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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第29話 森の異変

森での狩りは、少しずつ「いつものこと」になりつつあった。


《偽装落とし穴》を仕込んで、

手前で《スリープ》を一発。

落ちたあとに、もう一度スリープで這い上がりを止める。


トドメはリュシュアの矢。


昨日覚えた《石弾3倍ショット》は、

約束どおり「封印技」として頭の奥にしまってある。


普段は罠と《スリープ》だけ。

本当にヤバいとき用の一発は、

そう何度も練習で撃つもんじゃない。



その日も、いつものように森の中を進んでいた。


木々の間を抜ける風。

土の匂い。

小さな鳥の鳴き声。


——そこまでは、いつもの森だった。


でも。


空気の感じが、いつもと少しだけ違う。

湿気とか温度とか、そういう話じゃない。


「リュシュアさん」


「なんだ」


「今日、なんか……

 うまく言えないんですけど、

 息が詰まりやすい感じがしませんか?」


リュシュアは、ぴたりと足を止めた。


しばらく、その場で目を閉じる。


数拍の沈黙のあと、

低い声が落ちてきた。


「……少し、濃くなっているな」


「何がですか?」


「マナの密度だ」


リュシュアは、ゆっくりとあたりを見回した。


「昨日までとは、流れが違う」


「普通は、森の中のマナは、

 木や土や水にゆっくりと吸われては戻っていく」


「それが、今日は——?」


空気を指でつまむような仕草をして、

小さく絞り出す。


「引っ張られている。

 どこか一方向へ、少しずつな」



それからしばらく、

いつもの獣道や窪地、水場を

普段より慎重に歩いた。


でも——。


ホワイトウルフの群れ。

ゴブリン。

名前も知らない小型の獣。


いつも狩っているような相手だ。

ただ、そこにいていい数がじゃない。


「……やっぱり、変ですね」


小声で呟くと、

リュシュアは短く頷いた。


「そろいすぎている」


「普段なら、弱いの、強いの、臆病なの、狂暴なのが、

 もうちょっとバラけてますよね?」


「そうだ。だが、今は、

 同じものが、自分の縄張りから集まりだしている」


「外側に押し出されている?」


リュシュアの声が、

いつもよりわずかに硬くなる。


「何かに追い立てられているか。

 あるいは——森の奥に、

 近づきたくないものがいるのか……」



そのときだった。


遠くで、低い振動のようなものを感じた。


音、というより、

地面の下からじわっと伝わってくる「圧」。


「……っ」


思わず足が止まる。


「今の、なんですか」


「分からん」


リュシュアは、素直に言った。


「ただ、この森にはない重さだ。

 質量か、魔力か、あるいはその両方だ」


言葉自体は淡々としているのに、

内容は、ぞっとするものだった。



しばらく進んだところで、

少し開けた場所に出た。


地面には、いくつか新しい足跡がある。


オーク。ホワイトウルフ。ゴブリン。

それ以外に、「見慣れない踏み荒らし方」。


「……でかいですね、これ」


普通の獣とは明らかに違う、

ぐしゃっと潰れたような跡。


リュシュアも、眉をわずかにひそめただけだった。


「大物が通った感じではない、な。

 何かに押されたか」


「いろいろなものが、無理やり通ったようにも見えますね」


「どちらにせよ——」


リュシュアはそこで一度言葉を切り、

そして、俺のほうをまっすぐ見た。


「……これ以上ここにいるのは、あまり良くない」


はっきり言われる。


「一度、引くぞ」



やっと、自分でも戦うときの形が、

なんとなく見えてきたところなのにな。


前線で剣を振るうんじゃなくて、

その一歩前くらいまで、一緒に行って大丈夫な支援役。

ようやく手応えを感じていたところ。


でも——。


こういう、嫌な前兆を無視して突っ込むと、

だいたいロクなことにならない。


「分かりました。戻りましょう」


素直にそう言った。


名残惜しさも、もどかしさもある。

でも、それ以上に、

「嫌な予感をねじ伏せてまで進む理由」は、

今の俺にはない。


リュシュアはうなずいた。


「依頼は一旦中止だ。

 森の様子が落ち着くまでは、お前を連れてこない」


「リュシュアさんは?」


「私は、単独で行動する」


「何が起きてるか、奥を見てくるんですか?」


「森が揺れている。崩れるかもしれない……

 だが、そうなる前に、どこかで手を打つ」


言葉の意味は、分からない。


ただ、かなりまずい状況が近づいている。

それだけは、はっきり伝わってきた。



森を出る帰り道。

背中に、まだ重たい違和感が張りついている。


森の奥で、何かが生まれつつあるのか。

それとも、すでにそこにあるのか。


答えの出ないまま歩いているうちに、

森の入口が見えてきた。


リュシュアは、そこで一度だけ足を止め、振り返る。


「アレン」


「ギルドに顔を出して、バルドに森の異常を伝えておけ」


「はい」


「お前は、お前のできることをしろ。

 森に来るだけがすべてじゃない」


「……分かりました」


その言葉にうなずきながらも、

背後では、見えない何かが不気味に満ちていくような気配がしていた。

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