第28話 3倍ショット
今日も、《偽装落とし穴》と《スリープ》で森を回った。
イノシシを誘導し、落とし、
穴の中で眠気を重ねて動きを止め、
最後はリュシュアの矢で静かに仕留める。
その流れは、もう体に染みついてきている。
俺は小さく息を吐いた。
「この形も、だいぶマシになってきたな……」
落とす手前。
落ちた後。
どこで《スリープ》を入れれば一番楽か、
もう、体で分かってきている。
「そろそろいいだろう」
リュシュアが、矢を矢筒に戻しながらこちらを見る。
「昨日、石で倒すとか言っていただろう」
「はい」
「今日は、それをやる」
◇
「まず、《石弾》だ」
リュシュアが言う。
「《ストーン》と、《エアーパレット》を一本の線にまとめろ」
俺は、まだ不慣れな《エアーパレット》用の細い線を一本起こす。
空気の球をひとつ、前に押し出す線。
それと、《ストーン》用の細線。
小さくて硬い石を形作る線。
この二本を、そのまま別々に出すんじゃなくて——
飛ぶ小石専用の線にする。
頭の中で、一本の「石弾用の細線」に統合する。
まず石を作り、
そのまま空気の弾で前に押し出す。
太い線に通して、一度だけ出力する。
《石弾》
石が、手からふっと離れた。
目にも止まらない、というほどではないが、
それなりの速度で前に飛んでいく。
木の幹に「コツン」と当たった。
「おお……」
音は悪くない。
近くで見ると、当たったところの皮が少しだけへこんでいる。
「次だ」
リュシュアが顎をしゃくる。
少し離れたところに、弱そうなゴブリンが一体。
足を軽く縛ってあるが、動けないほどではない。
「逃げられてもいい程度に縛ってある。
撃ってみろ」
少し怯む。
やるって言い出したは、確かにこっちなんだけど。
狙うのは、肩。
「いきます」
声に出してから、放つ。
《石弾》
石が一直線に飛び、ゴブリンの肩に見事、命中した。
「ギィッ!」
ひきつったような悲鳴を上げて、ゴブリンが縛られた足のまま暴れる。
でも——。
数秒後には、ギロリとこっちを睨んできた。
「……これ、ちょっと強めの小石投げですね」
思わず口から出た。
「当たれば嫌がってはくれますけど、止める一手ではないです」
「そうだな」
リュシュアもあっさり認める。
「今のままでは、決定打にならん。
だが、基礎としては悪くない」
◇
「《スリープ》と組み合わせるのは、どうですか?」
言葉が先に出た。
「《スリープ》と《エアーパレット》をまとめて、
当てる眠気弾みたいに」
リュシュアは少し考えてから、うなずいた。
「おもしろい。
まずは、それを先に作れ」
「はい」
今度は、《スリープ》と《エアーパレット》の二本だ。
《スリープ》用の細線。
「ふわっ」と意識を軽くする線。
《エアーパレット》用の細線。
小さな空気弾を前に押し出す線。
この二本を、一本の「気絶狙いの弾用の線」に統合する。
当たった瞬間、その一点から《スリープ》の眠気が、じわっと広がるイメージ。
切り株を的にして、まずは線の通りを確認する。
次に、さっきのゴブリンを立たせ、ロープを少し緩めた。
「胸か肩に撃て」
リュシュアが言う。
「頭はやめておけ。まだ加減が分かっていない」
「はい」
ゴブリンはこちらを睨んでいる。
逃げてもおかしくない状況なのに、妙に根性が座っている個体だ。
試しに一発撃ってみる。
《気絶弾》
「グルッ」
弾が当たった瞬間、ゴブリンが一歩よろけた。
目が、一瞬だけとろんとする。
だが――
「ギ、ギィィ……!」
歯ぎしりのような音を立て、体勢を立て直して突っ込んでくる。
リュシュアが、その前にさくっと足を払って転ばせた。
「動きは鈍っていたな」
矢を番えながら、淡々と言う。
「矢を当てやすくするぶんには、もう十分仕事している」
ゴブリンの頭に、一本の矢が突き刺さる。
それで動きは止まった。
「だが、お前の一撃で完結させたいなら、まだ足りん」
「ですよね」
補助としては十分だ。
だが、「自分だけで静かに倒す一発」には、まだ遠い。
◇
《ストーン》を指先で転がしながら、ふと思い出す。
《重ね掛けヒール水》。
《重ね掛け美容水》。
同じ統合線を2つ束ね、太い線でまとめて通すことで、
効果を分厚くしていた。
「リュシュアさん」
「《石弾》の線を三本まとめて撃ったら、
三倍ショットみたいになりませんか?」
リュシュアは少しだけ俺を見て、短く答えた。
「考え方としては、悪くない。
確かに、威力は三倍になるだろう」
そこで、声のトーンが変わった。
「だが、聞け」
厳しく低い声だった。
「一般の術者なら、太い線一本で
細線を十本ぶん束ねても余裕がある。
だから、中級や上級魔法を一人で撃てる」
「それに比べて、お前の太線は……せいぜい五本だ」
「それを越えて無理をすれば、どこかで一気に壊れる」
喉が、からりと鳴った。
「だから、三本束ねるのは、基本的に禁止だ」
「……禁止、ですか」
「そうだ。どうしても必要なときだけだ」
「私が見ている範囲で、今ならいいと言ったときだけ撃て」
「それ以外でやったら、その瞬間から訓練は全部打ち切る。
森にも連れて行かん。顔も見せん」
「……はい」
怒鳴られるより、それのほうがずっと怖い。
「今のお前は、やはり罠がメインだ」
「《ストーン・トライインパクト》?
いや、《トリプル・バーストショット》とか——」
思わず、ブツブツと声が漏れた。
「何か名前を考えているのか?」
リュシュアが、呆れた声で言う。
「やめろ」
即座に切られた。
「名前に余計な飾りをつけたところで、
当たるわけでも、強くなるわけでもない」
「……ですよね」
ちょっと恥ずかしい、聞こえてた。
「《石弾3倍ショット》。それでいい」
「じゃあ、内輪ではそれで」
「好きにしろ」
◇
結局、《石弾3倍ショット》を試すことになった。
「一度だけだ」
リュシュアが念を押す。
「威力と、お前の線の反応を見るための実験だと思え」
「はい」
まず、《石弾》の細線を一本作る。
それと同じものを、横に並べるイメージ。
《石弾》統合細線×3。
それらを太線にまとめて通すと、ずしりと重くなる。
腕の内側まで、じりじりとした熱が走った。
「対象は、あれだ」
リュシュアが指さした先には、弱そうなゴブリンが一体。
さっきとは別の個体だが、やっぱり根性だけはありそうな顔をしている。
なんで、ゴブリンって根性あるん?
「まず、《スリープ》で顔まわりを、ふわっとさせろ」
「はい」
《スリープ》
一瞬、ゴブリンのまぶたが重くなる。
足が、半歩だけ止まった。
「今だ」
リュシュアの声が聞こえた瞬間、
俺は《石弾3倍ショット》を解き放った。
側頭部に向かって、石が一直線に飛ぶ。
鈍い音。
ゴブリンの頭が、がくんと揺れ、
糸が切れた人形みたいに、そのまま崩れ落ちた。
しばらく待っても、動かない。
「……」
喉から、息が抜ける。
「今のは、お前が倒したと言っていい」
リュシュアが言った。
「《スリープ》で鈍らせ、《石弾3倍ショット》。
弱い奴を確実に減らすための一発としては、悪くない」
少しだけ、胸の奥が熱くなる。
けれど同時に、腕の中の太線が、
まだじんじんとした熱を残しているのも感じていた。
リュシュアも、その様子を見て、もう一度念を押す。
「《石弾》は普段二本まで、だ」
「それ以上束ねたくなったときは、まず一回、深呼吸しろ。
無茶をして、自分で踏み越えるな」
「……はい」
前に立たない者でも持っていていい刃を、
ちょっとだけ誇らしく思いながら、返事をした。




