第13話 荷物持ちちゃん候補
案内されたのは、板張りの小さな広間だった。
中には、軽く体をほぐしている冒険者が五人。
剣。
槍。
ローブと杖。
軽装で短剣。
同じくローブ姿のヒーラー。
全員、俺よりずっと大きい。
鎧の傷や、日に焼けた肌が、いかにも「本物」だ。
胸の鼓動が、少しだけ早くなる。
これが、パーティというやつか。
◇
「紹介する。Dランクパーティ、《風切りの牙》だ」
バルドが一歩前に出る。
「リーダーのガイル」
片手で剣の柄に手をかけていた男が、軽く顎を引いた。
二十代後半くらい。
背が高く、肩幅も広い。
顔つきは怖いが、目だけは周囲をよく見ている。
「……そいつが、荷物持ちってやつか」
低く、短い声。
「はい。オレ、アレンです」
思わず背筋が伸びた。
呼び方はともかく、反応は想定内だ。
「槍使いのディラン」
明るい茶髪の男が、ひらひらと手を振る。
「やあやあ、ちっこいの。よろしくな?」
とにかく軽い。
だが、腰の槍は、ちゃんと使い込まれている。
「魔法使いのセラ」
眼鏡の女性が一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。
「セラです。よろしくね、アレンくん」
落ち着いた声で、距離感もほどよい。
「斥候のフィオナ、ヒーラーのイリス」
小柄で無口そうな女性と、
柔らかい雰囲気の女性が、順に会釈する。
「……フィオナ」
「イリスです。よろしくお願いします、アレンくん」
イリスの声は少し甘く、耳に残る。
フィオナは俺を一度見てから、
ガイルにちらりと視線を送った。
「子ども、連れて行くの?」
小さな声だったが、はっきり聞こえた。
もっともな疑問だ。
◇
「で、だ」
バルドが、俺の背中を軽く押す。
「お前ら、前に言ってただろ。
荷物持ちがもう一人いれば、遠征が楽になるって」
ガイルが、わずかに眉を動かす。
「……ああ。
だが、まともに運べる奴じゃなきゃ、足手まといだ」
「そこで、こいつだ」
バルドが親指で俺を示す。
「さっき倉庫で、鉱石箱を一人で動かした。
ちょっと変わったやり方だがな」
ディランが、半眼で俺を見る。
「あの箱を、持ち上げたって話は本当か?」
「持ち上げてはいない」
バルドが、にやりと笑う。
「土を使って、滑らせた。
詳しくは、本人にやらせりゃいい」
「……へえ」
セラが興味深そうに眼鏡を押し上げた。
フィオナは、まだ警戒を解かない。
「子どもを前に出すの、反対」
はっきりとした口調だった。
ガイルは、俺を頭の先から足元まで、じっと見つめる。
「まずは、何ができるか見せてもらう。
判断は、それからだ」
「……うん」
喉が、少しだけ渇く。
だが、ここで引くわけにはいかない。
◇
「ええと……」
一度深呼吸してから、一歩前に出る。
「オレ、アレンです。
まだ、しょきゅうのまほうしかつかえません。
でも、にもつは、こうやってはこべます」
倉庫にあった木箱と土板を2枚用意してもらう。
《アース》と《スコーチ》で作った、焼き固めた土の板。
底は、ほんの少しだけなめらかに仕上げてある。
改良したばかりの、まだ試作段階のものだ。
板を床に置き、
箱の片側を少しだけ持ち上げて、1枚を下に板の端を差し込む。
ぐい、と押し込み、
箱の底の半分ほどを板の上に乗せる。
反対側にももう1枚を同じように差し込み、
最終的に、箱の底全体を板の上に乗せた。
床と板の間に、わずかな隙間ができる。
「こんなふうに、いたのうえにのせてから――」
箱の背に両手を当て、押す。
じり。
じりじり。
床の上を直接引きずったときより、
明らかに軽い。
「つちのうえだと、レーンにどろをまくのでもっとらくになります。
ここはいたばりなので、さはちいさいですけど……」
「荷車が入りにくい場所や、段差では使える、ってことか」
ガイルが、土板の端を指で軽く叩く。
硬い音が返る。
「でも、森だと」
フィオナが、板と箱を見たまま言った。
「石や根で引っかかる。
荷物、ひっくり返る」
「はい。
そこは、そこをけずったり、ふちのかたちをかえたりして、
もうすこしためすがあります」
素直に答える。
「いまは、くふうすれば、そこそこはこべる、というだんかいです」
ディランが鼻を鳴らした。
「そこそこ、ねえ。
まあ、ガキの仕事にしちゃ、悪くねえ」
「少なくとも、考えて動くやつだ」
ガイルが短くまとめる。
「実戦で、ただの荷物になる奴はいらん」
◇
「それと、もう一つ」
今度は、小さな木のカップを一つ用意してもらった。
中は空だ。
「これは、のむヒールです」
そう言ってから、カップの上に手をかざす。
胸の奥に意識を向ける。
水の感覚。
回復の、あたたかい感触。
二つを、最初から一つの流れとしてまとめる。
「《ヒール水》」
カップの中に、透明な水が注がれる。
見た目は、ただの水。
だが、流れは安定している。
「あとからヒールをかけたみずじゃありません。
さいしょから、すこしかいふくするみずとしてだしてます」
「単発と、どう違うの?」
セラがすぐに聞く。
「これは、さいしょからぜんぶおなじみずなので、
すこしずつですけど、ぜんぶのひとくちに、
おなじくらいのかいふくがはいってます」
「状態として、安定させてるのね」
セラが、納得したようにうなずく。
◇
「味は?」
ディランが、さっとカップを取った。
止める前に、一気に飲む。
「……あれ?」
目を瞬かせる。
「水だけど、ちょっと甘いな」
「回復の影響で、自然な甘みが出ます」
「変な飲み物だな」
そう言いながら、肩を回す。
「さっきより、軽い気がする。
気のせいじゃねえな」
イリスが、カップを覗き込む。
「最初から混ざっているから、
どこを飲んでも同じ……」
「はい。
少しずつですけど」
「面白いですね」
そう言われて、少し照れた。
◇
実演が終わり、
広間の空気が、わずかに和らいだ。
「……なるほどな」
ガイルが言う。
「前線で敵と殴り合う戦力じゃねえ。
だが、工夫はしている。
荷物と、水」
指を折りながら整理する。
「森で使えるかは、連れて行ってみないと分からん」
俺を見る。
「前線には出さない。
荷物持ちと、飲み水係だ」
「それで、ちゃんと運べるなら
飯袋一つ分以上の価値はある」
ディランが俺の頭をぽんと叩く。
「よし。荷物持ちちゃん候補、な」
「こうほ、なんですか」
「実戦で運べたら昇格だ」
「そのしょうかく、ちょっとびみょう
です」
「贅沢言うな」
フィオナが、短く言う。
「邪魔になるなら、すぐ引き返す。
それが条件」
「……うん」
ちゃんと、うなずく。
イリスだけが、柔らかく笑った。
「私は、少し楽しみです。
森で、どう役立つのか」
◇
本気の冒険者たちが、
試してみる価値はあると言ってくれた。
それだけで、十分だった。
未完成の土板一枚と、
少し甘い水一杯。
それでも、ちゃんと受け取ってくれる。
初級しかない、じゃない。
初級だからこそ、使い方はいくらでもある。
《風切りの牙》の、後ろの荷物持ちちゃん候補から。
ここから、始めよう。
そう決めて、俺はもう一度、パーティの面々を見渡した。




