表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
1章 ハルトシュタイン辺境領編 ― 初級魔法の少年
10/81

第10話 「冒険者になる!」

五歳を迎える少し前のある日。

俺は、初めて「街」という場所に、きちんと足を踏み入れた。



馬車の窓から流れていく景色が、いつもとまるで違う。


屋敷の周囲に広がる畑や森ではない。

石畳の道が続き、木や石でできた建物が並び、看板が風に揺れている。

人と人の間を縫うように荷車が進み、どこもかしこも、動いている。


「今日は、ギルドにも寄るからな」


向かいの席で、お父さんがそう言った。


「ぎるど」


その言葉を聞いただけで、胸の奥が、わずかにざわつく。


前の世界で、何度も目にしてきた単語だ。

冒険者ギルド。

クエストボード。

酒場併設。


物語やゲームの中で、何度も当たり前のように見てきた存在。

それを――現実として目にする日が来るとは、正直、思っていなかった。



ギルドの建物は、街の中心近くにあった。


分厚い石造りの壁に、長年使われてきたことが分かる重そうな扉。

二階建ての建物は、周囲より少しだけ存在感がある。


扉が開いた瞬間、音が一気に流れ込んできた。


金属がぶつかる乾いた音。

誰かの笑い声。

怒鳴るような呼び声。

紙をめくる音と、椅子を引く音。


そのすべてが混ざり合って、ひとつの「生きている空間」を作っている。


カウンターの前には、武器や防具を身につけた人たちが並んでいた。

受付では、忙しそうに書類をさばくお姉さんたちが声を張り上げている。


「報酬の受け取りはこっちでーす!」

「今回の素材、少し高く買い取れますよ!」

「おいおい、また派手にやられたな」


疲れた顔で笑う人。

怪我をして、仲間に肩を貸されている人。


……本当に、動いてるんだな。


物語の背景じゃない。

画面の中でもない。


目の前で、人が命を削って稼いで、帰ってきている。

それが、当たり前の場所として存在している。



奥のほうで、お父さんがギルド長らしき人物と話している。


「いつも世話になっている」

「今度の森の調査は……」


どうやら、領地とギルドの仕事の話らしい。


俺はその横で、ただ、視線をあちこちに巡らせていた。


壁には、依頼書がぎっしり貼られている。

討伐、護衛、採取、調査。


前の世界の俺は、会社と家を行ったり来たりするだけだった。


たまに飲みに行って、

たまにコンビニに寄って。


冒険は、いつも画面の中にしかなかった。


せっかく二回目があるなら――

一回くらい、自分で「選んだ道」を歩いてみたい。


そんな気持ちが、胸の奥で、静かに形になっていく。



「アレン、どうした?」


隣にいたルークが、俺の顔を覗き込んできた。


「め、めが、きらきら……って、にーさまが、いってた」


自分で言って、ちょっと照れる。


ルークは小さく笑った。


「まあ、ここは男の子のロマンが詰まってる場所だからね」


「ろまん」


「強くなって、魔物を倒して、お金を稼いで。

 仲間と飲んで笑って……そういうのに憧れた人は、たくさんいる」


ルークの視線は、少しだけ遠くを見ていた。


でも、俺は知っている。


この人は、領地を継ぐ。

剣も勉強も、全部そのためだ。


兄貴が前に立つなら、俺は横で支える役でもいい。


それも悪くない。


でも――


全部、人に決められた場所に座って終わるのは、嫌だ。


二周目なのに、

また流されるだけで終わるのは、さすがに勘弁してほしい。



その日の夕食は、街帰りということで、少し豪華だった。


みんなが食べ終え、場が落ち着いたころ。

俺は、決めていた言葉を口にした。


「おとうさま」


「ん?」


「ぼく、しょうらい――」


一拍置いて。


「ぼうけんしゃに、なりたい!」



一瞬、空気が止まる。


お母さんが目を瞬かせ、

ルークがぽかんと口を開け、

セバスが静かに眉を上げた。


「……そうか」


最初に口を開いたのは、お父さんだった。


「ゆ、ゆめですけどね!?」


慌てて、お母さんがフォローに入る。


「アレン、まだ四つですもの。

 危ないことは、ちゃんと大人になってからにしなさいね?」


「もうすぐ5つ」


なぜか、そこを訂正してしまう。


「そういう問題じゃありません!」


お母さんが、半分笑いながら突っ込んだ。


ミーナが、後ろで小さく「ふふっ」と笑う。



「まあ、いいじゃないですか」


ルークが肩をすくめる。


「夢くらい、持たせてあげましょう」


そう言って、俺の頭をぽんと叩いた。


「まずは体力と剣の基礎からだね」


「けん!」


「冒険者は、足腰が弱いと話にならないから」


少しだけ意地悪な笑み。


でも、嫌じゃない。



お父さんは、ゆっくりと口を開いた。


「冒険者は、かっこいいことばかりじゃない」


怪我をした冒険者たちの姿が、脳裏に浮かぶ。


「だから、なりたいなら、

 その現実も、ちゃんと見ておけ」


「……うん」



その夜、ベッドの中で、今日の出来事を思い返す。


子どもの夢、扱いだよな。


それでもいい。


今回は、ちゃんと「言えた」。


ここまでで、俺がちゃんと使えるようになった魔法は――


火は、《ウオーム》と、表面だけ焦がす《スコーチ》。

水は、《ウオーター》と、霧を出す《ミスト》。

土は、《小さい穴》と、土をどろどろにする《アース》。

風は、《ウインド》。

光は、《ライト》と、かすり傷を癒やす《ヒール》。

闇は、《ダーク》と……ちょっとだけ臭い《悪臭》。


どれも、初級ばかり。


でも――

お湯も出せる。

布団も乾かせる。

影絵だってできる。


だったら、

この初級だらけの道具箱を持って、

一歩くらい外に出てもいいよな。



英雄じゃなくてもいい。

派手じゃなくてもいい。


自分で選んで、

自分で歩く。


それが、俺の冒険だ。


俺は、小さく拳を握りしめて、

そっと目を閉じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ