28 とある男とその従者(他者視点)
扉をノックする音が聞こえてきた。
「入れ」
黒髪で仮面をしている男は短くそう言うと、一人の男が部屋に入ってきた。
部屋には仮面を付けた男が大きな机の前に座り、護衛の男が壁際に一人立っているだけだ。
「旦那様、ノール男爵がエフィン公爵の不正を暴く書類を王宮へ提出したようです」
男は足を組み、葉巻を燻らせている。
「……エフィン公爵か。こちらの準備が整うまでエフィン公爵家にはもう少し働いてもらいたかったんだが」
「エリザ様は特別会員になっております。公爵が捕まれば公爵家内に王宮からの調べが入り、こちらの情報が漏れるのではないでしょうか」
「ああ、そうだな。仕方がない。エリザを呼べ」
「畏まりました」
従者と思われる男は一礼し、部屋を出て行った。
しばらくして従者の男は一人の女性を連れてきた。
「旦那様、エリザ・エフィン公爵夫人をお連れしました」
「ああ、入れ」
エリザ夫人は事情が呑み込めていないのか、突然の呼び出しに不機嫌な様子を示しながら部屋へと入ってきた。
「アロイド様、いくら貴方様であっても突然の呼び出しは困るわ」
「エリザ夫人、私は貴女に大事な知らせをするために呼んだんだ」
夫人は腕を組みながら男の前に立ったままだ。
「あら、そこの従者は気が利かないのね。席くらい用意しなさいな」
従者は夫人の言葉を無視するように扉の前で控えるように立っている。仮面の男はエリザ夫人の言葉を抑えるように口を開いた。
「エリザ夫人、いいか?」
「アロイド様、何かしら?」
「先ほど、ノール男爵がエフィン公爵の不正の証拠となる書類を王宮へ提出したそうだ」
「……え」
エリザ夫人は驚いてぴたりと動きを止めた。
「既に王宮から公爵家に騎士が向かっているだろうな」
「アロイド様、それは本当ですか!? 私は、どうなるの!?」
エリザ夫人は震えだし、今にも持っていた扇を落としてしまいそうだ。
「エフィン公爵の不正が暴かれたら公爵は毒杯を飲むことになるのは確実だ。君も贅沢な暮らしをしてきただろう? 捕まれば君も毒杯だ」
「……嫌よ! 私は悪いことなんて何もしていないわっ。もとはと言えば先代が悪いのよ! 私たちのせいじゃないわ!! どうしたらいいのっ!? 私はこんなことで死にたくないわっ」
取り乱す夫人を横目に男の口元はにたりと笑っている。
「エリザ夫人、いい考えがある」
「アロイド様っ!!」
「王宮に向けて兵を出すんだ」
さすがの夫人もその言葉に動揺している。
「……えっ。そ、それでは我が家が王に歯向かうことになりませんか?」
「だが、このままだとエフィン公爵家の借金をブラジェク伯爵家の借金に付け替えていることや収入の不正、我が倶楽部への出入りなどばれるのも時間の問題だ。貴女の痴態が世に広まるがいいのかな?」
「それは、困るわっ」
「エフィン公爵家の不正を行っていた書類は押収され、王宮にある。王宮に兵を差し向けて不正の証拠を取り戻すんだ。そして公爵を助け出せ」
「だけどっ……」
「例え失敗しても君は公爵が『助け出せ』と指示が出ていたといえばいい。それに不正の証拠を取り戻してさえいれば、どうとでも言い逃げできるだろう?公爵は無理だが、君は毒杯からは逃れられる」
「そ、そうですわねっ」
男は優しい口調でエリザ夫人に話をする。
「エリザ夫人、気を付けるんだ。君を嵌めようとしている貴族がいる」
「……まさかっ」
「ならどうしてノール男爵が情報を持っている? 誰かが彼に情報を売ったんだろうな」
男がそう言うと、エリザ夫人は先ほどまでの震えは消え、怒りで扇を握りしめた。
「許せないわっ。私を嵌めようだなんて! 情報を渡した家には痛い目に遭ってもらわないといけないわね。アロイド様、教えて下さりありがとうございます」
「ああ、構わないさ。君は私の特別≪★だからね」
「嬉しいわっ。こうしていられない。アロイド様、私、失礼するわ」
「エリザ夫人、無事を祈っている」
エリザ夫人はくるりと向きを変え、急ぐように部屋を出て行った。
「ククッ。馬鹿な奴だ。さて、こちらもそろそろ逃げるか」
「畏まりました」




