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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
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第13話 荷物持ちちゃん候補

案内されたのは、板張りの小さな広間だった。

中には、軽く体をほぐしている冒険者が五人。


剣。

槍。

ローブと杖。

軽装で短剣。

同じくローブ姿のヒーラー。


全員、俺よりずっと大きい。

鎧の傷や、日に焼けた肌が、いかにも「本物」だ。


胸の鼓動が、少しだけ早くなる。


これが、パーティというやつか。



「紹介する。Dランクパーティ、《風切りの牙》だ」


バルドが一歩前に出る。


「リーダーのガイル」


片手で剣の柄に手をかけていた男が、軽く顎を引いた。


二十代後半くらい。

背が高く、肩幅も広い。

顔つきは怖いが、目だけは周囲をよく見ている。


「……そいつが、荷物持ちってやつか」


低く、短い声。


「はい。オレ、アレンです」


思わず背筋が伸びた。


呼び方はともかく、反応は想定内だ。


「槍使いのディラン」


明るい茶髪の男が、ひらひらと手を振る。


「やあやあ、ちっこいの。よろしくな?」


とにかく軽い。

だが、腰の槍は、ちゃんと使い込まれている。


「魔法使いのセラ」


眼鏡の女性が一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。


「セラです。よろしくね、アレンくん」


落ち着いた声で、距離感もほどよい。


「斥候のフィオナ、ヒーラーのイリス」


小柄で無口そうな女性と、

柔らかい雰囲気の女性が、順に会釈する。


「……フィオナ」


「イリスです。よろしくお願いします、アレンくん」


イリスの声は少し甘く、耳に残る。


フィオナは俺を一度見てから、

ガイルにちらりと視線を送った。


「子ども、連れて行くの?」


小さな声だったが、はっきり聞こえた。


もっともな疑問だ。



「で、だ」


バルドが、俺の背中を軽く押す。


「お前ら、前に言ってただろ。

 荷物持ちがもう一人いれば、遠征が楽になるって」


ガイルが、わずかに眉を動かす。


「……ああ。

 だが、まともに運べる奴じゃなきゃ、足手まといだ」


「そこで、こいつだ」


バルドが親指で俺を示す。


「さっき倉庫で、鉱石箱を一人で動かした。

 ちょっと変わったやり方だがな」


ディランが、半眼で俺を見る。


「あの箱を、持ち上げたって話は本当か?」


「持ち上げてはいない」


バルドが、にやりと笑う。


「土を使って、滑らせた。

 詳しくは、本人にやらせりゃいい」


「……へえ」


セラが興味深そうに眼鏡を押し上げた。


フィオナは、まだ警戒を解かない。


「子どもを前に出すの、反対」


はっきりとした口調だった。


ガイルは、俺を頭の先から足元まで、じっと見つめる。


「まずは、何ができるか見せてもらう。

 判断は、それからだ」


「……うん」


喉が、少しだけ渇く。


だが、ここで引くわけにはいかない。



「ええと……」


一度深呼吸してから、一歩前に出る。


「オレ、アレンです。

 まだ、しょきゅうのまほうしかつかえません。

 でも、にもつは、こうやってはこべます」


倉庫にあった木箱と土板を2枚用意してもらう。


《アース》と《スコーチ》で作った、焼き固めた土の板。

底は、ほんの少しだけなめらかに仕上げてある。


改良したばかりの、まだ試作段階のものだ。


板を床に置き、

箱の片側を少しだけ持ち上げて、1枚を下に板の端を差し込む。


ぐい、と押し込み、

箱の底の半分ほどを板の上に乗せる。


反対側にももう1枚を同じように差し込み、

最終的に、箱の底全体を板の上に乗せた。


床と板の間に、わずかな隙間ができる。


「こんなふうに、いたのうえにのせてから――」


箱の背に両手を当て、押す。


じり。

じりじり。


床の上を直接引きずったときより、

明らかに軽い。


「つちのうえだと、レーンにどろをまくのでもっとらくになります。

 ここはいたばりなので、さはちいさいですけど……」


「荷車が入りにくい場所や、段差では使える、ってことか」


ガイルが、土板の端を指で軽く叩く。


硬い音が返る。


「でも、森だと」


フィオナが、板と箱を見たまま言った。


「石や根で引っかかる。

 荷物、ひっくり返る」


「はい。

 そこは、そこをけずったり、ふちのかたちをかえたりして、

 もうすこしためすがあります」


素直に答える。


「いまは、くふうすれば、そこそこはこべる、というだんかいです」


ディランが鼻を鳴らした。


「そこそこ、ねえ。

 まあ、ガキの仕事にしちゃ、悪くねえ」


「少なくとも、考えて動くやつだ」


ガイルが短くまとめる。


「実戦で、ただの荷物になる奴はいらん」



「それと、もう一つ」


今度は、小さな木のカップを一つ用意してもらった。

中は空だ。


「これは、のむヒールです」


そう言ってから、カップの上に手をかざす。


胸の奥に意識を向ける。


水の感覚。

回復の、あたたかい感触。


二つを、最初から一つの流れとしてまとめる。


「《ヒール水》」


カップの中に、透明な水が注がれる。


見た目は、ただの水。

だが、流れは安定している。


「あとからヒールをかけたみずじゃありません。

 さいしょから、すこしかいふくするみずとしてだしてます」


「単発と、どう違うの?」


セラがすぐに聞く。


「これは、さいしょからぜんぶおなじみずなので、  

 すこしずつですけど、ぜんぶのひとくちに、  

 おなじくらいのかいふくがはいってます」


「状態として、安定させてるのね」


セラが、納得したようにうなずく。



「味は?」


ディランが、さっとカップを取った。


止める前に、一気に飲む。


「……あれ?」


目を瞬かせる。


「水だけど、ちょっと甘いな」


「回復の影響で、自然な甘みが出ます」


「変な飲み物だな」


そう言いながら、肩を回す。


「さっきより、軽い気がする。

 気のせいじゃねえな」


イリスが、カップを覗き込む。


「最初から混ざっているから、

 どこを飲んでも同じ……」


「はい。

 少しずつですけど」


「面白いですね」


そう言われて、少し照れた。



実演が終わり、

広間の空気が、わずかに和らいだ。


「……なるほどな」


ガイルが言う。


「前線で敵と殴り合う戦力じゃねえ。  

 だが、工夫はしている。

 荷物と、水」


指を折りながら整理する。


「森で使えるかは、連れて行ってみないと分からん」


俺を見る。


「前線には出さない。

 荷物持ちと、飲み水係だ」


「それで、ちゃんと運べるなら

 飯袋一つ分以上の価値はある」


ディランが俺の頭をぽんと叩く。


「よし。荷物持ちちゃん候補、な」


「こうほ、なんですか」


「実戦で運べたら昇格だ」


「そのしょうかく、ちょっとびみょう

です」


「贅沢言うな」


フィオナが、短く言う。


「邪魔になるなら、すぐ引き返す。

 それが条件」


「……うん」


ちゃんと、うなずく。


イリスだけが、柔らかく笑った。


「私は、少し楽しみです。

 森で、どう役立つのか」



本気の冒険者たちが、

試してみる価値はあると言ってくれた。


それだけで、十分だった。


未完成の土板一枚と、

少し甘い水一杯。


それでも、ちゃんと受け取ってくれる。


初級しかない、じゃない。

初級だからこそ、使い方はいくらでもある。


《風切りの牙》の、後ろの荷物持ちちゃん候補から。

ここから、始めよう。


そう決めて、俺はもう一度、パーティの面々を見渡した。



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