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わたしの名はリアファリナ、シリアスってトゲエルフのキャラだっけ?
やっと夕ご飯ですっv
作ったスープはミネストローネ風ですよ。
あくまでそれっぽいという別物。なんでとか聞かないでっ
わたしはスープを全員に配ると、
「暖かいうちに食べてねv それでは、いただきますっ。」
そう言って、皆の呼吸が合ってなくても食べ始めるわたし。
これは家族でも無ければ仲良しクラブでも無いよ、というわたしの無言のメッセージだ。
さあって、夕ご飯を食べながら今後の予定を立てようかな。
実は『探知』に10分ほど前から引っかかってる推定人数7名がここから300mほど
向こうの森の中にいるのよね。
わたしはこの推定7名をあえて皆に知らせてない。
もちろん、向こうが敵対行動を具体的に取り始めたなら告げるつもりだ。
それまでは、このパーティーメンバーのお手並み拝見です。
わたしの予想ではこっちは6名だし馬車もある。
もしかしたら魔法を使っている所も見られたのかも知れない。
襲ってくるなら寝静まった夜中だろう。
「ね?ファリナ。」
「なーに?ニア。」
「さっき詠唱せずに魔法唱えてよね?」
「うん、使ってたね。わたしが創った魔術式なのっv。」
「「 あなたが創った? 」」 あ、シャイアもハモった。
「どうやって詠唱せずに魔法を発現してるの!?」 とニア。
「それは秘密。わたしが魔法を使うのは自由に見て良いよ。でもやり方は教えない。」
「あら残念だわ。でも・・・それならじっくり見せてもらうわね。」
「はいはーい。でもわたしもニアの魔法には興味あるから、ふふふふふ。」
わたしは他の誰かと魔法について語り合った事はこれまでにない。
わたしの魔術式は"知識"を基にしてはいるものの、その動力源や発動のキーとなる部分は
精霊術が占めている。
例えばこの伊達メガネ。キーボードが見えているのは、精神の精霊を利用した幻覚なのだ。
見えているのは『気のせい』と紙一重なのである。
"生きた鎧"がある程度の自己判断力を持つのは、精神の精霊を利用して創り出したわたし
の2重人格部分で鎧のリモコン制御を行っているからに過ぎない。
わたしの主人格の裏側で勝手に動いているから独立しているように見えるだけだ。
実はこれはとても危険な魔術なのだ。
幻覚という物が見えるだけで実害が無いと知ってなければ、精神の精霊との最初の接触で、
戯れに見せられた幻覚から傷つけられ、閉じ込められ、心の暗闇から抜け出せなくなって
しまうだろう。
精神の精霊にはいくつもの種類が居るが、そのどれもが、最初の接触で自己崩壊するか、
精霊を制御できるかに分かれる。極端を言えば、ライブオアダイなのだ。
エルフの仲間内では精神の精霊との接触は禁忌だった。
だから他人に非詠唱=伊達メガネの秘密を教えるつもりは無い。
生半可で付け焼刃な知識で接触すれば結果はあきらかだ。
「なぁ、ファリナ。」おっと次の質問者はカズヒサね。
「なぁに?カズヒサ。」
そう返事すると、カズヒサは真剣な顔をして、
「さっき、気になることを言ってたよな。」
「気になること?」 わたしはカズヒサが何を言うか大体予想していた。
「ラブラブ光線、それに、バカヒサだよ。」
「うん、それが何?」
「とぼけるなよ、光線って言葉はこっちの世界に無い。それに『バカなカズヒサ』なら
自動的にこっちの言葉に変換されて意味が通じるってのはさっき教えてくれたよな。
でも、『バカヒサ』は固有名詞だ。こっちの言葉には変換されない。
確かめたのさ。光線もバカヒサも、ニアはじめ誰も理解できてない。
意味が通じたのは俺だけだ。」
「へー?それで?ただの聞き間違いかもよ?」
「まだあるさ、左腕につけてる宝玉ブレスレット。それの表面に文字が浮き出てるよな。
俺はこっちの字を読めないからオーリスに頼んだんだ。
料理してるファリナの隣で、オーリスがその文字を読み取って教えてくれた。
ついでに、文字が変化するタイミングで指を立ててもらったんだ。
変化時間を俺がストップウォッチで計るためにね。
この世界には時計が無い。朝日が昇る時と、正午、それに夕日が沈む時に教会の鐘が鳴る
だけだ。正午を12時とした時に、今は俺の時計で6時30分だ。
なんで時計が無いこの世界で、俺の時計とファリナの宝玉の文字がほぼ一致するんだ?
なんで1分の長さがどちらもほぼ同じなんだ?」
「ファリナは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・ファリナは、俺の世界を知ってるんじゃないのか?」
「へー?ずいぶんカシコイことしてくれるじゃない。」
「まぁな。これでも帰るために必死なんでね。」
わたしとカズヒサの間に擬音を入れるとしたら、『バチバチバチッ」だろうか?
それとも『ズゴゴゴゴゴ』だろうか。
わたしが何も言わないでいると、答える気が無いと思ったのだろう、
カズヒサは頭を下げると、
「頼む!俺が帰る方法を知っていたら教えてくれっ。頼む、頼むっっ、頼むよ・・・・」
わたしは必死に頭を下げるカズヒサを見つめ、ふと自分が両肩を抱いているのに気付いた。
この季節、日が暮れてしばらくすれば涼しいを通り越し、まだ肌寒い。
『全自動』を見ると、すでにカズヒサの学生服は乾燥まで終って宙に浮かんでいた。
わたしは立ち上がって風の精霊が宙に保持している学生服を手に取ると、
「わたしは向こうの世界に行く方法をたった一つしか知らない。」
そう言って学生服を、頭を上げてわたしを見る半裸のカズヒサに押し付けて、
夕ご飯の後片付けをするために動き出す。
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ぬことよ。」
背後で、ニアとオーリスが息をのんだのが伝わってきた。
誰も何も言わない。わたしの『水球』を使った御椀を洗う音だけが響く。
残念ながら、ワレモノを『全自動』する術はまだ敷居が高く完成していないので手洗いだ。
ふと気になってカズヒサを見ると、
カズヒサは学生服をじっと、何かを考えながらじっと見ている・・・・
「ワタナベ」 ニアはそう言ってカズヒサの手から学生服を優しく取り上げ、
背後に廻って学生服をカズヒサの肩に掛けてから抱きしめる。
少し涙目ながら、それでもしっかりカズヒサにすがりついてるその姿を見てると、
ニアのカズヒサへの思いの強さが伝わって来るようだ。
カズヒサはニアの手を取り、口を開きかけ
しかし、何かを言う前にまた口を閉じ、手を離した。
そうしてから、おもむろに学生服の袖に手を通しながら、わたしに話しかける。
「良い匂いだな。ライムに似てる。さんじゅうきゅ。」
それを聞いたわたしは、やっぱり神の術って凄いんだけどどこかマヌケだなぁと思いつつ。
「You are welcome.」と返事を返した。
その後、静けさをやぶったのは、シャイアだった。
バシンッ と自分の両ほほを叩いて、
「うんっっ ねぇ?ファリナ?」 とわたしに話しかける。
「はいなー?」
「ねぇねぇ、さっきの洗濯だけどさ、もしかしたら、人相手にも出来るの?
こう、水の玉が浮かんでたじゃない?それに飛び込んで泳げたりできるのかな?」
「出来るわよー、ふふふっ お風呂の魔術式があるのさっv。」
「やった!! ねー、後で入らせて! やっぱり汗臭いままで寝るのは。。。ね?」
「良いわよー。」
すると、そこへ、
「よっし、じゃその前にイヤな事は片付けちゃおう! 盗賊が数人森にいるのよ。」
オーリスはそういうと、弓を手に取り、森と逆方向へ歩いていく。
「たぶん7人よ。」 わたしはオーリスの背中にそう声と『体力セット』を掛けた。
ニアは、わたしがそう言うのを聞いて、こちらを見る。
わたしにはギラリと擬音が聞こえるんだけど。。。
「人数まで判ってたんなら教えて欲しかったわね。もしかしてわたくし達を試していた?」
「人聞き悪いわよ。お手並み拝見よっ。」(必殺エルフスマイル!)
「まぁ良いわ、でも、次からはちゃんと教えてね。」 ちぇっニアには通じないや。
「それはそれとして」わたしはカズヒサに向き直り「殺せるのかしら?」と言った。
「やるさ。」 全っ然、やれるように見えないカズヒサはそう言いながら武具を学生服の
上に身に着け始めた。
「そう、ひとこと助言すると、相手はカズヒサを絶対殺すつもりで来るわよ。
女性5人は生かしたまま捕らえるつもりだろうけど、カズヒサだけは殺すわね。
そして、わたしはいい歳しといて殺すつもりで来る相手に次の機会なんてあげる
つもりはないわ。生かして帰せばいつか自分に災いが降りかかるだけ。
分別つかない事への責任は彼ら自身に帰結すべき問題よね。」
そうしてわたしは、『魔力セット』と『体力セット』それに『風の護り』をここにいる
全員に掛けた。
いま構想中のグループ補助魔法が完成してないのが内心、滝涙だった。
あーもー、なんでわたしってばもっと早くグループ魔法創っておかなかったんだろう!!
「これも全ては空気をよまない盗賊達が悪い!」
わたしは怒りを盗賊達にぶつけることに決めましたっ
ニアとシャイアは、「「これ凄い(ですっ)」」と大興奮していた。
「いいわよっ。」とわたしが声を掛けるとカズヒサとルーが森へと一直線に走り出す。
あっと言う間に森までの半分を走り、すると『探知』している7人にも動きが出る。
どうやらこちらの動きを知り、迎え撃つようだ。
敵が森から姿を現す。なんで出てくるんだろう?
こっちが女ばかりだからって舐めてるわね。
「ディー・フロー・エルアライン・リー・アローテ、
猛き炎よ魔力を糧に敵を撃て!『ファイアーボール』」
ニアの先制攻撃が、出てきた敵の先頭3人ほどへ襲い掛かり二人を吹き飛ばすのが見えた。
へーーーーーー、あれがニアの魔術式なんだぁ。
もう盗賊なんてどうでも良いわよっ いまのわたしはニアの魔術式を解析するのに夢中だv
ニアがさっき走り出す前にいくつか魔術式を展開しているのは見えてた。
そして走りながら、それらの魔術式が周囲から魔力を集め球状になるのも感じてた。
どうやらその球状の魔力に、発現直前行った詠唱をもって炎を纏わりつかせ、
火球と成したようだった。
「でも、それだけなら狙った場所に誘導するための式が抜けている。
あ、そうか、詠唱の第2節の構造体が盗賊達の座標ポイントに対して・・・第4節で生み
だした爆圧効果を第5節が高めて、第1節の・・・・が、・・・で爆発の威力を・・・
なるほどっ、だから第3節が・・・となってたのね、でも、それなら・・・ぶつぶつ。」
そんなことをしていたら、カズヒサが敵と接敵するのが見えた。その直前、
「ヒュン」と音がすると同時に敵の最後尾の男が矢で倒れる。
シャイアだ。迂回して横手から襲い掛かったのだ。良いタイミングね。
盗賊達は魔法と弓で先手を打たれ、あきらかにまごついていた。
そして、
カズヒサが両手剣を腰だめに水平に構えた瞬間、両手剣は白くまばゆく輝く!
「せいっ」カズヒサが掛け声と同時に剣を横に振りぬくと、白いエフェクトが宙を走る!
バシッ。。。と音が鳴ったと思う、良く判らない。
もしかしたら、わたしの頭の中でだけ効果音が鳴ったのかも知れない。
気付くと、立っていた3人が6つに分かれて居た。
直後ルーがまだ立っている最後の一人を剣で倒した。火球に耐えた一人だ。
それで、この戦闘は終わりだった。
「・・・・大丈夫?ワタナベ?」シャイアがカズヒサに声を掛けている。
「・・・・・あぁ。」カズヒサは剣を背中の鞘に戻すとそう力なく答える。
「ワタナベ、無理しないで。」ニアが近づきながらそう言う。
カズヒサは自分の手のひらをじっと見つめている。
・・・・こいつって事有る度に何かをじっと見て浸ってる事が多いわよね?
なので、わたしは言った。
「カズヒサ?ママーっヘルプミーって泣けば、わたしの胸を貸してあげても良いわよ?」
そう言うと、カズヒサは顔をわたしに向け、いぶかしげに見た後、ふっと薄く笑った。
「どうせ上げ底だろ?」
ぎゃふん!なななな、なぜ解った!
「おお・おまっ な・な・なっ。」
カズヒサはわたしをほっといてニアに向き直ると、
「もう、大丈夫さ。 さぁこんな所からさっさと場所を移動して休もうぜ。」
女性陣4人を連れて馬車へと戻って行く。
人が去ると元々何もない静かな森である、静寂が戻ってくる。
わたしは何も言わず『闇牙』を起動し、俯けで倒れている男の背中を撃つ。
火球で吹き飛ばされそのまま倒れていた一人だ。
男はビクビクンッと動くがすぐに動かなくなった。
『闇牙』は黒いレーザー光線で、当たれば神経細胞にダメージを与え、
確実な死を相手にもたらす単体相手の殺傷用魔術式だ。
そして『水球』を作り、続いて水霊操りでまだ燃えている火を消化する。
それが済むと、わたしは歌の形式をとった魔術式を詠った。
『死は次なる生に続き 体は朽ちても魂は次なる世界へと旅立たん 貴方の次なる人生に
優しさと喜びが訪れ そしていつかこの世界へと還り 永久となることを願わん。』
男達の遺体は地中深くへ沈み、速やかに大地に還ることになるだろう。
わたし達はこうして世界を循環するモノなのだから。
わたしが馬車に遅れて戻ると、カズヒサは馬車にもたれたまま、
「よくわからんヤツだな。いったいお前はなんなんだ?」
「ただのトゲエルフなんじゃない?」
馬車を少し移動させ、そこで再度野営の準備を行った。
わたしの『お風呂セット』は大きめの『水球・お湯バージョン』の周りを『識別妨害』で
中が見えなくした作りになっている。そう、摺りガラス&モザイクさっ。
女性陣はお風呂の中へ入ってしまえばお湯の中が見られないことに気をよくし、カズヒサ
を首だけ出して挑発していた。
「ワタナベ~♪ せっかくだし一緒に入るか?」とルー。明らかにからかいムードだ。
「ワタナベ、あまりじろじろ見ちゃイヤよ。」とニア、なんか嬉しそうだ。
「女性の誘いをむげにするなんて神のご意思に反しますっ」とシャイア、どんな神なの?
「どう考えてもチャンスだろ(ニヤニヤ)」とオーリス。
わたしも一緒にお風呂に入ってるんだけど・・・・わたしはカズヒサから一番離れて、
女性陣の陰に隠れてカズヒサの目から逃れていました。
カズヒサってば、まぶたの上を指で押さえながら、お風呂のお湯をガン見してたから。
むむむ、カズヒサ、やるなっっ。