9 兄の話
そこからの半月は夢を見ることもなく、トラブルに見舞われることもなく、平穏に過ごしていた。
あれからロイ様とは手紙の交換を始めた。父が派遣した教師たちによって勉強と剣術を始めたそうだ。今まで学院で最低限しか習っていなかったが、勉強が出来る環境が整いとても楽しいようだ。
彼が王都の学院に入学できたのはエフィン公爵が出しているからだ。最低限しかお金を出していないので、今まで彼は平民と同様に過ごしていたと聞いた。
エフィン公爵家とブラジェク伯爵家の関係性は一体どういうものなのだろうか。普通は親族同士の繋がりがあったりするのだが、二家には親族の繋がりはない。
エフィン公爵家がブラジェク伯爵の面倒を最低限見ている理由。父も何か気づいていたようだし、私の夢の中でもエフィン公爵家が何か絡んでいるように思える。
ああ、くっそう。肝心な時に夢の続きが見れていないなんて。なんか悔しい!
「フラン、ロイ君の家に行ってみる気はないか?」
私がいつものように中庭で見習い侍女たちと利き茶をしていると、ラルド兄様が声を掛けてきた。
「ラルド兄様がロイ様のことを気にするなんて珍しいわね。何かお金が絡むことがあるの?」
「妹よ、俺が金にがめついだなんて思っていたとは心外だな。俺は妹のためを思ってこうして言いに来たというのに。それはさておき、ロイ君にちょっかいをかける女がいるらしいんだ。フランとしても嫌だろう?」
そう言いながら従者に椅子を用意させ、胡坐をかくように隣に座った。
「まあ、確かに。わかったわ。伯爵家に向かえばいいのね」
「ああ、頼んだ」
ラルド兄様は笑顔でそう言うと、私が持っていたカップを取り、香りを確かめたあと、一気に飲み干した。
「少しぬるい。リラーク国、ドゴールの茶葉だな」
「アルライド領のカンエイで採れる茶葉ね」
私と兄様の答えが違うのはいつものことだ。
「フラン様、正解です」
侍女がそう言うと、兄様はにこりと微笑み、カップを置いて立ち上がった。
「さすがフランだな。いいところまでいったと思ったが」
「ドゴール産の味に近いけれど、この温度では苦みが出てしまうの」
「さすがは我が妹だな」
兄はそのまま仕事に戻っていった。兄様がわざわざ蹴散らしてこいってことは裏があるに決まっている。
はあ、とため息を一つ吐いた後、アーシャに頼んで手紙を準備し、彼に持っていくよう指示をした。
「今日の利き茶はここまでね」
私の言葉に見習い侍女たちは頭を下げて戻っていく。
午後にはロイ様から『フラン嬢に会えることを楽しみに待っている』と返事が来ていた。




