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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第28話 3倍ショット

今日も、《偽装落とし穴》と《スリープ》で森を回った。


イノシシを誘導し、落とし、

穴の中で眠気を重ねて動きを止め、

最後はリュシュアの矢で静かに仕留める。


その流れは、もう体に染みついてきている。


俺は小さく息を吐いた。

「この形も、だいぶマシになってきたな……」


落とす手前。

落ちた後。

どこで《スリープ》を入れれば一番楽か、

もう、体で分かってきている。


「そろそろいいだろう」


リュシュアが、矢を矢筒に戻しながらこちらを見る。


「昨日、石で倒すとか言っていただろう」


「はい」


「今日は、それをやる」



「まず、《石弾》だ」


リュシュアが言う。


「《ストーン》と、《エアーパレット》を一本の線にまとめろ」


俺は、まだ不慣れな《エアーパレット》用の細い線を一本起こす。

空気の球をひとつ、前に押し出す線。


それと、《ストーン》用の細線。

小さくて硬い石を形作る線。


この二本を、そのまま別々に出すんじゃなくて——

飛ぶ小石専用の線にする。


頭の中で、一本の「石弾用の細線」に統合する。


まず石を作り、

そのまま空気の弾で前に押し出す。

太い線に通して、一度だけ出力する。


《石弾》


石が、手からふっと離れた。

目にも止まらない、というほどではないが、

それなりの速度で前に飛んでいく。


木の幹に「コツン」と当たった。


「おお……」


音は悪くない。


近くで見ると、当たったところの皮が少しだけへこんでいる。


「次だ」


リュシュアが顎をしゃくる。


少し離れたところに、弱そうなゴブリンが一体。

足を軽く縛ってあるが、動けないほどではない。


「逃げられてもいい程度に縛ってある。

 撃ってみろ」


少し怯む。

やるって言い出したは、確かにこっちなんだけど。


狙うのは、肩。


「いきます」


声に出してから、放つ。


《石弾》


石が一直線に飛び、ゴブリンの肩に見事、命中した。


「ギィッ!」


ひきつったような悲鳴を上げて、ゴブリンが縛られた足のまま暴れる。

でも——。


数秒後には、ギロリとこっちを睨んできた。


「……これ、ちょっと強めの小石投げですね」


思わず口から出た。


「当たれば嫌がってはくれますけど、止める一手ではないです」


「そうだな」


リュシュアもあっさり認める。


「今のままでは、決定打にならん。

 だが、基礎としては悪くない」



「《スリープ》と組み合わせるのは、どうですか?」


言葉が先に出た。


「《スリープ》と《エアーパレット》をまとめて、

 当てる眠気弾みたいに」


リュシュアは少し考えてから、うなずいた。


「おもしろい。

 まずは、それを先に作れ」


「はい」


今度は、《スリープ》と《エアーパレット》の二本だ。


《スリープ》用の細線。

「ふわっ」と意識を軽くする線。


《エアーパレット》用の細線。

小さな空気弾を前に押し出す線。


この二本を、一本の「気絶狙いの弾用の線」に統合する。


当たった瞬間、その一点から《スリープ》の眠気が、じわっと広がるイメージ。


切り株を的にして、まずは線の通りを確認する。


次に、さっきのゴブリンを立たせ、ロープを少し緩めた。


「胸か肩に撃て」


リュシュアが言う。


「頭はやめておけ。まだ加減が分かっていない」


「はい」


ゴブリンはこちらを睨んでいる。

逃げてもおかしくない状況なのに、妙に根性が座っている個体だ。

試しに一発撃ってみる。


《気絶弾》


「グルッ」


弾が当たった瞬間、ゴブリンが一歩よろけた。

目が、一瞬だけとろんとする。


だが――


「ギ、ギィィ……!」


歯ぎしりのような音を立て、体勢を立て直して突っ込んでくる。


リュシュアが、その前にさくっと足を払って転ばせた。


「動きは鈍っていたな」


矢を番えながら、淡々と言う。


「矢を当てやすくするぶんには、もう十分仕事している」


ゴブリンの頭に、一本の矢が突き刺さる。

それで動きは止まった。


「だが、お前の一撃で完結させたいなら、まだ足りん」


「ですよね」


補助としては十分だ。

だが、「自分だけで静かに倒す一発」には、まだ遠い。



《ストーン》を指先で転がしながら、ふと思い出す。


《重ね掛けヒール水》。

《重ね掛け美容水》。


同じ統合線を2つ束ね、太い線でまとめて通すことで、

効果を分厚くしていた。


「リュシュアさん」


「《石弾》の線を三本まとめて撃ったら、

 三倍ショットみたいになりませんか?」


リュシュアは少しだけ俺を見て、短く答えた。


「考え方としては、悪くない。

 確かに、威力は三倍になるだろう」


そこで、声のトーンが変わった。


「だが、聞け」


厳しく低い声だった。


「一般の術者なら、太い線一本で

 細線を十本ぶん束ねても余裕がある。

 だから、中級や上級魔法を一人で撃てる」


「それに比べて、お前の太線は……せいぜい五本だ」


「それを越えて無理をすれば、どこかで一気に壊れる」


喉が、からりと鳴った。


「だから、三本束ねるのは、基本的に禁止だ」


「……禁止、ですか」


「そうだ。どうしても必要なときだけだ」


「私が見ている範囲で、今ならいいと言ったときだけ撃て」


「それ以外でやったら、その瞬間から訓練は全部打ち切る。

 森にも連れて行かん。顔も見せん」


「……はい」


怒鳴られるより、それのほうがずっと怖い。


「今のお前は、やはり罠がメインだ」


「《ストーン・トライインパクト》?

 いや、《トリプル・バーストショット》とか——」


思わず、ブツブツと声が漏れた。


「何か名前を考えているのか?」


リュシュアが、呆れた声で言う。


「やめろ」


即座に切られた。


「名前に余計な飾りをつけたところで、

 当たるわけでも、強くなるわけでもない」


「……ですよね」


ちょっと恥ずかしい、聞こえてた。


「《石弾3倍ショット》。それでいい」


「じゃあ、内輪ではそれで」


「好きにしろ」



結局、《石弾3倍ショット》を試すことになった。


「一度だけだ」


リュシュアが念を押す。


「威力と、お前の線の反応を見るための実験だと思え」


「はい」


まず、《石弾》の細線を一本作る。

それと同じものを、横に並べるイメージ。


《石弾》統合細線×3。


それらを太線にまとめて通すと、ずしりと重くなる。

腕の内側まで、じりじりとした熱が走った。


「対象は、あれだ」


リュシュアが指さした先には、弱そうなゴブリンが一体。


さっきとは別の個体だが、やっぱり根性だけはありそうな顔をしている。

なんで、ゴブリンって根性あるん?


「まず、《スリープ》で顔まわりを、ふわっとさせろ」


「はい」


《スリープ》


一瞬、ゴブリンのまぶたが重くなる。

足が、半歩だけ止まった。


「今だ」


リュシュアの声が聞こえた瞬間、

俺は《石弾3倍ショット》を解き放った。


側頭部に向かって、石が一直線に飛ぶ。


鈍い音。


ゴブリンの頭が、がくんと揺れ、

糸が切れた人形みたいに、そのまま崩れ落ちた。


しばらく待っても、動かない。


「……」


喉から、息が抜ける。


「今のは、お前が倒したと言っていい」


リュシュアが言った。


「《スリープ》で鈍らせ、《石弾3倍ショット》。

 弱い奴を確実に減らすための一発としては、悪くない」


少しだけ、胸の奥が熱くなる。


けれど同時に、腕の中の太線が、

まだじんじんとした熱を残しているのも感じていた。


リュシュアも、その様子を見て、もう一度念を押す。


「《石弾》は普段二本まで、だ」


「それ以上束ねたくなったときは、まず一回、深呼吸しろ。

 無茶をして、自分で踏み越えるな」


「……はい」


前に立たない者でも持っていていい刃を、

ちょっとだけ誇らしく思いながら、返事をした。

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