双子
病室は、
昼でも薄暗かった。
カーテン越しの光が、
壁に滲んでいる。
少年は、
椅子に座ったまま、
黙って母を見ていた。
母は天井を見つめたまま、
ゆっくり息を吐く。
「……サキ」
名前を呼ばれて、
サキは小さくうなずく。
「もう、
時間がないから」
「……あんた、
一人じゃない」
唐突だった。
「双子だった」
「女の子」
母は、
間を置かずに続ける。
「……姉」
サキの胸の奥で、
何かが音もなく崩れた。
「名前も、
つけた」
その一言で、
空気が変わる。
母は、
少しだけ視線を逸らして言った。
「キキ」
「……あの子の名前」
言い訳はしない。
事情も語らない。
ただ、
確定した事実だけ。
「産んで、
名前をつけて」
「……それでも、
育てられなかった」
母の声は、
震えていなかった。
だからこそ、
重かった。
「施設の前に、
置いた」
「……名前を書いた紙も、
一緒に」
サキは、
しばらく黙っていた。
怒りも、
混乱も、
言葉にならない。
代わりに、
ひとつだけ聞いた。
「……どこ」
母は、
震える手で紙を取り、
住所を書いた。
「△△市」
少しだけ、
間。
「……〇〇児童養護施設」
「ここ」
「会いに行くの?」
母は、
少しだけ
声を和らげて聞いた。
サキは、
答えなかった。
紙を折って、
ポケットに入れる。
母は、
最後に言った。
「……キキは」
「生きてる」
それだけで、
十分だった。
病室を出ると、
廊下は明るい。
何も変わっていない。
でも、
サキの中では、
はっきり決まった。
キキという名前の人が、
自分の姉だ。
母が名前をつけて、
それでも捨てた場所に、
姉がいる。
行かない理由は、
なかった。




