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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第20話 三つの統合

《浄化+ヒール+ウオーター》。


三つを並べて考える。


《ウオーター》は、きれいな水。

《ヒール》は、傷と疲れをちょっと戻す。

《浄化》は、汚れとだるさを軽く流す。


それぞれは、もう何度も使ってきた。

だからこそ、それをまとめたときの姿も、少しずつ見えてくる。


三つを、無理に混ぜるんじゃない。

役割を壊さず、そのまま水の中に収める。


そうできたら。

スキン・トリニティの「飲むだけ版」と「塗るだけ版」。

どちらも、ちゃんと成立するはずだ。


イメージは、かなりはっきりしてきていた。



まずは、普及版。


毎日使える、美容ドリンク。

飲んだ瞬間に何かが起きるようなものじゃない。

体の内側を少し整えて、ほんのり楽になるくらいでいい。


ヒールポーションほど強くなくて、

財布にも、体にも、優しいやつ。


ベースは《ウオーター》。

そこに、《浄化》と《ヒール》を控えめに足す。


頭の中で、配分を組む。


《ウオーター》7。

《浄化》2。

《ヒール》1。


この比率で、三つの魔法を同時に引き出す。

統合線を二本。

それを《重ね掛け》で束ねて、一つにする。


同じ性質の線を並べて、太くする。

今まで何度もやってきた、あの感覚だ。


同じ味の水を、ほんの少しだけ濃くする。

そんなイメージ。


今回は、効き目よりも、飲み心地と持ちを優先する。


普及版は、それでいい。



次は、高級版。


こちらは、毎日使うものじゃない。

たまにだけ使う、美容寄りのごほうび。


水よりも、《浄化》と《ヒール》を前に出したほうがいい。

そう判断して、比率を入れ替える。


《ウオーター》四。

《浄化》三。

《ヒール》三。


水は少なめ。

浄化と回復が、はっきり主張する配合だ。


これをそのまま飲むと、たぶん重い。

体が受け取るには、少し情報量が多すぎる。


だから、塗る。

飲めなくはないが、基本は一滴ずつ、手に取ってなじませる。


顔や、気になるところに使う。

魔法版の美容液。

そんな立ち位置だ。



配合を決めて、実際に魔力を流す。


まずは、普及版。


《美容ドリンク》


掌に生まれた水は、見た目だけなら、ただの水だ。


一口飲む。


喉がすっとして、

胃のあたりが、わずかに軽くなる。


即効性はない。

けれど、確実に、体の内側が整う感触がある。


これは、日常向きだ。

この方向で、間違っていない。


次は、高級版。


《浄化》と《ヒール》を多めにした配合。


《高級美容水》


一滴、指に取って、手の甲になじませる。


「……おお」


触れた瞬間に、違いが分かった。

肌が、きゅっと応える。


試しに飲んでみると、

効きは強いが、毎日使うには重い。


やはり、これは塗る用だ。


肌にのせたときの、ぷりっとした弾力。

そこから、じわっと抜けていく軽さ。


普及版とは、はっきり別物だった。



途中で、一度だけ失敗もした。


《浄化》を多くしすぎた配合。


見た目も匂いも問題ない。

けれど、舐めた瞬間、違和感が走る。


舌は妙にすっきりするのに、

喉の奥が、ひりつくような感覚が残る。


これはだめだ。


浄化が強すぎると、

余計なものだけじゃなく、必要なものまで持っていく。


大事なのは、量じゃない。

組み合わせと、バランス。


高級版は、《浄化》を少し落とした。


強さで差をつけるんじゃない。

調整で、質を変える。


それが、今回の教訓だった。



配合が固まったところで、

次は日持ちテストだ。


重ね掛けした水をポーション瓶に詰め、

そのまま放置して様子を見る。


――三日、もった。


普及版は、三日後でもちゃんと「ちょっといい水」だ。

高級版も、塗り心地がわずかに落ちる程度で、

ただの水には戻っていない。


街売りなら、十分すぎる性能だ。


「翌日には水に戻る、はもう卒業だな」


そう呟いて、少しだけ笑った。


役割も、自然と整理できた。


普及版は、毎日のちょっといい美容ドリンク。

高級版は、特別な日の、顔に塗るごほうび。

今までのヒール水は、森帰りのだるさ取り用の実用品。


三つが、きれいに棲み分けできた。




数日後。


屋敷でもギルドでも、

いつの間にか、みんな使い分けが当たり前になっていた。


ミーナは楽しそうに小瓶を選び、

リナは常連相手に手際よく勧め、

カレンはもう、売り方まで組み上げている。


施術の回数は、はっきり減った。

それなのに、売上はむしろ伸びている。


瓶に詰めた商品が、

俺の代わりに、ちゃんと働いてくれていた。



時間は、前よりずっと取れるようになった。


人を支えるのは、思っていた以上に楽しい。

誰かが楽になるのを見るのも、嫌いじゃない。

気持ちも余裕ができていた。


――だからこそ。


そろそろ、戦いの場にも、ちゃんと関わってみたくなった。


罠。

泥。

組み合わせ魔法。

頭の中で、いくつかのアイデアがある。


次の休み。

俺はギルドの掲示板の前に立って、

小型魔物の間引きクエストを探していた。

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