。


――じゃあ、もう少しだけ。


意識を、ほんのわずかに動かす。


石板の光が、一瞬だけ、膨らんだ。


「……ふむ。制御も悪くありませんな」


オットーが、顎に手を当てる。



「多属性、か……」


背後から、お父さんの低い声。


「ええ、ガルド様。

 才能という意味では、申し分ありません」


オットーの表情が、少しだけ引き締まる。


「ただ――」


声色が、わずかに鋭くなる。


「全体的に、出力が細い」


オットーは、俺をじっと見た。


もちろん、目で見えるものじゃない。

だが、長く魔力を扱ってきた者には、

通り方が、なんとなく分かるのだろう。


「流れは安定していますし、滑らかです。

 ただ、太さが足りない」


「……つまり?」


「初級魔法までは、かなり器用に扱えるでしょう。

 しかし、中級以上になると、途端に厳しくなります」


言葉を選びながら、続ける。


「一撃の出力を求められる魔法は不向きです。

 多属性ではありますが……

 いわば、初級までが限界の逸材ですね」


――はっきり言うな、この先生。



「初級まで、ですのね」


お母さんが、小さく俺の背中を撫でる。


声に、失望はない。

現実を、そのまま受け止めている響きだ。


「ええ。ただし――

 初級魔法の習得速度と精度は、かなり期待できます」


オットーは、淡々と続ける。


「多属性ですから、分野を選ばず器用に動ける。

 補佐役ならば、むしろ適性が高いでしょう」


前線で戦う大魔法使い、ではなく。

屋敷や領地を支える、実務型。


――はいはい、ルート決定ですね。


前の人生でも、よくあった。

点数や適性で、進路を勧められるやつだ。


間違ってはいない。

世の中、だいたいそんなものだ。


でも――


今回は、それだけで終わらせるつもりはない。


反発が芽生える。



検査は、それで終わった。


――多属性。

――出力は細め。

――初級までが得意。


今日だけで、だいたいの「評価」は出た。


前世と同じく、主人公ではない。


モブ寄り。

少し変わり種。


それなら、それでいい。


「初級まで」という線を、

考える余地があるってだけで、十分だ。


俺は自然に、指先をむにゅむにゅと動かした。





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