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何も知らない一時帰国

日本に帰ると聞いたとき、

特別な気持ちはなかった。


イースターホリデー。


学校は、

二週間ほど休みになる。


「少し、日本に行こう」


お父さんはそう言った。

仕事の都合だと、

あとから付け足して。


「すぐ戻るから」


その声は、

いつもと同じだった。


だから、

深く考えなかった。


エマに伝えた。


「イースターは、日本に行く」


「そうなんだ」


短い返事。


でも、

ほんの一瞬だけ、

目を見開いた。


「戻ってくる?」


「うん」


「よかった」


それだけで、

終わった。


二週間は、

短いようで、

長い。



会えないと思うと。


祖父に見送られ、

日本に着いたのは夜だった。


久しぶりの、

日本の家。


部屋は、

きれいだった。


ときどき人が入って、

整えているのを知っている。


生活の匂いは、

薄い。


荷下ろしをする。


それだけで、

することがなくなる。


「寒くない?」


お父さんが聞く。


「……大丈夫」


それで、

会話は終わる。


部屋は、

すぐ静かになった。


夜。


移動の疲れで、

すぐに眠くなった。


ベッドに入る。


天井を見上げる。


イギリスの部屋を、

思い出す。


向こうは、

天井がもっと高かった。


だから、

声がよく響いた。


次の日。


朝は、

静かだった。


学校はない。

予定もない。


カーテンを開けると、

春の光が入ってくる。


「今日は、少し出るね」


お父さんが言う。


「仕事?」


「……まあ、ね」


言葉を探すような、

間。


「留守番、できる?」


「できる」


「なんかあったら、

いつでも電話して」


そう言って、

スマホを渡される。


「え?」


「日本にいる間、

一人にさせちゃうことも

多いから」


お父さんは、

少し意地悪な顔をして、


「変な使い方、

すんなよ」


「……しない」


少しだけ、

嬉しかった。


車の鍵を持って、

お父さんは出て行く。


ドアが閉まる音。


午前中。


することがない。


テレビをつける。


画面には、

知らない芸能人が笑っている。


音だけが、

部屋に流れる。


内容は、

頭に残らない。


昼。


いつもの、

ランチの時間。


冷蔵庫を開ける。


お父さんが作ってくれた、

具沢山のミネストローネ。


いつ買いに行ってくれたのか、

近所の美味しいパン屋さんの、

私がよく食べていた

クロワッサン。


あんまりお腹は

減っていないと思ったけど、


温めて広がった匂いに、

食欲がそそられる。


一人で食べる。


少し寂しいけど、

美味しいのは変わらない。


午後。


本を開く。


数ページで閉じる。


宿題をする。


スペルを間違えて、

消す。


エマなら、

すぐ気づくだろう。


そう思いながら、

なんとか終わらせる。


夕方。


外が、

少しずつ暗くなる。


イギリスより、

夜が早い。


ドアの音。


お父さんが帰ってきた。


「おかえり」


「ただいま」


声が、

少し低い。


二人で、

夕食の準備をする。


珍しく、

お父さんは静かだった。


会話は、

ほとんどない。


「明日も、出る」


お父さんが言う。


「仕事?」


「……そう。

ごめんね」


私はうなずく。


それ以上、

聞かなかった。


いつもと様子が違う。


でも、

大人だし、

仕事は大変なんだろうな、

と思った。


食事は、

静かに進む。


お父さんは、

ときどき私を見る。


何か、

言いたそうな顔。


でも、

何も言わない。


「ごちそうさまでした」


夜。


お風呂に入って、

布団に入る。


お父さんが持たせてくれた

スマホを眺める。


画面に、

自分の顔が映る。


イギリスに戻ったら、

エマと連絡先を交換しよう。


そう思いながら、

スマホを置いた。


休みは、

まだ始まったばかり。


静かな時間だけが、

続く。


私は、

何も知らないまま。

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