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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第22話 仕掛け石

「……でさ、正直ヒヤッとしたんだよな」


ギルド奥のテーブル。


《風切りの牙》の反省会は、

いつもより、少し緩んだ空気になっていた。


ディランが椅子に足を投げ出す。


「落とし穴は最高だったんだけどよ。

 どこまで近づいていいか分かんねえの。

 それが地味に怖え」


ガイルが静かに頷く。


「そうだな。

 前線からすれば、一目で分かる目印がほしい」


セラも横から口を挟んだ。


「それと、飛び越えとか迂回も

 もうちょっとコントロールできたらいいわね」


たしかに。

あの場では、正直かなり探り探りだった。


「石でも置ければいいんですけど、

 持ち歩くのには限界がありますし……」


そう言うと、ガイルがこちらを見た。


「なら、《ストーン》を覚えろ」


「ストーン?」


「手の中に石を生やす魔法だ。

 現地でいくらでも増やせる」


セラがくすっと笑う。


「アレンなら、その石にいろいろいじくれるでしょ。

 仕掛け石ってやつね」


現地で自由に増やせる石。

そこに光とか、なんか嫌なものとかを足せれば……。


「教えてください!」


即答だった。



ギルドの裏手、使われていない空き地。


「《ストーン》はな、土の塊を掴むんじゃない。

 魔力で石ってこういうもんだって形を作って、

 それを手の中にまとめるんだ」


ガイルが自分の掌をこちらに向ける。


すっと魔力を流した瞬間、そこに灰色の石が

生えたみたいに現れた。


片手で握れるくらいの、角の少し丸い石。


「……かっこいい」


「やってみろ」


言われたとおり、手のひらの上に意識を集中させる。


土、よりは、石か。

投げても崩れない固さ。


「《ストーン》」


ぼそっと呟いた瞬間、

手の上にどろっとした土の塊が乗った。


「……団子だな」


ガイルが渋い顔をする。

指でつつくと、ぼろぼろ崩れた。


「形が甘い。もっと詰まってる感じをイメージしろ。

 あと角を全部尖らせるな。握りにくい」


「はい」


何度か繰り返す。

柔らかすぎて潰れたり、

トゲトゲになりすぎて自分で痛かったり。


それでも十回ほど挑戦したところで、

ようやくガイルの石と同じくらいのものが

掌に収まった。


適度な重さ。

握っても手を切らない丸み。

投げるにも、置くにもよさそうな大きさ。


「……おお」


思わず声が漏れる。


ガイルが小さく頷いた。


「まあまあだな。あとは数をこなせ」


その後もしばらく生やしては並べた。

気づけば足元は、石だらけだ。


「よし。とりあえず、仕掛けの土台は

 量産できるようになった」


セラが腕を組み、ずらっと並んだ石を見渡す。


「この石に、光とか、なにかの効果を乗せるのね」


「はい。まずは……目印と、誘導、ですよね」



屋敷の一角を借りて、

机の上に《ストーン》で作った石をいくつも並べた。


「目印だから、見て分かるものがいい。……光だな」


「誘導系は……まあ、悪臭ですよね」


自分で言って、少し笑いそうになる。

やることは、案外シンプルだ。



まずは、目印から。


掌に石をひとつ乗せる。


「《ライト+ストーン》……っと」


石と光りの2つの細い魔力線を、1本に流す。


ふっと現れた掌の石が、淡く光り始めた。


「……よし」


そのまま机の端に置く。

二つ目、三つ目。

どれも同じように、やわらかい光を灯した。


暗い森でも、ライン上に並べれば目立ちそうだ。


次は、誘導の方。


「《悪臭+ストーン》」


言葉にしたくない呪文だ。


今度は嫌なにおいと石の細い魔力線を

一本にして押し込んでいく。


石が現れた瞬間、においが広がった。


「っ……!」


思わず一歩下がる。

……これは、想像以上にやばい。


窓を開けようとしたところで、

廊下からディランの声がした。


「おーい、アレンいるかー?」


タイミングが……いい?


「ここです。入っていいですよー」


扉が開いて、ディランが顔を出した瞬間、

鼻をひくつかせた。


「……なんか、変なにおいしね?」


「実験中です」


俺は机の上の石を指さした。


「悪臭石、作ってみたんです。

 敵に不快な方向を作る用の」


ディランの目が輝いた。


「くっさい石!? いいじゃんそれ!

 さっそく一個作ってくれよ」


「ここでやると被害が出るので――」


「でもさ、ちょっと嗅いでみたいだろ。

 どれくらいヤバいんだ?」


言い終わる前に、

俺は新しい石を手のひらに出していた。


「あ、じゃあ、そっち投げますね」


「は? ちょ、おま、待っ――」


《悪臭+ストーン》


そのままディランの足元へ。


ぽいっと投げる。

コロン、と転がる。


「アレン、お前ふざけんなよ――」


一拍置いて。

ディランが鼻を押さえて飛び退いた。


「っぐああっ!? 臭えじゃねえか!!」


俺も窓を全開にしながら、


「どうですか? 魔物になった気分は」


「魔物じゃねえし!

 ただこれはやべえ、やべえぞ〜、マジで……」


廊下の向こうから足音が近づく。


そっと顔を出したフィオナが、

一瞬で顔をしかめた。


「……ディラン、くさい。近づくな」


「お、おいフィオナ、お前までそんな……!」


「本当に、くさい」


ディランが膝から崩れ落ちた。


悪いけど、笑いをこらえる方が大変だ。


「効き目は十分みたいですね」


「十分どころじゃねえよ……

 これ、敵も泣くぞ、絶対」


「そうなってほしいんですよ」


においを外に逃がしていると


「次の依頼で試すか」


背後からガイルの声がした。

いつのまにか扉のところに立っていて、腕を組んでいる。


「落とし穴は一つか二つ。

 光り石はその前後に並べる。

 悪臭石は、アレンが敵の動きを見て投げ込む。

 それで様子を見る」


セラが鼻を押さえながら頷く。


「さっきの感じなら、敵の方向づけには十分ね。

 ただ、こっちに投げたら許さないから」


「気をつけます」


ディランがまだ「くさい……」とうなだれているのを見て、

フィオナが小さくため息をついた。


「今ので、使い方分かった。

 ……次は、ちゃんと敵に投げて」


「そ、そうだぞ……

 二度と俺の足元にはいらねえ……」


部屋の中には、まだうっすらと悪臭が残っている。


窓の外へ追い出しながら、

俺は石を一つ、指先で転がした。


これで、だいぶ流れをいじれそうだ。


細かい点は、たぶんやりながら見えてくる。

そのときは、そのときだ。


「次のクエスト、ちょっと楽しみですね」


そう言った俺に、ディランが涙目で叫んだ。


「楽しみとか言う前に、このにおいどうにかしろや!!」

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