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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第23話 光のラインとくさい流れ

森の手前。

いつも獣が通る細い道――

獣道が、まっすぐ伸びている。


今日はここに、本格的な罠帯を作る。


「二箇所だ」


ガイルが獣道を見ながら、落とし穴の位置を指した。


「獣道の真ん中に一つ。

 その少し左奥に、もう一つ」


「空いてる右はどうするの?」


セラが確認する。


「わざと流して、俺とディランで刈りとる」


「分かりました」


俺は獣道の中央にしゃがみ込む。


《小さい穴+アース+スコーチ》


見た目は普通の地面。

だが中身は泥だ。

練習の成果で素早く作れるようになった。


さらにそこから少し左奥――

獣道を外れた位置に、もう一つ同じ罠を作る。


立ち上がって全体を見渡す。


獣道の右側だけ、意図的に何もない道が残っている。


「ディランは右奥だ」


ガイルが右側面へ歩いていく。


「俺は、右から来たやつを横から叩き切る」


ディランはそのさらに奥、右奥へ。


「抜けてきたやつを前後から挟むってことだな」


フィオナは、罠の手前右の木陰へ、音もなく消えた。


「引き返すやつ、右に抜けるやつ。

 どっちも、背中を見せる」


セラとイリスは左側、

罠より奥の左の木陰へ。


「私達は、罠を見ながら

 魔法と回復で右をカバーするわ」


「アレンくんも、ここにいて」


「了解です」


俺も左奥の木陰に入る。

ここからなら、正面、左、右側面、右奥――全部見える。


――あとは目印だ。


「ライト+ストーン》


掌に光る石を生み出す。


それを、二つの落とし穴の前後に、

獣道を横切るようにセラが並べていく。


ぽん、ぽん、と淡い光が線になる。


「この光の中が罠帯。

 光の外側が安全地帯」


イリスもほっとしたように頷いた。


「この光が背中に見えてる限り、落ちないのね」


――配置、完了。


「じゃあ、一回りして引っ張ってくる」


ディランが獣道へ走り出した。



しばらくして、草を踏みしだく音と唸り声が聞こえてきた。


獣道の手前からディランが走ってくる。

そのすぐ後ろを、ホワイトウルフ三頭が追っている。


ディランは正面の落とし穴の少し手前で、

さりげなく左の草むらへ逸れ、

そのまま右奥の木陰へ回り込んだ。


獣たちは、前を走っていた影を追うように、

そのまま獣道の真ん中を駆け上がってくる。


——踏め。


先頭のオオカミが正面の落とし穴に差しかかった瞬間、

土の表面が割れた。


ずぼっ。


前脚ごと沈み、顔から泥に突っ込む。


「はい、一体」


左奥の木陰から、セラの詠唱。


《ファイアボルト》


短くまとめた火球が頭部を撃ち抜き、

オオカミの体が、泥の中でぐずりと沈んだ。


俺はすぐ次の動きに入る。


「《悪臭+ストーン》、行きます!」


掌に石を生やし、そのまま悪臭を詰め込む。

狙いは――正面の落とし穴の奥。


獣道の中央、光り石ラインの外側だ。


石が弾け、ぼふっと鈍い音。

一拍遅れて、あのどうしようもないにおいが広がる。


飛び越えようとしていたイノシシが、

空中でびくりと震えた。


前脚が引っ込み、着地を嫌がる。

結果、バランスを崩して横倒しになった。


「いいぞ!」


右側面から、ガイルの声。


俺は二つ目の石を作る。


《悪臭+ストーン》


左へ回り込もうとするオオカミの進路へ。

落とし穴の奥あたりに投げ込む。


ぼふっ。


今度は左側の草むらから悪臭が立ち上った。


正面も左も、完全に「行きたくない場所」になる。


「うげっ、こっちまでちょっと……!」


思わず鼻を押さえた瞬間、

イリスが小さく光を放った。


《浄化》


左奥の空気が、かろうじてマシになる。


「ありがとう、イリスさん」


「これ以上は、さすがに私たちも倒れちゃうからね……」


獣道に視線を戻す。


逃げ場を失った獣たちが、一瞬だけ足を止める。


次の瞬間――


「右だな」


ガイルの呟きどおり、

ホワイトウルフたちが一斉に右へ向きを変えた。


罠も悪臭もない、意図的に残した細道。


そこに――人影。


「お出迎えだ」


ガイルが一歩踏み出し、

飛び込んできたホワイトウルフの首を一太刀。


その奥からは、ディランの槍。


「ほらよ!」


右奥に回り込んでいたディランが、

待ってましたとばかりに喉元を貫く。


挟み撃ち。

逃げ道は、ほぼない。


一頭だけ、反射的に引き返そうとしたオオカミ。


「そっちは行かせない」


罠の手前右、木陰からフィオナの影。


背後から短剣が後ろ脚を刈り、

体勢を崩した首元へ、刃が滑り込んだ。


「……楽勝」


そう呟いて、フィオナは木陰に溶けた。



「いや〜、すげえうまくハマったな」


ディランが汗を拭いながら笑った。


「さっきまであんなに必死に追いかけてきてた連中がさ、

 急に、鼻が曲がるみたいな顔してんの」


「おもしろい逃げ方でしたね」


俺も息を整えつつ、落とし穴の様子を確認する。


一つ目は完全に埋まってしまったが、

二つ目はまだ偽装が効いている。


光り石のラインは、戦闘中ずっと、

境界としてきちんと機能していた。


ガイルが剣を振って血を払うと、光の列を見下ろす。


「前に出るのは俺たちだが、

 結局お前の思惑どおりになったな。」


セラも同じようにラインを見ながら頷いた。


「初級魔法でここまでできるのは大したものよ。

 ……あとは、アレンくんがこっちに悪臭投げない限り、ね」


「投げませんって」


――少し、匂いが漏れて自滅しかけたが。


フィオナが光り石の列を指先でちょん、と突いた。


「……ライン、分かりやすい。助かる」


それだけ言って、さっと木陰に戻っていく。


「じゃあ、もう一周だ」


ガイルの号令で、

俺たちは別の場所に移動。

落とし穴を作り、光り石も並べ直した。


悪臭石はその場で都度、生成して投げる。

腰のポーチに入れたら、自爆の未来しか見えない。


その後も何度か、ほぼ同じパターンで狩りを繰り返した。


慣れてくると、完全なハメ技だった。

大成功と言っていい。



「ふう……今日はこのくらいでいいだろう」


夕方近く、ガイルがそう言って剣を鞘に収めた。


森を抜け、街道へ戻る途中、

ディランがニヤニヤしながら口を開く。


「なあアレン、戦ってるとき思いついたんだけどよ」


「嫌な予感しかしないんですけど」


「悪臭石さ、一個ずつ投げるてるじゃん。

 でも、こうやってよ、袋にまとめて入れといて、

 敵のど真ん中にドカンって投げたら、絶対楽しくね?」


腰から下げた布袋をぶんぶん振る。


「それ、まさか——」


「中身は拾い集めた悪臭石だ」


満面の笑みで言うな。


「ディランさん、その袋……持ってる間、ずっと臭くなかったですか?」


「……まあ、ちょっとな。

 でも戦ってるときは気になんねーし。

 真ん中で爆ぜたら最高だぞ、たぶん」


「たぶんじゃなくて、確実に周りも巻き込みますよね」


セラが眉をひそめる。


「私たちの射程にも被るでしょ?

 嫌なんだけど、その空気で魔法撃つの」


イリスも苦笑いだ。


「治療するとき、くさいのはちょっと……」


それでもディランは袋を振り続ける。


「でもよ、その都度一個ずつ作る必要もないし楽だろ?」


「効率は、たしかにいいですけど……」


俺は袋をじっと見る。


「それ、あとどれくらいもつんですか?」


「さあな。まだ匂ってるけど、

 帰るころには完全に抜けてそうだな」


「日持ちは、やっぱりしないんですね」


「まあ、今日の狩り用だな」


そりゃそうだ。

今日の分ですら、隣を歩く俺がつらい。


「でも、範囲悪臭って発想は悪くないわ」


セラがぼそっと言った。


「……持ち運びのにおいが解決すれば、だけどね」


「そこが一番の問題なんですけど」


ガイルがちらりとこちらを見る。


「ま、その辺はまた頭ん中で転がしとけ」


「はい」


……使いたい時まで保つものか。


《重ね掛けヒール水》みたいに。

ギルドや遠征の冒険者の役に立てたら……

それはそれで嬉しい。


「今は、今日の獲物を持って帰るほうが先だ。

 ディラン、その袋、絶対ギルドで開けるなよ」


ガイルが笑った。


「開けねえよ! 自分が死ぬだろ!」


その場で投げる即席の兵器。

そこを越えなきゃいけない。


その日がいつかは分からない。

でも、頭の片隅に残しておいた。

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