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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第18話 浄化美容三術

《浄化》を覚えてから、何日かたった。


気分のリセット。

頭の奥に溜まっていたものが、定期的に洗い流されている感覚。

それだけでも、前よりずっと暮らしやすい。


……でも。


イリスの表情。

ミーナのほっぺ。

リナの顔色。


「調子がいい」だけじゃ説明できない変化が、確かにある。


ふと、前の世界で見たスキンケアの工程が、断片的に浮かんだ。


《浄化》を、

気分じゃなく――肌そのものに使ったら?


頭の中で、流れを組み立てる。


温めて、ゆるめる。

浮いた汚れを取る。

傷んだところを、少し戻す。

最後に、全体を整える。


……これ、ちゃんとした「工程」になる。


いけるか?


胸の奥が、少しだけ熱を持った。



夕方の自室。

窓から差し込む光が、ゆっくり橙に沈んでいく。


机の上には、水を張った小さなボウルと、清潔な布。


まずは、《ミスト+ウオーム》。


温かい霧が、手のひらから立ちのぼる。

風呂のふたを開けた瞬間の、あの安心感。


「表面を、ゆるめる」


次。


《浄化+アース》。

泥に《浄化》を薄く混ぜる。


「汚れを絡め取って、必要なものは残す……」


……もっちり、だな。


2つ目、《浄化+ヒール》。


削るだけじゃ足りない。

戻す工程が必要だ。


「全部直すんじゃない。

 元気だった頃を思い出させる感じで……」


魔力が、ぴたりと噛み合う。


こっちは、ぷるん。


最後に、《浄化+ライト》。


「照らすためじゃない。均すための光」


角度を変えると、

肌の上に、うっすらと艶が乗った。


……ツヤツヤ、だな。



下準備の《ホットスチーム》。


《浄化+アース》。

《浄化+ヒール》。

《浄化+ライト》。


この三つで――


浄化美容三術スキン・トリニティ


……ノリだが、

言葉にした瞬間、胸の奥で「カチッ」と何かがはまった。


できた。

これは、ちゃんと形になった。



翌日。屋敷で試す。


「ミーナ。ちょっと、顔かりてもいい?」


「……その言い方、ちょっと不安です」


「大丈夫。ちゃんと手応えはある」


少し考えてから、


「……やります」



風呂場の隣の小さな脱衣所。

椅子に座らせ、タオルで髪と服を守る。


「まずは《ホットスチーム》」


ふわりと、あたたかい霧がミーナの顔を包む。


「わ……これ好きです。

 お風呂のふた開けたときの匂い」


「熱くない?」


「気持ちよくて、寝そうです……」


顔全体をゆっくり温め、十分ほどで次へ。


「次は《浄化+アース》。泥パック」


薄く、額、頬、鼻、あごへ。


「ひゃっ……」


「冷たかった?」


「びっくりしたけど、気持ちいいです」


しばらくして、そっとはがす。


ぺり。


ミーナが膜を光に透かして見て、

指で自分の頬を押す。


「……あ」


「どう?」


「戻ります。ちゃんと」


その一言で、胸の奥が熱くなる。


もっちり、恐るべし。


「よし、泥パック終了」


「これ、絶対お金取るやつですよね!」



ギルドではリナ。


「《美容ヒール》、試してみる?」


「なにその甘い誘い方……やる」


《ホットスチーム》で前準備。


「これだけで金取れるわ」


続いて《浄化+ヒール》。


おでこ、頬、目の下を軽くなぞる。


「はい。終了。《美容ヒール》」


「ネーミングだけは一流ね」


軽口を叩いたリナが、鏡を見て無言になる。


「……なにこれ」


頬を指でつまみ、戻りを確かめる。


「若いときの肌みたい」


「徹夜明けなのに顔色いいわね」


ぷるんの威力は想像以上だ。


「これはね……ちゃんとお金払う」



最後はカレン。


「浄化美容? やる」


即着席。


「今日は《美顔ライト》だけ」


《ホットスチーム》のあと、《浄化+ライト》。


「はい、どうぞ」


鏡を見るカレンが、すぐにうなずく。


「肌のトーン上がってる。

 なのに、テカってない」


はい、これがツヤツヤです。


「疲れはあるのに、疲れて見えないわ」


「光の当たり方、整えただけです」


「仕事終わりに一回挟めば、

 そのまま客先行ける顔ね」


三人目がそう言ったとき、確信した。


――これは、技だ。


その日のうちに、浄化美容を一通り試した。


みんな、鏡を見たあと必ず一拍、黙る。


その反応だけで、十分だった。


そんな空気の中で、

カレンが、いつもの調子で言った。


「アレンくん。

 これ、裏メニューで終わらせるには、惜しいわね」


「……そんなに?」



数日後。


ギルドの一角。

《風切りの牙》の女性陣が揃っていた。


なぜか、俺は正座。


正面に、腕を組んだ三人。


イリス。

フィオナ。

セラ。


全員、そろって不機嫌そうだ。


「アレンくん」


イリスが、にこやかに圧をかける。


「《浄化》を教えたの、誰でしたっけ?」


「……イリスさんです」


「ですよね?

 なのに、美容の新しい使い方を最初に試したの、

 ミーナちゃんとリナさんとカレンさん」


笑顔の圧が、じわじわ強くなる。


「普通、教えてくれた人からじゃないですか?」


ぐうの音も出ない。


フィオナも、じっとこちらを見る。


「アレン。

 私が、冒険者一の美容ツウなの、知らない?」


「え、そうなんですか」


つい素で返した。


「知らなかったのは罪。

 でも教えなかった私も悪い。

 だから、その分、たっぷり試させて」


前髪を払う仕草が、本気だ。


そして最後は、セラ。


「これは、さすがに私も言わせてもらうわ」


眼鏡を直し、静かに続ける。


「反則級の贅沢病体験をさせた人間に、

 一言の相談もなく勝手に浄化美容を始めるなんて」


「…………」


「理論と見せ方、

 そこを飛ばして進めるのは感心しないわね」


完全に包囲されていた。


三人とも口調は穏やかだが、腕は組んだまま。


「というわけで」


イリスが指を立てる。


「次の試作品は、

 まず私たち三人に、順番に」


「肌と髪と、動き。全部見る」


フィオナが淡々と足す。


「理論とメニュー構成は、あとで整理しましょう。

 商品にする前提で」


セラが締めた。


……まあ、こうなる。


この三人に相談せず突っ走った、俺のミスだ。


「わかりました。

 次からは、ちゃんとお願いします」


そう言うと、

三人の腕組みが、ようやく解けた。


その日、肩をすくめながらも、

どこか楽しい気分のまま家路についた。

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