表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
11/81

第11話 ギルドへ  

俺の「ぼうけんしゃになる」宣言は――

家族の中で、だいたいこんな扱いになっていた。


「かわいいこと言うわねえ」

「そのうち騎士になるとかも言い出しそうだな」

「まずは字と体力だよね」


つまり、子どもの夢。


本気で止めるほどでもないし、

本気で叶うとも思われていない。


辺境とはいえ、領主家の次男だ。

普通に考えれば、五歳前に一人でギルドに行こうとするなんて、誰も思わない。


だから、誰も「本気で止める準備」をしていなかった。



その日も、昼下がりまではいつもどおりだった。


午前中は、オットーの授業。

午後は、ルークとの軽い体力づくり。


廊下の端から端まで、何往復も走らされる。


「はー、はー……」


「まだいけるよね。

 冒険者になりたいんだろ?」


「……うん」


足はがくがくだけど、嫌じゃない。

ルークは、最後にちゃんと褒めてくれる。


「よし。

 今日はここまでにしといてあげる」


頭をぽん、と叩かれて解散になる。


「アレン、あまり一人で遠くに行かないようにね」


「わかってる〜」


口ではそう答えた。


けれど、胸の奥が、少しだけむずむずしていた。


一人で遠くに行かないように。

つまり、行けるところまでなら、自分で行ってもいいということだ。


誰も「ギルドに一人で行くな」とは言っていない。

言う必要があるとも、思っていない。


まさか本当に行くとは、誰も思っていないからだ。



屋敷の裏口。

荷物搬入口から、こっそり外に出る。


見張りの兵に、軽く手を振った。


「ちょっと、にわ、みてくる」


「坊ちゃま。あまり遠くに行かれませんように」


兵士は、疑いもせずに頷いた。


今日は、少しだけ遠くまで行く。

心の中で、そっと謝る。


街までは、馬車ならすぐ。

子どもの足だと、それなりに距離がある。


でも、屋敷と街をつなぐ道はよく整備されていて、

日中は人の往来も多い。


道から外れなければ、大丈夫なはずだ。


《ウインド》で汗を飛ばしながら、

俺は、とことこ歩き始めた。



途中で、荷車とすれ違った。


「おや、アレン坊ちゃまじゃないですか」


屋敷に品を運んでくる、見覚えのある御者だ。


「こんなところで、どうされました?」


「……まちまで、あるく。

 たいりょくづくり」


堂々と言ってみる。


「いやまあ、間違ってはおりませんが……」


男は苦笑して、少し考えたあと、


「途中まで乗っていかれますか?

 旦那様には“道で会ったのでお送りしました”と言えば、怒られませんし」


そう言ってくれた。


ありがたい。


「のる。

 でも、なかまでも、あるいてたって、いって」


「さっきまでしっかり歩いてましたと?」


「うん、それ」


「承知しました」


そんな風に、妙に大人びたやり取りをしつつ、

俺は荷車の端にちょこんと乗せてもらった。



街の門の前で降ろしてもらい、

そこからは再び徒歩だ。


門番の兵士に挨拶して、街の中へ入る。


人通り。

店の呼び声。

屋台から漂う匂い。


馬車の中から眺めたことは何度もある。

けれど、自分の足で歩くと、全部が少し違って見えた。


この前は、父と一緒だった。

今日は、一人だ。


一人で、

自分の足で、

ギルドの前まで行く。


それだけで、胸の奥が少し高鳴る。

これだけで、もう小さな冒険みたいなものだった。



ギルドの建物は、前に見たときと変わらず、街の中心近くにあった。


重そうな扉。

中から漏れてくる、がやがやした音。


一度、息を整える。


そして、小さな手で扉を押した。


ぎい、と音がして扉が開く。


中に足を踏み入れた瞬間、

前と同じ匂いが鼻を突いた。


酒と汗と鉄と紙。

混ざり合った、働く場所の匂い。


剣を腰に下げた男。

杖を持った女。

大きな盾を背負った中年の冒険者。


本やゲームの中で見てきた光景が、

今は目の前で、当たり前のように動いている。



カウンターの前まで行く。


昼どきだからか、列はそれほど長くない。


背伸びをして、台の上を覗き込む。


「すみませーん。

 あら、アレン坊ちゃま?」


受付にいたのは、見覚えのある女性だった。

父に連れられて来たとき、何度か顔を合わせている。


「りなおねーさん」


「覚えててくれたのですか? 嬉しいわ」


リナ・ハーヴィス。

この街の冒険者ギルドの受付嬢だ。


「今日は、お父様とは別行動ですか?」


「うん。

 ひとりで、きた」


その瞬間、リナの眉がわずかに動いた。


「……そう、ですか。

 護衛の方はいらっしゃいます?」


「ない」


言い切った。


リナの目が、少しだけ見開かれる。


「ええと、アレン坊ちゃま。

 ここ、ギルドですよ?」


「しってる。

 ぼうけんしゃの、とこ」


「そうなんですけど……」


リナは、軽く額を押さえた。



それでも、きちんと話を聞いてくれる。


「それで、今日はどうされたのですか?」


「ボク、ぼうけんしゃに、なりたい」


正面から告げた。


「将来、という意味ですよね?」


「いまも。

 しょうらいも」


「……なるほど」


リナの表情が、困ったようにやわらぐ。


「さすがに、今すぐ正式な冒険者登録はできません」


「なんで?」


「年齢と、体格と、ほかにもいろいろです」


いろいろ、という言葉が便利に使われた。


「ギルドとしても、子どもを前線に出すわけにはいきませんから」


それは、もっともだ。


「でも」


リナは、少しだけ声を落とした。


「荷物持ちなら、条件付きで登録できます」


「にもつもち」


「ええ。

 前衛の冒険者の後ろで荷物を運んだり、

 素材を預かったりする仕事です」


戦いそのものには、あまり出ない役目。


「もちろん、それでも危険はあります。

 ですが、訓練用や見習いとして、若い子が登録する例もあります」


リナは、俺の顔をじっと見つめた。


「アレン坊ちゃまは……荷物、運べそうですか?」


その問いに、口が先に動いた。


「にもつなら、どんだけでも、はこべます!」


言った直後、少しだけ後悔した。

でも、もう遅い。


リナの口元が、かすかに引きつる。


「どんだけでも、ですか」


その声の後ろから、低い声が重なった。



カウンターの奥から、

大きな影がぬっと現れる。


がっしりした体格。

短く刈った髪。

顔に走る、一本の古い傷。


「ギルド長……」


リナが、小さく肩をすくめた。


バルド・グレン。

この街の冒険者ギルドをまとめる男だ。


「いや、威勢のいい声が聞こえてな」


バルドは、ずかずかと近づいてくる。


「アレン・ハルトシュタイン坊ちゃまだったか」


「……おぼえてる?」


「領主様と一緒に来てたからな。

 忘れてたら、俺のほうが怒られる」


そう言って、カウンター横の椅子にどかりと腰を下ろす。


「で。

 どんだけでも運べる、だと?」


「おもたいのも、がんばる」


「ふむ」


バルドの目が、面白そうに細くなった。


「なあ、リナ」


「はい?」


「倉庫に、余ってる荷物があったよな」


「ええ……鉱石の袋がいくつか」


「ちょうどいい」


バルドは、にやりと笑った。


「坊ちゃんに、その“どんだけでも”を見せてもらおうじゃねえか」


「ギルド長、それは――」


「倉庫の中だけだ。

 外には出さねえ」


「荷物持ちを名乗るなら、

 まずは荷物を運んでもらわねえとな」


胸の奥が、ぽうっと熱くなる。


これは、試されている。


「やる」


即答だった。


「よし」


バルドが立ち上がる。


「試験だ。

 アレン・ハルトシュタイン」


名前を、はっきり呼ばれた。


「どんだけでも運べるってのが、どれほどのもんか――

 ギルド長として、きっちり見せてもらおうじゃねえか」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ