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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第16話 重ねがけの発見

《ヒール水》と《泥クッション》の話が、じわじわ広がり始めた。


ギルドの掲示板の端に、

小さな紙が一枚、貼られている。


> 《アレン印ヒール水》 一杯5銅貨

> 《泥クッション加工》 荷車一台ぶん10銅貨〜


リナが書いてくれた、簡易メニューだ。


最初は、

「面白そうだから一回飲んでみるか」

くらいの軽いノリだったのが――


気づけば、昼前や夕方になると、

カウンターの横に、ちょっとした列ができるようになっていた。


行列のできる繁盛店って、こんな感じなんだろうな。


少しだけ、くすぐったい気分になる。



「ねえ、アレンくん」


その日の午後。

カウンター越しで、リナが少し声をひそめた。


「《ヒール水》、ちょっとクレームが出ているの」


「えっ」


「昨日持ち帰って、朝に飲んだら、ほとんど効かなかったって。

 『その場で飲めばよかった』って言われちゃってさ」


それは……ごもっともだ。



ちょうどその頃、カレンが街に来ていた。


ギルド奥の小部屋。

三人でテーブルを囲む。


「その場で使う分には、どっちも評判いいわ」


カレンが指を鳴らす。


「《ヒール水》は『甘くてちょっと楽になる』。

 《泥クッション》は『荷車が安心』」


リナが小さくため息をつく。


「でもね、旅には足りない」


「三日くらい、もてば違うわよね」


カレンがうなずいた。


「商隊なら、そこが一つの目安だもの」


三日か。


そんなことを考えていたら、

リナが《ヒール水》の入ってカップを、

指でとんとんとつついた。


「ねえ。これさ」


「はい」


「最初からもう少し濃かったらよくない?」


「今ってさ、

 『ちょっと甘い水に元気が乗ってる』くらいでしょ?」


「それが、ちゃんと甘い飲み物って感じだったら、

 次の日でも、がっかりしないかなって」


リナは、言葉を探しながら続ける。


「最初から二回ぶん、仕込んでおくとかさ」


そこで、カレンが小さく息を吸った。


「それそれ、いいかも」


……あ


頭の中で、カチッと音がした気がした。


最初からもう一組、同じものを並べて流せば――


「……やってみます」



胸に意識を向ける。


《ウオーター》と《ヒール》、二本の細い線を合わせ、

いつもの《ヒール水》を作る。


そこへ、もう一組――

同じものを並べて、ぴたりと重ねる。


《重ね掛けヒール水》


手のひらへ流すと、カップに水が満ちていく。

見た目は変わらない。

でも、胸の奥の消耗が、明らかに二回ぶんだった。


「どう?」


「味、見てください」


リナが一口飲んで、目を見開く。


「……甘い。さっきと、ぜんぜん違う」


カレンも確かめて、うなずいた。


「二回ぶん、ちゃんと入ってる」


「アレンくんにしかできない芸当だね」


その言葉に、胸の奥が少しあたたかくなる。


あとは――どれくらい、もつか。


通常の《ヒール水》。

《重ね掛けヒール水》。

さらにそれを、ポーション容器へ入れたもの。


「一週間後に比べましょ」


「はい」


不安と期待が、半分ずつだった。



一週間後。

三人で、また小部屋に集まった。


カレンが瓶の封を切り、香りを確かめる。


「ポーション容器、成功ね。

 未開封なら一週間。」


「《重ね掛け》のほうが、少し長く持ちますね」


想像以上だった。


今日の一杯が、

数日ぶんの「持ち歩き」になる。



「じゃ、決まりね」


カレンが机を軽く叩く。


「その場で飲むのは今までどおり。

 持ち歩き用は、《重ね掛けヒール水》を瓶詰め」


リナも、すぐにうなずく。


「メニュー、書き直さなきゃ」


【アレン印ヒール水】

・その場用:《ヒール水》

・携帯用:《重ね掛けヒール水》(未開封一週間/開封後三日)


「これなら文句も減りそうですね」


「そう。使い方まで決めてあげるのが、お店の仕事」


カレンが、にっと笑った。



「《泥クッション》も同じでいけるわ」


「《重ね掛け泥クッション》ですね」


「長距離商隊向け、って感じね」


リナが楽しそうに言う。


悪くない。


同じ魔力を重ねるだけ。

これなら俺にもできる――

いや、たぶん、俺にしかできない。


メニューを書き直すリナの横顔を見ながら、

新しく覚えた「重ね掛け」という技を、

少しだけ誇らしく思った。

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