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二月から二月へ

二月某日。


外は、

まだ寒かった。


窓の外の空は、

早く暗くなる。


ダイニングのテーブルに、

大きなケーキが置かれた。


白い皿。

銀色のフォーク。


ろうそくは、

十一本。


「さあ、

準備はいいか!」


祖父が、

笑いながら言う。


私は、

少しだけ

椅子を引いた。


「……そんなに

盛り上げなくても」


「何を言ってる。

十一歳だぞ」


お父さんが、

真面目な顔で言う。


「大事な年だ」


理由は、

よく分からない。


でも、

二人とも

楽しそうだった。


ろうそくに、

火がつく。


小さな炎が、

十一本。


「じゃあ、

いくぞ」


祖父が、

お父さんを見る。


お父さんが、

うなずく。


二人で、

歌い始めた。


ハッピーバースデー。


ハーモニーが、

きれいに重なる。


お父さんの声は、

低くて安定している。


祖父の声は、

少し高めで

伸びやかだ。


途中で、

祖父が

アドリブを入れる。


お父さんが、

少しだけ笑う。


でも、

歌い続ける。


私は、

顔が熱くなるのを

感じた。


恥ずかしい。


でも、

嫌じゃない。


歌が終わる。


拍手。


「さあ、

吹き消して」


祖父が言う。


私は、

息を吸って、

一気に吹き消した。


煙が、

ゆっくり上がる。


「おめでとう、

キキ」


お父さんが、

静かに言った。


私は、

うなずいた。


ケーキを切る。


お父さんが、

ナイフを入れる。


プレートには、

私の名前だけが

書かれている。


"Happy Birthday Kiki"


施設では、

同じ月の子たちと

一緒だった。


だから、

これは

初めてだった。


お父さんが、

皿に取り分ける。


祖父が、

フォークを並べた。


ケーキは、

甘すぎなかった。


「おいしい?」


お父さんが聞く。


「……うん」


しばらく、

他愛のない話をする。


今日の天気。

学校のこと。

夕方に見たニュース。

ボードゲーム。


特別なことは、

ない。


でも、

時間は

ゆっくり流れていた。


食べ終わる。


皿を下げる。


祖父は、

先に部屋に戻った。


「おやすみ、

キキ」


短い声。


私は、

自分の部屋に行く。


ベッドに入る。


布団は、

少し冷たい。


でも、

すぐに

慣れる。


今日は、

誕生日だった。


お父さんと、

祖父と、

過ごした。


それだけで、

胸の奥が

ほどけていく。


目を閉じる。


そのまま、

眠った。



————夜。


キッチンの灯りだけが、

まだ点いている。


テーブルの上には、

空になった皿と、

出しっぱなしのボードゲーム。


コーイチは、

それを片付けながら、

時計を見た。


今日は

キキも夜更かしだ。


スマホが、

震える。


見覚えのある番号。


施設。


コーイチは、

一瞬だけ

動きを止めてから、

出た。


「……はい」


向こうの声は、

落ち着いていた。


施設の名を、

名乗る。


それだけで、

コーイチは

背筋を伸ばした。


「夜分遅くに

申し訳ございません」


丁寧な声。


「まず、

キキちゃん、

お誕生日

おめでとうございます」


その一言で、

今日という日が、

もう一度、

胸に戻る。


「ありがとうございます」


コーイチは、

短く答えた。


「本日、

日本では昨日にあたりますが、

お誕生日当日に

こちらに……」


少しだけ、

間。


「キキちゃんの

双子の弟さんを

名乗る方が

いらっしゃいまして」


コーイチの手が、

止まった。


「サキ、

と名乗られました」


双子。

弟。


その言葉が、

ゆっくりと

意味を持ち始める。


「お顔立ちも、

キキちゃんに

非常によく似ていました」


少しの間。


「詳しいことは、

メールにて

改めて

ご説明させていただきます」


電話は、

その後

結びの一言二言を

交わして終わった。


画面が、

暗くなる。


コーイチは、

しばらく

動かなかった。


家は、

静かだ。


キキは、

眠っている。


今日は、

誕生日だった。


ここでは、

ちゃんと

祝われた。


同じ日に、

同じ誕生日を迎えた

もう一人の存在を、

まだ、

知らないまま。


コーイチは、

灯りを消した。


静かな家に、

二月の夜が、

残った。


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