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祖父

祖父と会ったのは、

イギリスに来て

三日目だった。


午前中。


家の中に、

知らない気配が増えた。


ドアの音。

靴音。


私は、

リビングの端で

座っていた。


「帰ってきたよ」


お父さんが、

そう言った。


入ってきた人は、

背が高かった。


白い髪。

黒縁メガネ。


目は静かで、

鋭すぎない。


「こんにちは」


日本語だった。


少しだけ、

イントネーションが違う。


「……こんにちは」


声が、

小さくなる。


祖父は、

それを気にしない。


「僕、

Theodore」


そう言って、

少し笑った。


「Theo、

呼んで

いいよ」


「日本語、

少し

話せる」


そう言って、

また笑った。


「母、

妻、

日本人だった」


過去形。


でも、

説明しすぎない。


祖父は、

私の前に

しゃがんだ。


目線を、

合わせる。


「キキ」


名前を、

正しく呼んだ。


それだけで、

少し安心した。


「ここ、

君の家」


「遠慮、

いらない」


言い切りだった。


でも、

押しつけじゃない。


「写真、

好き?」


聞かれて、

首を横に振る。


「撮られるの、

どう?」


少し考えてから

答える。


「……嫌」


白い髪。

赤い目。

白い肌。


写真に残ると、

それが

はっきり見える。


自分が

みんなと違うことが、

はっきり分かる。


祖父は、

うなずいた。


「分かった」


それで、

終わり。


カメラは、

出てこなかった。


昼。


祖父は、

お父さんと

短く話す。


英語。


私は、

ほとんど分からない。


でも、

空気は穏やかだった。


祖父は、

時々

私を見る。


観察する。


でも、

悪い気はしない。


その目が、

やさしかったから。


被写体として

見られていないと

わかったから。

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