33 ようやく帰国
港の食堂から聞いた話ではしばらくは穏やかな日が続くようだ。
私たちは船内の予約していた部屋に入った時、ロイ様が心配そうに声を掛けてきた。
「フラン嬢、大丈夫かい?」
「……ロイ様。心配ありがとう。私は大丈夫――」
私がそう言い終わらないうちにロイ様はぎゅっと私を抱きしめた。
「無理しないで。大丈夫、きっと上手くいくから」
「……そう、ですね」
彼の体温を感じ、気が張っていたことに気づいた。私は見上げると自然と彼に口づけをした。
「フラン嬢!?」
彼は赤面し、焦ったようにすぐに距離を取った。
「ふふっ。驚いたロイ様も素敵です。ありがとう。自分ではいつも通りだと思っていたけれど、いつの間にか気が張っていたことにロイ様は気づいてくれたわ。それだけで私を見ていてくれている。私は本当に嬉しい」
私は先ほどロイ様がぎゅっと抱きしめたように私もからかい半分でロイ様に近づこうとした時、アーシャが止めに入った。
「お嬢様、そこまでです。旦那様からお嬢様が暴走しそうになったら止めるように指示が出ております」
「アーシャ。暴走なんてしていないのに」
私はそう言いながらソファに勢いよく座ると、ロイ様も隣に座り、アーシャは果実水を準備してくれている。
ロイ様の従者も頷いて、アーシャの手伝いをしている。
父もアーシャたちも私を何だと思っているのよ、失敬しちゃうわ。
「フラン嬢が元気になってよかった」
「それにしてもこの船は大丈夫なの? エフィン公爵の手の者がいないといいんだけど」
私がそう呟くように言うと、アーシャが答えた。
「ロイ様、フラン様。この船の乗客はもちろん全ての船員、その家族も含めてエリオット陛下が確認しているため問題ないようです」
「あら、いつの間に」
「フラン様が書類を頂いている間、執事の方が伝えてくれました」
「アーシャ、ありがとう」
「何から何まで本当にありがたいわ。私たちもしっかりとしないといけないわね」
そうして船も無事にイェシュティア国に到着した。
私たちは数日ぶりに地上の土を踏みしめたところ、ノール男爵家の従者と腕の立つ騎士が小隊と言えるほどの人数で私たちを迎えた。
「ロイ様、フラン様、お帰りなさいませ」
「キコ、わざわざ出迎えてくれたのね」
「説明は馬車でします。すぐに王宮へ向かってください」
私がそう言うと、すぐに従者のキコは馬車に乗るように私たちを促した。キコの様子や護衛の数からみてもエフィン公爵に動きがあったように思える。
私とロイ様は目を合わせ互いに頷いた後、急ぐように男爵家の馬車へと乗り込んだ。
馬車に乗り込むとすぐに馬は軽快な足音を立てながら街道を走っていく。
「……で、キコ。今はどういう状況なの?」
「実はお嬢様たちが出国したと同時に旦那様はエフィン公爵の不正が書かれた書類を王宮へ提出しました。
そこから取り調べをするためエフィン公爵は貴族牢へ送られたのですが、エフィン公爵家の者が各所に兵を向けて王都や周辺の領地は混乱状態となっています」
「貴族たちの動きは?」
「旦那様の知らせで準備をしていた貴族たちは既に対処に当たり、大方は討伐が済んでいるようです。我が家にも襲撃がありましたが、万全の体制を取っていたため、数名の怪我人のみで済みました」
「よかった。それにしても各所に襲撃、ね。
一か所に兵を集中させないということは不正に関する証拠隠滅と見た方がいいのかしら。だとすれば私たちは相当危ないわね」
「ここに来るまでに相当数の残党を討伐し終えているので王宮までの道は比較的安全に行けると思われます」
「……そう」
父は十二分に、と言えるほどの準備をしてきたのだろうから大丈夫だと思いたいわね。
現在公爵は貴族牢にいるのなら私たちが持っている書類には気づいていないはず、よね。
公爵家の跡取りはキャロライン嬢しかいないもの。
彼女が襲撃を指示する?
いくら彼女が直情的でも王宮や貴族に兵を差し向けるなんて考えられない。
この襲撃は夫人が動いているのだろう。彼が捕えられた時に指示はあったのかもしれない。
だが、そう考えると腑に落ちない点もある。
夫人もキャロライン嬢よりかはマシという程度の我儘な人だったはずだ。
やみくもに襲撃している?
それとも何かの意図があるの?
「キコ、襲撃者は我が家が一番多いの?」
「いえ、我が家は一番少ないないと思われます。王宮への襲撃が一番大規模だったのではないでしょうか」
「王宮? 公爵を助けるためなんだろうか」
ロイ様は疑問を口にした。
「いまだ城から公表されておりませんが、漏れ出る情報からは公爵の救出するためということは聞こえておりません」
「他に襲撃された貴族に何か繋がりはあるのかしら。ロイ様の家は大丈夫だったの?」
「はい。我が家からブラジェク伯爵家の方を警護させていましたが、襲撃はありませんでした」
「目的が全く見えてこないわね」
「ノール男爵家が狙われた理由は公爵家の不正を報告したからだよね?」
「きっかけは、ってことかしら。とにかく私たちは王宮に書類を届けることだけを考えましょう」
「そうだね」
私たちは襲撃に気を付けながら王宮へと急いだ。




